2011/06/22

「エアコン切って原発止めろ」は強者の論理

菅首相は国会の会期を70日延長し、是が非でも「再生可能エネルギー買い取り法案」を可決させるつもりのようです。菅首相の“盟友”である孫正義氏は韓国に行って、李明博大統領と会談していました。いったい何が目的で訪韓したのでしょう。まさか韓国製ソーラーパネル調達のためではないですよね。

で、当の法案ですが、すでに経産省が作成し、国会に提出されることになっています。
「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案について」
これを読むと「やっぱり官僚は一枚上手だ」と感心します。これに菅首相は政治生命を賭けてもいいのでしょうか。

今回の大震災と福島の原発事故は、政治家を見分ける踏み絵になりました。菅首相は震災前から能力を疑われていた人で、私は逆に、この大災害を機に“化ける”んじゃないかとほんの少し期待していましたが、残念ながらかつての市民活動家のレベルまで幼児退行しただけでした。

橋下徹府知事も馬脚を現した一人でしょう。ニュースで、関電からの節電要請を断ったと聞いたときは耳を疑いましたが、これ(下記)には怒りすら覚えました。

橋下知事、背景板も変え強調「エアコン切れば原発止まる」 MSN産経ニュース

毎年、熱中症で何人死ぬと思っているのでしょうか。
熱中症死者数は昨年の10・4倍/7〜9月間の死者167人 四国新聞
猛暑だった昨年は7〜9月の3か月間で、5万3843人が病院に搬送され、167人が亡くなっています。高齢者のなかには熱帯夜でも「電気がもったいない」とエアコンを切って寝て、熱中症で亡くなる人がけっこうおられます。橋下府知事は間違った節電法を広めているわけです。原発を止めるためなら高齢者が死んでも構わないと言っているのも同然で、まぎれもなく“強者の論理”であり、これほど人命を軽んじた知事がかつていたでしょうか。もしエアコンを切っても足りなかったらどうするのでしょう。

橋下府知事は、耳障りのいい言葉を並べて空想を語るだけで何ら現実的な具体策を立てようとしません。何か起きても「陰謀論」を振りかざし、すべて関電や政府に責任を押し付けるのでしょう。ポピュリズムも極まった感があります。

それに比べ、石原都知事は「花見の禁止」だのよけいなことも言いますが、都議会での所信表明では、過剰なエネルギー消費の見直し(要するに節電)とともに、「電力供給への不安により産業が停滞し空洞化することを防ぐため、首都圏の電力自給能力を高めてまいります。これに極めて有効な天然ガス発電所の新規な建設に向け、民間とも連携し行動を開始いたします」と、天然ガス火力の建設を進めるとしています。知事がやるべき仕事ってこういうことじゃないのでしょうか。

菅首相や橋下府知事らに決定的に欠けているのは、「リスクマネジメント」という概念です。我々の周りにはさまざまなリスクがあり、危険度に応じて優先順位をつけ、対策をしていくべきだという考え方です。ジャーナリストの宮島理氏は以下のような記事を書かれています。

反原発派はマイカー全廃に賛成を

「子供の命を守れ」というなら、マイカーを全廃した方が早いという主張です。交通事故で年に5000人ぐらい亡くなっていることは、私も以前書きましたが、自動車排ガスが小学生の喘息の原因になっていることも厚労省は認めています。
車の排ガスで小学生のぜんそく増加 国、関連性認める asahi.com
喘息の原因は排ガスだけではないものの、気管支喘息の死者数は年間3000人ぐらいとされています。原発のリスクより自動車のリスクのほうがはるかに大きいのです。

『リスクにあなたは騙される 「恐怖」を操る論理』(ダン・ガートナー著 田淵健太訳 早川書房)はリスク評価を学ぶのに非常にいい本で、これを読めば頭のいい人なら目が覚めます。プロローグに書いてあることを簡単に紹介します。

911テロでは航空機がハイジャックされたため、事件後、テロを恐れて航空機の利用者が激減しました。しかし、心理学者のゲルド・ギゲレンザー氏が調査したところ、交通手段を航空機より事故に遭うリスクがはるかに高い自動車に変えたことで、交通量が急増し、911後の1年で交通事故の死者は1595人も増えたそうです。リスク評価を間違えるとかえって被害を拡大することになるわけですが、恐怖にかられると人は論理的な判断ができなくなるのです。

橋下府知事は「原発事故が起きて死者が出るリスク」を過大に評価し、「エアコンを切って高齢者が熱中症で亡くなるリスク」や「大停電が起きて交通事故や病院の事故で死者が出るリスク」、「関西経済圏が沈没して失業者が溢れ、自殺者が増えるリスク」などを過小に評価しています。そういうリスクがあることに気づいていないのかもしれませんが、橋下府知事は頭のいい人なので、むしろすべてわかっていてこういう判断をしている可能性もあります。もし福井県に原発の再稼働をお願いして何かあれば自分の責任にされますが、節電や停電で大阪府民が死んでも政府や関電に責任を押し付けることができるからです。自分が一切責任を負わないですむ選択肢を選んでいるように見えなくもありません。もしそうだとしたら、もはや大阪府民の命を脅かす最大のリスクは「橋下府知事という存在」になるかもしれません。

