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2012/03/10

311大震災から1年が経ちました

311大震災から1年が経ちました。改めて、地震や津波の被害や避難生活のなかで亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。また、仮設住宅などでいまだ避難生活を強いられている方々には、一日も早く新たな生活が始められることを願っております。

前回のエントリーから3か月もブログ更新が空いてしまいました。年末からずっと忙しく、書きたいことがあっても考えがまとまらず、ずるずると放置していましたが、震災から1年の節目ということでこの1年の総括のようなものを書いてみます。

この1年は、心配した通り、放射能デマに躍らされた年になりました。
思い返せば、“放射能の恐怖”を煽る学者たちの話で、一つでも正しかったことがあったでしょうか。核爆発は起きましたか? チャイナシンドロームは起きましたか? 再臨界は起きましたか? 子供たちが甲状腺がんでバタバタ死にましたか? セシウムの影響でがんが激増しましたか? 長らく「原発事故で炉心溶融が起きれば何万人も死ぬ」と信じられてきましたが、現実には放射線被曝による死者は1名も出ていません。

「横浜でストロンチウムが検出された」という騒ぎも起きましたが、結局、その由来は50年代、60年代の核実験でばらまかれたものでした。核実験の影響で、我々の身の回りや「体内」には、ほんの微量ですが、プルトニウムやストロンチウムは存在しているのです。中国は内陸部で核実験を繰り返してきたので、日本に飛んでくる黄砂にも放射性物質が付着しています。我々はその環境のなかで普通に生きてきたのです。

朝日新聞までも垂れ流した「鼻血デマ」は本当にひどい話でした。子供は鼻血をよく出すもので、事故前は親も特に気にしなかったのが、事故後は被曝と関連付けて不安になって医者に駆け込む人が増えただけです。Twitterのつぶやきから「鼻血マップ」なるものを作成して公表した極めて悪質な人間もいました。Twitterのつぶやきには位置情報など付加されていないのに、どうやってマップを作成するのでしょうか? だいたい、もし鼻血が出るほど被曝していたら、今ごろもう死んでいるでしょう。

福島に住むある女性が、みずからのブログで「毛が抜けた、爪がはがれた」と写真をアップして騒ぎにもなりました。しかし、この女性はうつ病の治療中だったことが判明し、本人が「誰も被曝してそうなったとは言っていない」と書き込んで騒ぎが収まりました。

「将来、福島で40万人ががんで亡くなる」と主張していたECRRのクリス・バズビー医師は、英ガーディアン誌に放射能の恐怖を煽って高額なサプリや内部被曝検査を販売していることをバラされると、いつのまにかメディアから姿を消しました。霊感商法と同じです。妹が作る「放射能に効く味噌」を売っている作家さんも、最近メディアで見かけなくなりました。

メディアがこういった無責任なデマを垂れ流し、匿名メディアのTwitterでデマが拡散されていくという構図ができあがり、危険デマが幼い子供をもつ母親たちを震え上がらせました。ストレスで体調を崩し、それを放射能の影響だと思い込み、子供を連れて西日本にまで避難する母親もたくさんいます。これだけ放射能デマが蔓延していれば、怖くなるのが当然で、同情するほかありません。

避難している皆さんにこれだけは伝えたいと思います。この1年で放射線被曝で亡くなった人は1人もいませんし、健康被害も起きていません。しかし、デマ報道によるストレスで体調を崩した人は相当たくさんいるでしょう。放射能よりもストレスの方がよっぽど怖いのです。もし身体に変調をきたすほどの被曝をしたら、今ごろ死んでいてもおかしくありません。放射線治療では100mSvどころか、1000mSvとか2000mSvとかを照射しますが、それで体調を崩すようなことはありません。甲状腺がんにしても、よほど進行しない限り、自分で気づくことはほとんどないのです。

「1mSvでも危険」「1Bqでも危険」とかたくなに信じている人は、ぜひ以下で紹介されている『たかじんのそこまで言って委員会 超原発論』というDVDを見ていただきたいと思います。このDVDにはテレビで放送されなかった対談が特別収録されています。私も買って確認しました。

武田教授は1ミリシーベルトは危険ではないと言っていた 杜の里から

「安全派」の中村仁信氏と「危険派」の武田邦彦氏との討論という体裁で、武田氏は以下のように話しています。

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「誤解しないで頂きたいんですが、放射線を被曝することによって、その線量によっては当然、生体に対していい影響を及ぼすと思ってます」
「ホルミシス仮説なんてのはね、仮説であるはずないじゃないの。こんなの当たり前ですよ」
「原理的な話はもう十分に分かってるし、もう学問的に仮説の領域は通り過ぎていますよ。それはもう、放射線は当たった方がいいに決まってる」
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以前の主張と違うような気がしますが、ウソだと思う人は、たぶんもうレンタルで出ているはずなので、自分の目で見て確かめてみてはいかがでしょうか。

