2011/04/09

この夏の輪番停電(操業)で何が起きるか

このところテレビや新聞などの大手メディアに、専門家でもなんでもない「反原発活動家」が登場して、放射性物質汚染の恐怖を煽りまくっています。パニックで二次災害が起きて死者がたくさん出たら、それも東電や政府に責任をなすりつけるのでしょう。

彼らの多くは常々「原発をすべて止めても電力はカバーできる」と言い続けてきました。もういきなり嘘だったことが判明しているわけですが、そのことを誰も問い詰めようとはしません。「止まっている時計も1日に2回、正確な時刻を示す」という言葉があります。「事故が起きる」と言い続けていれば、いつか当たるかもしれない。当たったからといって、他のすべての言動が正しいとは限りません。

電力需要のピーク時は7月末〜8月初めごろのもっとも暑くなるお昼過ぎで、ピーク時に必要な電力を供給できなければ停電が起きるので、電力会社はそれに合わせて発電施設に投資します。日本の電力需要は夏冬と春秋で倍近くも差があり、昼夜でも大きな差があるので、電力需要の低い時期には多くの発電施設は遊んでいることになりますが、ピーク時にはフル稼働に近い状態で、どこかでトラブルが発生したときに備えてバックアップのために老朽化した火力発電を残しているだけになります。原子力は電力需要の25%を担っているので、これで原発を止めてカバーできるわけがありません。

東電管内の真夏のピークは平均で5500万kW、2010年のような猛暑では6000万kWになることが予想され、東電はガスタービン発電などの新設で4650万kWまで供給可能としています。平年並みなら15%、猛暑なら23%足りないことになります。

政府は、全閣僚で構成する「電力需給緊急対策本部」で、今夏、大口需要家への電力使用制限令の発動や家庭への節電要請により、計画停電を実施しないことを決めました。東電の場合、約7割が工場など大口需要家、約3割が一般家庭で、大口需要家に節電を求めた方が効果的との判断でしょう。しかし、日本はエネルギーコストが高いので、国際競争にさらされている大手企業の工場などは極限まで省エネが進められています。節電を求められても照明を消すぐらいしかすることがなく、結局は操業を停止するしかありません。

経団連は自主的に「節電計画」作成を進めています。自工会は、たとえば工場の休業日をトヨタは日月曜日、日産は火水曜日、ホンダは木金曜日とズラす「輪番操業」を検討してます。しかし、トヨタとマツダは東電管内にほとんど生産設備がないので、ホンダと日産だけが割を食う形になりかねません。電機や半導体、鉄鋼などは一度工場を停止すると再稼働まで日数がかかるので、かなり難しいとされています。百貨店やスーパーなどは順番に休業日を作ることが検討されています。

輪番操業が仮にうまくいったとしても、休業が増えるわけで、工場やスーパーなどで時給で働いている非正規社員の給料は大幅に減ります。正社員は補償されていますが、ボーナスは確実に減るでしょう。経団連は電力消費25%削減を目標にしているので、大雑把に言えば操業が25%減って給料も25%減ることになります(企業側がどこまで人件費に転嫁するかによりますが)。これで何が起きるかと言えば、「デフレ」です。今は日本全体が自粛ムードに包まれているので、モノを製造しても仕方がないと思うかもしれませんが、労働者の給料まで減れば、デフレを加速することになるでしょう。

今年はもはやどうしようもないですが、火力発電所を建てるにしても1年やそこらではとうてい無理です。電力を自由化して、民間から発電事業への参入を募る必要もありますが、来年以降も輪番操業が続くなら、いよいよ工場の移転が始まります。従業員を引き連れて西日本に移転するならいいですが、海外に移転すれば失業者が増え、下請け企業の倒産も起きます。景気と失業者数、自殺者数は明確に関連があります。私は「自殺者が増える」と予想します。
景気、失業者数、自殺者数の変動幅の推移
つまり、「風が吹けば〜」みたいな話ですが、電力が供給されないと死者が増えるということです。

私は、政府に対して「企業が西日本や北海道(東電、東北電力以外のエリア)へ工場を移転する際の優遇策」を提言します。税金免除でも補助金でもいい。関東圏から工場と人が減れば、少ない電力で賄えるようになります。大阪に首都を移転するという案も考えてみる必要があるように思います。

2011/04/03

原発のスイッチを入れよ

福島第一1号機が爆発する映像を見て、こんな映像が日本中に流されたらもう日本で原発の新設はおろか、定期点検で止められていた原発の再起動も認められず、現在運転中の原発もすべて停止されることになるのではないかと思いました。
事故が起きてから3週間、私は「果たして日本は原子力利用抜きでやっていけるのだろうか」と考え続けました。しかし、やはり無理だとの結論に達しました。