2011/06/19

孫正義氏の構想の現実性

ソフトバンクの孫正義氏は、太陽光発電で原発を代替すると主張していますが、それは果たして実現可能なのでしょうか。

孫氏は、「太陽光発電のコストは原発より安い」と主張し、自治体を巻き込んで「関西広域連合」を組織し、メガソーラーを事業化して(ソフトバンクの約款を改正して同社の事業に発電事業を加えています)、菅首相に働きかけて全量買い取りさせようとしています。孫氏は「40円/kWhで20年間買い取れ」と言っていますが、これは火力の発電コストと比較しても4〜5倍の価格です。

孫氏の計画は、自治体から遊休地を借り受け、2万kWのメガソーラーを10基建設するというものです。これでどれだけ電力を生み出せるのかというと、設備容量は2万kW×10基で20万kW分ですが、太陽光発電の稼働率は日本の平均で12%なので、実質2.4万kWとなります。原発は1基100万kWで稼働率は70%なので実質70万kW。とすると、原発1基の29分の1にしかなりません。たった29分の1でも、建設にかかる費用は莫大です。四国電力のメガソーラー「松山太陽光発電所」の建設費用は、1kWあたり約70万円とのことなので、20万kW分の投資額は1400億円ぐらいになります。

もしメガソーラーで原発1基分を賄おうとすれば、2万kWを290基建てる必要があり、投資コストは4兆円に達します。原発40基分ならなんと160兆円。日本の国家予算規模で、これを“空想”と呼ばずになんと呼べばいいのでしょう。

反原発派の人々はよく「原発開発に投資してきたお金を自然エネルギーに投資していれば……」と言いますが(実際には相当な額が投資されていますが)、同じ額を太陽光発電に投資したとしても、原発の10分の1の電力も得られないのです。今後は事故被害の補償や安全対策で原発の発電コストが上がることは間違いありませんが、発電コストが逆転することは当分ありえません。風力は17円/kWhとされていてまだマシですが、なぜ孫氏は風力を推さないのでしょうか。日本各地で低周波による健康被害が起きていて、民間発電事業者の多くが実は補助金頼みで、発電で収益をあげるのが難しいことを知っているからかもしれません。

では、この発電事業でソフトバンクは儲かるのでしょうか。孫氏がどのような事業形態を想定しているのかは不明ですが、仮にソフトバンク1社でこの事業を手がけた場合、どれぐらいの利益が出るのかを算出してみます。

メガソーラー計20万kWで稼働率12%とすると、年間の発電量は、
200000(kW)×24(h)×365(日)×0.12=210240000(kWh)
1kWhあたり40円で売れば、
210240000(kWh)×40(円)=8409600000(円)=約84億円
年間の売り上げは約84億円で、20年間で約1680億円になります。
投資額は1400億円なので、20年で280億円の利益が出ます。

現実にはインバータなどの交換や修理などのメンテナンスコストがかかりますが、一方で家の屋根に設置する場合と異なり、更地に建設するメガソーラーは隣のビルに太陽光を遮られるようなことがないので、稼働率は上がるはずで、自治体から遊休地をタダで借りるなら建設コストはさらに下がるはずです。ですから、20年で280億円、1年あたり14億円という金額は妥当なところではないでしょうか。

これは“ぼろ儲け”といってもいいでしょう。全量買い取りで利益が確実に見込めるので、銀行は喜んでお金を貸します。建てるだけでお金が入ってくるのですから、こんな楽な商売はありません。

しかし、この1680億円を誰が負担するのかというと、電力会社が20年かけて分割して支払うわけです。電力会社は発電コストが上がれば電気代を上げますから、結局は国民が負担することになります。孫氏が利益を増やすために中国や韓国のメーカーから安いソーラーパネルを購入したりすれば、日本経済に対する経済効果はほとんどゼロです。しかもメガソーラーは雇用をほとんど生みません。税金なら公共事業に使われて日本経済に還元されたりしますが、国民のお金がただただ吸い上げられて中国や韓国に流れていくとしたら、税金よりはるかにタチが悪く、国民に負担がのしかかるだけになります。

「太陽光の発電コストは40円/kWhよりもっと安い」と反論する人がいるかもしれませんが、それは的外れです。孫氏が「40円/kWhで買い取れ」と言っているのです。実際はもっと安かったとしても、国民が負担するのは40円/kWhをベースにした金額で、発電コストが下がって儲かるのはソフトバンク。文句があれば孫氏に言うべきでしょう。

実際のところ、20万kW程度で収めるのであれば、電気代にも電力系統にも大した影響は与えないでしょう。これだけで急に電気代が高騰するわけではありませんが、発電量は原発1基の29分の1にしかならず、代替にはほど遠い状態です。とすると、孫氏は発電事業の利益を新たなメガソーラー建設に投入していくつもりなのかもしれません。そうなると買い取り量がどんどん増え、国民負担は増加していきます。

以前書いたように、太陽光発電のような出力の不安定な電源を「大量に」電力系統につなぐには、同じ容量分だけバックアップの火力発電が必要になります。「夏の昼間のピーク時に、日本中で雨が降ると太陽光発電の電力供給がすっぽり抜け落ちるので、代わりに電力を供給する電源が必要」という話を理解できない人はいませんよね。太陽光発電を導入して原発を止めるわけですから、既存の火力はフル稼働で、結局は原発分と同じ量の電力を発電できるだけの火力発電所を新たに建設しなければならなくなるのです。