こういうことを書くと、必ず「内部被曝は違う」という人が出てきます。
我々人間の体の中には、4000Bqほどの放射性カリウムがあります。カリウムは人間にとって必須の元素ですが、そのなかには必ず同位体である放射性カリウムが含まれているのです。それらは1秒間に4000本の放射線(ベータ線が主)を出していることになるので、常に内部被曝しているわけですね。しかもベータ線は1mほど飛ぶので、人体を突き抜けて外に出てきます。となると、母親が子供を抱っこしたら、母親が出す放射線で子供が被爆し、子供が出す放射線で母親は被曝することになります。放射性セシウムも同じベータ線を出しますが、原発事故が起きる前からずっと、放射性カリウムが出す放射線で母子はお互いに被曝を続けてきたわけです。お腹にいるときからずっと。

ベータ線やガンマ線の場合、身体の外側から飛んでこようが、内側から飛んでこようが、人体を突き抜けていくことに変わりはありません。内部だろうと外部だろうと同じ被曝です。「人工の放射線と自然の放射線は違う」という人もいますが、こういうことを言う人は100%ド素人で、矛盾をごまかすためのつじつま合わせでこう言っているだけです。人工だろうと自然だろうと、アルファ線はアルファ線、ベータ線はベータ線、ガンマ線はガンマ線です。「1Bqでも嫌」という人は、自分自身のなかに存在する放射性物質と一度向き合ってみたほうがいいと思います。

他にも人間は自然界から受ける被曝として、ラドンから被曝します。地球内部のマグマの熱は核分裂反応によって生まれているということをご存知でしょうか。そのマグマが冷え固まったのが花崗岩なので、大地には放射性物質であるラドンが含まれているわけです。また、温泉というのは地下水が地熱で温められたものなので、多かれ少なかれラドンが含まれますが、ラドンがたくさん入っているとラドン温泉として有名になります。

ラドンは常温で気体なので、吸い込んで内部被曝を起こします。ラドンによる内部被曝量は、日本の平均で年0.4mSv、世界平均で年1.28mSvとされています。ラドンはプルトニウムと同じアルファ線を出しますが、アルファ線は数mmしか飛ばないので、たとえば吸い込んで肺の内壁に付着すれば放射線のエネルギーは細胞に蓄積されます。放射性セシウムと違ってラドンの場合、実際に健康被害の例が報告されています。昔は時計の発光文字盤にラジウムが使われていたので(ラジウムが崩壊してラドンができます)、時計職人に肺がんを発症する人が多かったのです。鉱山で働く鉱山労働者にも同様に肺がんが多発した例があります。ラドンはセシウムよりもよっぽど怖いのです。

ここの記事(相変わらず煽っていますが)を読むと、厚労省の調査で、1日の食生活から摂取される放射性セシウムは東京都では0.45Bq、福島県で3.39Bq、宮城県は3.11Bqと出たそうです。これを1年間の被曝量に換算すると、東京都で0.0026mSv、福島県で0.0193mSv、宮城県は0.0178mSvとなります。先ほどのラドンの内部被曝量と比較してみれば、問題にするような量ではないことがわかります。この数字を足しても、世界平均には遠く及びません。

日本の場合、西日本に花崗岩帯が多いため、東日本よりも自然放射線被曝の量は多いです。福島第一の事故の影響で若干、東京の放射線量は増えましたが、西日本には今の東京より高い地域はたくさんあります(沖縄は確かに低いですが)。つまり、西日本へ逃げて、むしろ被曝量を増やしている人も多いはずです。それもラドンによる被曝です。とすると、被曝量が増えているのに「西日本に逃げて体調不良が収まった」というのは矛盾していて、やはり精神的なストレスが原因と考えるのが妥当ではないでしょうか。

でも、西日本に逃げて被曝量が増えたからといって心配はいりません。この程度の被曝量で身体に影響が出ることなどありえないからです。ブラジルのガラパリやイランのラムサール、中国の内陸部などでは自然放射線量が年6〜10mSvにもなり、ラムサールでは火山活動が活発化すると年260mSvにまで達するなど、日本よりはるかに高い地域が世界中にはたくさんあります。そういった地域で発がん率が高いとする統計はまったくなく、むしろ低い地域が多いのです。