このまま計画停電が続けば、関東地方の大企業の本社オフィスや製造工場はどんどん逃げ出します。従業員を引き連れて西日本に移動するならマシですが、かろうじて日本に踏みとどまっていた製造工場は海外への移転を選択するでしょう。失業者が増え、経済は失速します。日本の年金は貯蓄型ではなく、若者が高齢者の年金を負担する賦課型なので、これも早晩破綻するでしょう。日本全体が沈没しかねない事態です。

実情を知らない人はのんきに「風力や太陽光で原発を代替しろ」と言いますが、日本では不可能です。ヨーロッパやアメリカなどの大陸国と違い、日本は山岳地帯が多く地形が複雑なので、風向が安定せず、風力に向いていません。洋上に出れば風が安定しますが、日本の沿岸の地形は、遠浅のデンマークなどと違って水深が一気に深くなるので、建設コストが跳ね上がります。太陽光も単位面積当たりの発電量が少ないうえ、雨が多い国なので、やはり向いていない。再生可能エネルギーとしては実は地熱や水力が一番向いているのですが、温泉地になっている地域では温泉の湧出に影響が出るとして地熱に大反対で、日本の大河川にはすでにあらかた水力ダムが建設されています。

もし無理やり原子力を風力と太陽光で代替すれば、電気代は2倍ぐらいになるでしょう。普及させるために多額の補助金を出せば、それも負担として跳ね返ってきます。火力で補うにしても、ニュースではほとんど報道されていませんが、原油価格はすでに1バレル108ドル(4月1日)に達しています。石油が上がれば、天然ガスも石炭も連動して上がります。

電気代が2倍になっても一般家庭の場合は他を切り詰めて何とかできるでしょうが(消費が冷え込んで景気が悪化しますが)、企業の場合はそうはいきません。ただでさえ日本は、人件費や土地が高く、エネルギー資源を輸入に頼っているため、エネルギーコストも高いわけですが、電気代が2倍になればやはり工場は日本から逃げ出します。

これまで私はBlogで、半分夢みたいな話を将来への期待として書いてきました。電池が安くなればこんなことが可能になるよ、と。しかし、今回の震災でそんな悠長なことは言っていられなくなりました。日本は沈没しかねない危機的状況にあります。

今発売されているSAPIOで、森永卓郎氏は「原発のスイッチを入れよ」と提言しています。私もまったく同意です。仮に将来的に代替するにしても、今は動かさざるをえない状況だと思います。

今回の福島の事故では、地震で排気筒のクレーン操縦室に閉じこめられて亡くなった作業員の方はおられますが、原子力事故による死者は今のところ一人も出ていません。大量に被爆した作業員が将来的にガンを発症する可能性はありますが、周辺地域の人々は避難しているので、ほとんど影響はありません。4月2日のNHKニュースで、放射線医学総合研究所が被爆による発ガンリスクの上昇率を発表していましたが、避難地域以外で放射線レベルがもっとも高い福島県飯舘村で、今の状態が3か月続くと仮定した場合(まだ3週間)で0.1%上昇(乳幼児は0.25%)、東京の場合で0.02%上昇するとのことです。発ガンの原因は食生活(というより食べ物そのもの)と喫煙が最大で、そもそも日本人の半分はいずれガンを発症するので、この程度の上昇を気にしても仕方がないのです。今の東京より自然界からの放射線レベルがはるかに高い地域は、世界中にいくらでもありますし、飛行機で海外旅行をする方がはるかに多くの被爆をします。

事故による経済的な損失は数兆円単位になるでしょうが、人的被害は意外にも少ないのです。原発と同じ文明の利器である自動車やバイクによる交通事故で死ぬ人は年間5000人です。この60年間に約60万人もの人々が交通事故で亡くなっています。それでも私たちは平気で自動車に乗っているわけです。

計画停電で信号が消えて交通事故が起き、死亡事故も起きました。夏場に計画外の事故的な停電が起きれば、病院等で亡くなる方も出てくる可能性もあります。熱中症で亡くなる高齢者も出てくるかもしれません。

今夏の計画停電で、電力がどれほど重要なものかを日本人は思い知ることになるのでしょう。そしかしたら「リスク」に対する意識も変わるかもしれません。今はそれに期待するしかないような気もします。何よりも作業員が怪我をすることもなく、福島の事故が一刻も早く終息することを願ってやみません。