もし太陽光で脱原発をするのなら、太陽光発電の電力を高額買い取りしながら、実際には原発分の火力発電所を新規建設しなければならず、しかも原子炉を廃炉にしていくわけですから、これで電気代が高騰しないわけがありません。電気代が高騰すれば日本経済は失速し、国民は高い電気代を負担させられ、その一方でソフトバンクがぼろ儲けすることになります。こんなことが許されていいのでしょうか。

ヨーロッパでも風力の電力を買い取る場合、大資本の参入は規制されているのが一般的です。高い電気代を負担するのは一般市民で、それで大企業がぼろ儲けすると不公平感が生まれるからです。ですから、高い電気代を負担する市民からの出資を集めて風車を建て、電力を買い取り、その利益が市民に還元されるというしくみになっています。大資本がどんどん参入して風車を建てまくると、一般市民は高い電気代を負担するだけになるのです。

仮に孫氏が市民出資の方式を導入したとしても、派遣や契約で働いているような貧しい若者は、何十万円もの出資などできないでしょう。一般家庭でソーラーパネルを設置できるのも一戸建ての持ち家に住んでいる人に限られ、賃貸住宅やマンションに住んでいる人は設置できません。金持ちは発電で儲けられるようになり、一方で底辺にいる貧しい若者たちは仕事を失い、高い電気代を負担させられて、ますます貧しくなります。貧富格差が拡大するのです。まあ、それ以前にメーカーの工場がみな海外に逃げ出して、原発を止めても電力は足りるようになっているでしょうが。

私は、孫正義という人は電力システムについて(かなり)不勉強なだけで、基本的には善意で動いていると思っていました。しかし、この構想は危険であるだけでなく、孫氏の“善意”に疑いがかけられても仕方がないものだと思います。電力の安定供給が約束されている状態であれば、少々ラジカルな方策も受け入れられますが、今はダメです。

まともな学者に聞けば、誰もが原発を代替できるのは「天然ガス火力(コンバインドサイクル)」と「節電」だと言います。シェールガスという非在来型の天然ガスが実用化されたからです。今のような緊急時に、空想で物事を進めるのは非常に危険だと思います。孫氏は「日本経済を崩壊させたA級戦犯」として歴史に名を刻みたいのでしょうか。

2011/06/16

日本は「脱原発」の道を歩み始めたのだから

これほど反原発の空気が広がっては、日本ではもう原発の新規建設は不可能でしょう。日本がこの状況で新規建設という選択をするほど「大人の社会」だったら、むしろ驚愕します。新規建設ができないということはどういうことかというと、炉が老朽化すれば廃炉していくほかないわけで、必然的に日本は「脱原発」の道を歩み始めたのです。

そもそも事故の前から、東大をはじめとする日本中の大学で原子力工学科は不人気のため次々に消滅していて、人材の補給もままならなくなっています。これで新規建設が止まれば、何十年か後にやっぱり建設すると言っても技術は失われているでしょう。海外での受注も今回の事故で減るかもしれません。GEやウェスチングハウスのように、東芝、日立、三菱重工は原子力部門をアレバやロスアトムなど海外企業に売り飛ばすかもしれません。

反原発派の人々にこう言っても無駄かもしれませんが、すでに「脱原発」は既定路線になったわけで、それで十分じゃないですか。ドイツやイタリアと違って日本は海外から電力を輸入することができないのです。それなのに「今すぐ全基停止」なんてしたら、日本中で電力不足が起き、多くの国民が計画停電でひどい目に遭います。電力不足で日本企業の工場が海外に逃げ出すと書きましたが、その多くは都市部ではなく地方にあります。原発を止めるのなら、そこで働いている何千人もの職員も雇用を失います。発電しないのなら電源交付金などの補助金もなくなるでしょう。ゆっくりと進めるならまだしも、急にストップすれば地方経済に大打撃を与えます。

そうなると逆に「やっぱり原発は必要だ」という方向に進んでしまうのではないでしょうか。「再稼働も認めない」というラジカルすぎるやり方は、むしろ逆効果になるような気がします。

2011/06/15

朝日新聞記事「私の視点 原発なき電力供給は目前」について

朝日新聞6月11日付けに国際エコノミストの齋藤進という方が「私の視点 原発なき電力供給は目前」という題の寄稿をしています。asahi.comにはアップされていないので、リンクが張れませんが、ネットで探せばどこかに全文がアップされているはずです(下記の安井至先生のページにもあります)。

原発がなくても電力供給の問題はすぐに解決できるという内容ですが、この記事について、環境問題が専門の安井至・東大名誉教授(製品評価技術基盤機構理事長)が、間違いを指摘されています。

「原発なき電力供給は目前」のウソ 2011.06.12 市民のための環境学ガイド

齋藤氏は、
「「原子力発電所を全部止めれば、電気が足らなくなるし、電気代も上げざるを得ないー」。これが現在のところ、大方の日本人が抱いている常識かもしれないが、私の回答は「否」である」
と述べていますが、その論拠としている話が間違いだらけであると。
具体的な中身については安井先生が上記ページで検証されているので、そちらを読んでいただきたいのですが、少々難しい話もあるので、理解の助けになるよう、ここでは「要するにどういうことか」を簡単に補足してみます。

最大の間違いとして挙げられるのは、齋藤氏は年間を通じた発電量から換算して「原発を止めても足りる」としている点です。しかし、今、問題になっているのは「夏場のピーク時の電力供給が足りなくなる」ということです。実際にこの4月、5月は足りていて、火力発電所の一部は停止しているわけです。日本では春や秋に比べて夏の電力需要は2倍ぐらいに増えます。要するに、齋藤氏は、春や秋に発電しておいてその電力を夏に持ち越せば「足りる」と言っているも同然なのです。しかし、電力は貯められないのでそれは不可能です。だから、電力会社は、春や秋は発電所の半分ぐらいを遊ばせることになっても、夏場のピーク時に電力を供給できるよう設備投資をせざるをえないのです。夏場の需要を満たすには、リアルタイムに発電して供給するしかないのですが、それには設備容量が「足りない」と言っているのです。

もう一つ、私が目を疑ったのは、「大震災前の操業率は、水力がほぼ100%」と書かれていることです。水力の稼働率が100%などということはありえず、安井先生も「日本の水力発電が、原発の深夜電力を揚水で貯蔵するために使われているということを知っていれば、水力100%という数値を書くとは思えない。やはり、エネルギーについては、専門家ではないと断定できる」と書かれています。水力の稼働率は電気事業連合会の統計によれば、18.8%だそうです。おそらく、齋藤氏は計算間違いをされたのでしょうが、「水力の稼働率が100%」と疑いもなく書けてしまうところが、すべてを語っているように思えます。

「自家発電は安い」としている点についても、安井先生は「送電コストが無いからだ」と指摘されています。電力会社が需要家に供給するには当然、送電コストがかかり、発電費用のおよそ4分の1は送電コストだと試算されています。自家発電の発電コストを電力会社にそのまま適用できないということです。

また、ガスタービン・コージェネについても勘違いがあるようです。ガスタービン・コージェネというのは、ガスタービンで発電し、その廃熱を回収してお湯を沸かすシステムで、両者を合わせれば総合効率は確かに高くなります。しかし、六本木ヒルズのように住居棟を併設していればお湯の用途がありますが、一般企業のオフィスや工場ではお湯の用途がほとんどありません。ガスタービン・コージェネというのはむしろ給湯がメインのシステムで、廃熱を捨てるのであれば、効率は著しく低下します。電力を得るだけなら、大規模なコンバインドサイクル発電の方がはるかに効率は高いのです。

このように多くの誤解に基づく記事なのですが、ネットで検索してみると、この朝日の記事を読んで、ブログに「政府や東電に騙された」と書いている人を見かけます。天下の大新聞に載っている記事ですから、信じても仕方がないでしょう。このところ朝日新聞は、「風力で原発40基分」など、ろくに検証もせず、ありえない空想を撒き散らかして読者をミスリードしています。「脱原発」を主張することに異議を唱えるつもりはまったくありませんが、もう少し現実に即した論を展開してはどうでしょうか。

この夏、本当に15%もの節電が必要かどうかは私にはわかりません。もし冷夏になれば、節電しなくても乗り切れる可能性はあります。ただ、予定された計画停電ではなく、本当に不慮の大停電が起きれば、病院で人が死んだり、突然信号が消えて交通事故が起きたり、熱中症で老人が死んだり、工場の機械が停止して大損害を発生させたりすることが考えられます。天候の正確な予測ができない以上、停電を避けるため、ある程度のマージンを取っておくのは当たり前のことでしょう。

本当にヤバイ状況になったら政府が広報するはずで、日本人は真面目なので、誰もが節電に協力して、停電を回避するだろうとは思います。現実に停電が起きる確率は極めて低いと考えられます。しかし、何年も動かしていなかった古い火力発電所でトラブルが起きて、突然、電力供給の一部が停止する可能性もないわけではありません。

反原発派の人士のなかにも「原発を止めても足りる」と主張している人がいますが、彼らの言説を信じて、国民が「節電する必要はない」と思い、本当に停電が起きて人が死んだりしたらどう責任を取るつもりなのでしょう。原発のリスクは極大に評価するくせに、停電のリスクは無視するという姿勢には、首を傾げざるをえません。

2011/06/13

トヨタが日本から逃げ出す日

これまで書いてきたことが現実になるかもしれません。

トヨタ社長「日本で物づくり、限界超えた」 読売オンライン

トヨタの豊田章男社長が記者会見で、電力供給の不安を理由に「日本でのものづくりが、ちょっと限界を超えたと思う」と述べたそうです。東芝も西日本シフトを検討していましたが、関西も電力不足で「対応をこれから検討する」とのこと。これらは政府やメディアに対する産業界からの「警告」と言えるでしょう。こんな茶番をいつまでも続けるなら、本当に海外に工場を移転するよと。

人件費も電気代も高い日本で、自動車メーカー各社がかろうじて日本に製造拠点を残してきたのは、国内市場がそれなりに大きく、海外からの輸送費や関税を考慮すれば、なんとか国内でやっていけるという判断からです。「日本の雇用を守る」ことで、国内市場の縮小を防ぐ意味もあるでしょう。コスト削減だけを考えれば、日本に残るかどうかはギリギリのところで、実際に日産はマーチの製造拠点をタイに移しています

もしトヨタが国内工場を海外に工場を移転すれば、自由競争の世界ですから、他の自動車メーカーも雪崩を打って追随するかもしれません。そうなれば、自動車メーカーにぶらさがっている下請け企業も、一緒に海外についていくか倒産するかの選択を迫られます。海外移転は家電・電機など他の業界にも波及するでしょう。

日本からメーカーの工場がどんどん海外に逃げ出せば、確かに「原発を止めても電力不足にはならない」かもしれません。その結果、何が起きるのか。産業の空洞化で日本経済は崩壊し、失業率は上昇し、派遣や契約の仕事さえ奪い合いになります。「原発を再生可能エネルギーで代替」しても同じことです。10年やそこらで20%まで増やせば電気代は跳ね上がり、やはり日本のメーカーは海外に逃げ出します。「原発を止めて電力が足りなくなっても、節電して我慢すればすむ」などというレベルの話ではないのです。失業して生活できなくなっても、そんな悠長なことを言ってられるでしょうか。

「節電」が奪うハケンの仕事 震災3カ月、厳しさ増す 日本経済新聞

操業停止ではなく輪番操業であっても、勤務日・時間が定まらないため、派遣会社に人材の手配をできず、派遣会社側も勤務日・時間が不規則なために人を集められないという状況になっているそうです。輪番操業でも大きな影響があるということです。

こういうことが起きるというのは、ちょっとだけ頭を働かせて想像すれば、誰でも気づくことだと思うのですが。

2011/06/09

携帯電話と放射線の発がんリスク

世界保健機関(WHO)が「携帯電話の電波に発がんリスクがある疑いがある」との分析結果を公表しました。14か国の専門家31人が議論し、5つの分類の内、3番目の「発がんの可能性がある」に分類。この議論では、「1日30分以上、10年以上使用すると、神経膠腫(グリオーマ)に罹患する可能性が40%高まる」という報告があったそうですが、明確に証明されたとまではいえないそうです。同じ分類には、「自動車の排ガス」や「コーヒー」、「クロロホルム」などが同程度の発がんリスクがある「可能性が疑われるもの」としてリストアップされています。排ガスやクロロホルムはわかりますが、コーヒーまで疑われているんですね。

GIGAZINEのニュースには、「ヨーロッパの環境庁は携帯電話が喫煙やアスベスト、鉛を含んだガソリンと同じくらい危険であるという研究結果を付け加えた」と書かれていて、「ヨーロッパの環境庁」って何?と思いつつ、「喫煙」と同じというのはちょっと煽り過ぎじゃないかと。

というわけで、今回は放射線被爆はどの程度の発がんリスクがあるのかについて。
産経新聞のサイトに放射能と生活習慣によってがんになるリスクという表(国立がん研究センター調べ)があり、それによれば「毎日2合以上の飲酒」は1000〜2000ミリシーベルトの被爆と同等、「喫煙」と「毎日3合以上の飲酒」はそれぞれ2000ミリシーベルト以上の被爆と同等とされています。100や200じゃないですよ、1000、2000というオーダー。「野菜不足」で100〜200ミリシーベルトと同等。短期的に1000ミリシーベルトも被爆すれば急性放射線障害を起こすほどですが、喫煙習慣はそれ以上です。先日、放射線医学が専門の大学教授にお聞きした話では、「タバコ1本吸うと5マイクロシーベルト被爆したのと同じ」だそうです。私の場合、1日1箱半(30本)吸うので、

5(マイクロシーベルト)×30(本)×365(日)=54750マイクロシーベルト

で、年間約55ミリシーベルト被爆しているのと同じ。喫煙習慣は20年以上続いているので、累積で1000ミリシーベルト超えています。非喫煙者より発がん率が50%ぐらい高まっています。いや、酒も飲むのでほとんど100%か。ということをタバコを吸いながら今書いています。

こういった数字は、広島・長崎の原爆とチェルノブイリ事故の影響調査から算出されたものです。広島、長崎に落とされた原爆で、1000〜2000ミリシーベルトの被爆をした30歳の人が、40年後に被爆していない同年齢の人に比べて、がん発症率が1.5倍になったことや、国連、国際放射線防護委員会(ICPR)が行なったチェルノブイリ事故による放射能汚染の影響調査で、年間10〜20ミリシーベルトの地域では25年経っても健康上の被害が何も見られないこと(ヨウ素131による甲状腺がんを除く)が判明していて、これらのデータとその他のタバコや飲酒、野菜不足などが発がんに寄与する影響を比較して、計算された数字です。この数字を見れば、放射線被爆が発がんに寄与する影響は、非常に小さいことがわかります。「運動不足」や「肥満」のほうが、500ミリシーベルトの被爆より発がんに寄与するのですから。

動物細胞を使った実験では、低線量の放射線でも害があることが確認されていて、それゆえに「わずかな放射線でも人体に害がある」と声高に叫ぶ人がいるわけですが、その一方で人間にはDNAを修復する機能があるとされています。だから、疫学調査では影響が数字に現れてこない。タバコや飲酒など他の要因が大きすぎるので、よほどたくさん放射線を浴びないと影響を確認することはできないわけです。

そもそも日本では自然被爆の量は平均で年1.5ミリシーベルトですが、世界にはブラジルのガラパリや中国の内陸部など年10ミリシーベルトを超えるような地域がたくさんあります。イランのラムサールでは年20〜30ミリシーベルトも珍しくなく、ひどいときは260ミリシーベルトに達するそうです。大気中に放射性物質が漂っているわけですから、当然、内部被爆もします。それで発がん率はイランの他の地域よりむしろ低いのです。まったく矛盾しています。

国立がん研究センター発表の「日本国民の生涯がん羅患リスク」によれば、男性で54%、女性で41%で、がんで死亡する確率は男性26%、女性16%とされています。普通に生活していても日本人の2人に1人はがんになり、その半数は亡くなるということ。がんというのは人間に組み込まれた病気で、どこまでも長生きすればいつか必ずがんを発症します。がんを発症する前に、老衰で死ぬか、他の病気で死ぬか、事故か何かで死ぬかの違いだけ。日本人は寿命が長いので、必然的に発がん率も高くなります。最近ではペットの犬や猫も死因のNO.1はがんになっています。家の中で飼われるようになって寿命が伸びたからです。家電製品でも永久に使い続けることはできないように、人間の体も劣化して誤作動するようになるのです。がんは老化現象の一種と言ってもいいでしょう。

それに、人が死ぬ原因はがんに限りません。前にも書きましたが、今も日本では交通事故で年間5000人も亡くなっています。平均で毎日13人が死んでいることになります。自分の意志で避けられるなら、交通事故なんて起きません。

むしろ「放射能が怖い」と過剰に恐れていると、ストレスは免疫機能を低下させるので、がんになりやすいともいわれています。チェルノブイリ事故では、放射性物質による健康被害よりも、「がんになる」とか「奇形が生まれる」とかいったメディアの過剰報道によるストレスが最大の被害をもたらしたともいわれています。テレビなどで「奇形が生まれる」と平気でしゃべっている人がいますが、「国連科学委員会報告2008年チェルノブイリ事故の放射線の健康影響について」の「ベラルーシの汚染地帯と非汚染地帯の先天性奇形の頻度」を見れば、線量の高い地域のほうが逆に先天性奇形の出生頻度が低いことがわかります。先天性奇形というのは、放射能汚染地域に限らず、どこの国でもある一定の頻度で生まれ、このベラルーシの数値は先進国と同程度か低いぐらいです。

災害時に恐怖を煽れば煽るほど、雑誌はよく売れるというのは出版業界では常識です。実際に恐怖を煽って大幅に部数を伸ばした週刊誌が何誌かあります。この未曾有の大災害のときでも商売優先のようです。

週刊誌の原発報道とどうつき合うか 佐野和美

恐怖に脅えている人々に対して「大丈夫だ」というのと、「大変だ、大変だ、人が死ぬ、奇形が生まれる」と大騒ぎするのとでは、どちらが勇気のいる行為だと思いますか。

2011/06/07

中国の風車は3分の1が電力系統に接続されていない

前回とちょっと関係のある話です。

風力発電拡大に落とし穴、大規模な送電網脱落事故で--中国

専門用語が多いので、簡単に説明します。今年の2月24日に中国・甘粛省の風力発電所で、事故でショート(短絡)が起きて電圧が変動し、300基の風車が一斉に「解列」した。「解列」というのは、電圧が変動すると発電機が壊れる危険が高まるので、系統から切り離して発電機を守るということ。安全装置が働いた状態です。しかし、解列が起きると風車は電力を系統に送らなくなるわけで、電圧はさらに低下し、解列をどんどん引き起こします。結果的に、計598基が解列し、設備容量84万kW分の電力が喪失した。さらに4月17日に同じく甘粛省で702基、容量100万kW分が解列。同じ4月17日には河北省で644基、85万4000kW分が解列する脱落事故が起きたそうです。他にも中国の風力発電所ではしょっちゅう脱落事故が起きているようです。

ヨーロッパでも2006年11月に大規模な脱落事故が起き、危うくドイツやイタリア、スペイン、オランダなど11か国の地域で1700万kW分もの大停電が起きる寸前になったことがあります。その反省から、現在の最新の風力発電機は、電圧が変動しても系統から切り離さないしくみ(LVRT)になっていますが、中国では旧型ばかりで、それが問題になっているということです。

びっくりするのはその次の話で、中国は2010年末時点で風力発電の設備容量が4470万kWに達して世界一になりましたが、その内、電力系統に接続されているのは2956万kW分だけで、1514万kW分が接続されていないとのこと。つまり3分の1は建てただけで、まったく電力を送ってないのです。中国ってすごい国です。

しかし、現状でこれほどしょっちゅう脱落事故が起きているのに、残りを系統につないだりしたら、よけいに大変なことになるでしょう。つなぎたくてもつなげないというのが現実です。既存の風車をLVRTに対応させようとすれば、1基10万元かかり、全土に2万基以上あるので、100億元以上かかると。1元=12.4円で計算すると、1240億円以上。中国はお金が余っているから無問題ですが。

2011/06/04

太陽光・風力発電を大量導入するときの見えないコスト 2

前回の続きで、少々補足をします。
出力が変動する風力や太陽光のバックアップに、火力発電ではなく蓄電池を利用するという考え方もあります。夜間に風が吹き、その電力を昼間に使う、あるいは晴れの日に貯めた電力を雨の日に使う。スマートグリッドの考え方で、蓄電池の導入でバックアップの火力発電をいくらか減らせるかもしれません。しかし、火力発電を減らしてコストダウンできても、蓄電池を導入した分コストアップします。また、蓄電池はそれ自体が発電するわけではないので限界もあります。1週間ぐらいの間、「発電できるほどの風が吹かない」、「雨が降り続けた」、となればそもそも貯める電力がないわけで、結局、火力で代替するしかなくなります。

私はこれまで「電池社会」を提唱してきましたが、それは原発(と大規模火力)という安定供給できるベースロード電源があって、夜間に充電した電力を昼間に使うという構想でした。蓄電池が安くなり、電力供給にある程度余裕がある状態を想定していて、蓄電池が普及すればそこに風力や太陽光の電力も貯めればいいと考えたのです。揚水発電の場合は、ある程度まとまった変動しない電力でないとポンプを動かせないはずで、風力や太陽光の電力を入れるのは難しいですが、蓄電池ならふらふら変動する電力でも吸収できるわけです。もちろん、原発を火力で代替してもこの構図は成り立つわけですが、火力は化石燃料の価格と供給の両面からリスクを抱え込むことになります。この話はちょっと置いておきますが、現在のような需給がひっ迫している状況では、少なくとも蓄電池を導入すれば風力や太陽光が主力になれるというわけではないということです。

その一方で、風力や太陽光を大量導入するためには、蓄電池はやはり必要になってくるでしょう。むしろ蓄電池を利用する理由は、出力変動を抑えるためと考えたほうがいいと思います。電力のシステムというのは需要と供給がぴったり一致した状態に保たないと安定しません。需要に対して供給は多すぎても少なすぎても、停電は起きます。そのしくみについて安井至先生が下記のサイトで解説されています。

3.11以後のエネルギー戦略3

停電までいかなくても、需要に対して供給が多いと電圧と周波数が上がり、少ないと電圧と周波数は下がります。現実には、変動する需要に対して供給をコントロールする必要があるわけですが、供給側に位置する太陽光や風力が変動してしまうわけで、コントロールが非常に難しくなります。太陽光や風力のような変動する電力は、電圧と周波数の変動を生むのです。最近の家電製品はインバータが入っているので、電圧や周波数の変動は一般家庭にはあまり影響ありませんが、企業の製造工場では問題を起こします。製紙工場や繊維工場の糸や紙の巻き取り工程、アルミ工場の圧延工程、石油精製工場の分解・脱硫工程、自動車工場の溶接工程などで品質問題を引き起こすといわれています。日本の電力は品質が高く、ごく稀に起きる電圧や周波数の変動に対して対策するとなると、コストアップの要因になるので、対策をしていない企業も多いのです。電力系統に影響を与えないよう、発電した電力をいったん蓄電池に貯めて、オンデマンドで取り出せるようにすることで、出力変動を抑えようということです。電力の受け入れ先として、電気自動車の蓄電池を利用するという考え方もあります。

結局は、もし大量に導入しようと思えば、バックアップの火力発電も出力変動を抑える蓄電池も必要になるのです。少量であれば問題ないが、大量に入れようと考えると、こういったよけいなコストがかかるということです。今後、日本で原発の新規建設は不可能でしょうから、もはや「脱原発」は既定路線だと言えます。ならば、どうすれば原発を代替できるのかを冷静に議論したいものです。

2011/06/01

太陽光・風力発電を大量導入するときの見えないコスト

1つ前のエントリーで、揚水発電で電力不足分を賄えるかという話を書きましたが、いつのまにか供給量が積み増されていたようです。こういう「いいニュース」は大きく報じられないのですね。

東電5500万キロワット供給へ 夏の電力計画引き上げ

企業の自家発電の余剰電力や揚水発電所の稼働率向上、被災した広野火力発電所の一部復旧で、5500万kWにまで増える見通し。今夏が平年並みの暑さならギリギリ賄える水準です。ただ、東北電力は270万kW不足する見込みで、東電が100万kWを融通するそうなので、東電管内の企業に対しては15%の節電を求めています。25%よりは大幅に減りましたが、輪番操業などは必要になりそうです。

東芝は、東電管内の本社・支社で7〜9月にかけ3週間の夏季休日、東電管内の製造拠点は7〜8月にかけ2週間の夏季休日を設定するそうです。工場は半月休むということで、正社員は給料減らないかもしれませんが、会社側の負担は増えることになり、時給で働いているパートやアルバイトは労働時間が半分になり、給料は半額になるのではないでしょうか。

被災した東電、東北電の管内で電力の需給がひっ迫するのは仕方がないことですが、全国で定期点検のために停止した原発が、地元の反対で再稼働できなくなっているため、電力不足が全国に広がる気配です。

夏の電力切迫の恐れ 全国の原発54基中42基停止も

中部電力は浜岡を停止させられたので、需給がひっ迫し、東電へ電力を融通できなくなり、九州電力では玄界の運転再開ができず、需要ピーク時に20〜25%も不足。四国電力は伊方再開のために周辺の2万1000戸に戸別訪問するそうです。冷夏になれば別ですが、平年並みの暑さなら、全国で計画停電が必要になるかもしれません。私は関西への工場移転を提言しましたが、まさかこんなことになるとは。このままだと関西に移転してもダメですね。

前置きが長くなりました。

今回は、5月下旬に開催されたG8サミットで、菅首相が「2020年代の早い時期に再生可能エネルギーの比率を電力需要の20%にまで高める」「1000万戸にソーラーパネルを設置する」と宣言した件について、少々書きます。

経済評論家の池田信夫氏が以下のような記事を書かれています。

太陽光発電という「課税」

ソーラーパネルを1000万戸に設置するには、補助金と高額な電力買い取りで、国民負担が3兆5000億円増大するとのこと。補助金は天から降ってくるわけではなく、国民が収めた税金ですし、電力会社が高額で買い取れば、そのコスト増は電気代のアップで賄うしかありません。消費税の税収は1%で2兆4000億円ほどなので、1.5%分ぐらいが飛んでいくということです。しかも1000万戸に設置しても電力需要の4%ほどにしかなりません。この宣言について国会での審議はおろか、海江田経産相も「聞いてない」と答えたそうで、鳩山首相のときと同様、菅首相の独断のようです。

実は風力や太陽光の発電コストは上記だけではありません。出力が安定しない風力・太陽光発電の電力を需要の20%まで導入するには、バックアップの電源が必ず必要になるのです。

電力会社は夏場の電力需要のピーク時に合わせて発電設備の投資を行ないます。日本では夏以外の季節には需要は下がるので、多くの発電所は遊んでいることになるのですが、ピーク時に電力を供給できなければ停電が起きるので、そうせざるをえないのです。

しかし、日本では夏場に発電できるほどの強い風が吹かないことが多く、現実に日本の風力発電事業者の発電実績は冬場に集中しています。夏場は戦力にならないのです。一方の太陽光発電は、日中晴れなら発電できますが雨ならほとんど発電できません。一般家庭に導入する太陽光発電の場合は、自家消費でピークカットする効果があるわけですが、雨の日は電力会社から買うわけで需要が増加します。雨の日は気温が下がるので多少需要が落ちますが、企業の製造工場では天気に関係なく製造のための電力需要が発生するし、蒸し暑ければ一般家庭でエアコンが利用されます。東電の場合、企業など大口需要家と一般家庭の比率は7:3ぐらいなので、雨であってもそれなりに需要はあるということです。「雨が降ったので、今日は停電します」というのは、需要家にとってはありない話です。

大量に導入すれば、どこかで晴れていたりどこかで風が吹いていたりするので平滑化されて問題ないというのですが、「日本中で雨の日」はあるし、「日本中であまり風が吹かない日」はあります。いくら気象予測が正確・精密にできるようになったとしても、風が吹かない日は吹かないし、雨が降る日は降るのです。夏場のピーク時に1日でもそんな日があるのなら供給がショートするので、20%分だといっても、結局は代替する電源、すなわち火力発電所を用意しておく必要があります。

ですから、太陽光や風力を大量導入するには、その設備容量と同じ容量だけ火力発電所を建設しなければならないということです。今から順次導入していく分には既存の火力発電所があるのでいいのですが、将来的に火力発電所が老朽化してきたら、風力や太陽光のバックアップのために新規に火力発電所を建設しなければならなくなります。どれほど太陽光・風力が増えても、今と同じだけ火力発電所をもっておくということです。その建設コストも本来なら発電コストに上乗せされるはずなのです。

風力が普及しているヨーロッパでも、火力発電をバックアップに使っています。大陸で風が安定しているとはいえ、予測に逆らって急にパタッとやむことも現実にあります。いくら火力の起動は早いといっても、急な変動には追いつけません。だから、常に炉を炊いてアイドリング状態にしておくのです。量の多少はありますが、発電してもしなくても化石燃料は消費されるということです。炉を炊いているのに発電しないのですから、その燃料コストとCO2排出も本来なら上乗せされるべきでしょう。

つまり、風力や太陽光を大量に導入するには、見えないところでそういったコストがかかるということです。では、なぜ今は風力や太陽光の電力が入っているかというと、総電力需要に占める割合が極めて小さく、入っても入らなくても影響がほとんどないからです。

東大名誉教授の安井至先生は「日本では地熱と中小水力が最有力」とおっしゃっています。一定の電力を安定的に取り出せるからで、代替の火力発電や蓄電池がなくても戦力になるのです。資源エネルギー庁の「エネルギー白書2010」によれば、1kWあたりの風力の発電コストは10〜14円、太陽光49円、地熱8〜22円とされていますが、上記のコストを含めれば、風力と地熱のコストは逆転するのではないでしょうか。

Googleは地熱ベンチャーに1000万ドル投資しています。従来の温泉を掘り当てる方式ではなく、さらに深く高温岩体まで掘って、水を注入して温める方式です。掘るコストが高くつくのが課題で、その研究開発をしているわけです。もちろん、ベンチャーですから現段階では成功するかどうかはわかりません。