なぜ大丈夫なのかというと、人間は放射線に対する耐性が高いからです。わずかな放射線でそんなに簡単にがんになるのなら、放射性カリウムやラドン、宇宙から降り注ぐ宇宙線などで即がんになり、80年も長生きできるわけがありません。太古の昔から地球上には放射性物質が溢れていたので、そのなかで動物は進化を続け、放射線に対する耐性を身に付けてきたのです。人間はもっとも進化した動物の一種で、放射線だけでなく、さまざまな化学物質(という言い方は嫌いだけど、一応)に対する防御機能を備えているわけです。

低線量被曝の危険を異常なまでに煽る人々は、こういったカリウムやラドンなどによる自然被曝のことを決して語ろうとはしません。なぜなら、みずからの主張とつじつまが合わなくなるからです。無理やり整合性を取ろうとすると、「人工と自然の放射線は異る」という極めて非科学的な理屈を持ち出すしかなくなります。つまり、似非学者を見分けるポイントはここにあるのです。

こういった似非学者たちが大手のメディアにまで登場して、恐怖を煽り続けてきたわけですが、なぜメディア側はこういった人間を登場させるのかというと、煽った方が視聴率は上がり、部数が伸びるからです。煽れば煽るほど儲かる。ジャーナリズムでも何でもありません。本当は安全だということがわかっているので、安心して煽っているわけですが、それによって多くの人々が恐怖に脅え、体調を崩しているのです。瓦礫の広域処理にしても、読売新聞の全国世論調査によると、75%の人々が受け入れてもいいと答えているにも関わらず、恐怖にかられている人々が反対しているために一向に進まず、復興も遅れるという事態になっています。

低線量被曝の影響は「わからない」のではありません。「小さすぎて見えない」「他の原因にまぎれて区別できないほど小さい」のです。健康を保ちたいのなら、他にできることはいくらでもあります。もっとも、気をつけたからといって絶対にがんにならないとは言えませんけどね。個人差があるので。そこから逃げることはできません。

2011/10/15

福島の子供の甲状腺検査に関して

数日前に、世田谷で飯舘村並みのホットスポットが見つかったとして騒ぎになりました。結局、民家の床下からラジウムの入った瓶が発見され、福島由来ではないことが明らかになりました。マスコミはこういった恐怖を煽れるネタに飛びつくわけで、早合点して恥をかいたわけです。

一週間ほど前にもひどい報道がありました。朝の情報番組で知ったのですが、福島の浪江町から避難してきた子供たちを対象に甲状腺検査をしたところ、130人中、10人が異常値を示したという話です。番組では基準値からはずれるということはどういうことかを説明することもなく、チェルノブイリ事故で甲状腺がんになった少年たちの悲惨な映像につなげ、まるでこれから同じことが起きるかのようにイメージを操作をしていて、吐き気さえ覚えました。もし自分に子供がいて、福島に住んでいたとしたら、とても見ていられないでしょう。

新聞にしても同様です。一部引用します。

甲状腺機能:子供10人に変化…福島の130人NPO調査 2011年10月4日 毎日.jp
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長野県松本市の認定NPO法人「日本チェルノブイリ連帯基金」と信州大病院が福島県内の子ども130人を対象に実施した健康調査で、甲状腺ホルモンが基準値を下回るなど10人の甲状腺機能に変化がみられたことが4日、同NPOへの取材で分かった。
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この記事には「変化がみられた」と書かれていますが、以前と比べて数値が上昇したとか、下降したとかいった事実がなければ、「変化」とは言えないはずです。原発事故前に検査をしていないのに、毎日新聞は何をもって「変化」と呼んでいるのでしょうか。まるで、事故前は全員、基準値内だったのに、事故後に異常値を示す子供が出てきたかのようです。もちろんその可能性はありますが、事故前からそうだったという可能性もあるわけで、少なくともこの検査で「変化」があったなどとは言えないはずです。

甲状腺検査の基準値というのがどのように設定されているのかというと、「こども健康倶楽部」というサイト内の国立成育医療研究センター室長・原田正平氏が監修した「先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)」というページに解説があります。一部引用します。

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この「正常値」と言われるのはどのような「値」なのでしょうか。 ある臓器の機能の検査を、何千〜何万人分も測定し、そこで得られた値を数学的に(正しくは統計学と言います)処理して、だいたい95%の人の値が入る値の範囲を決めます。これが「正常値」と言われる値です。これらの数値は最近では「基準値」「基準範囲」といわれています。検査の数値には個人差があり、また同じ検査項目でも検査方法が異なる場合もあります。ですから「正常値だから正常」で「正常値ではないから異常」ということではありません。
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事故や被爆がなくても5%程度は基準値からはずれるのが普通の状態ということです。130人を対象に10人ということは7.7%ですが、検査対象がたった130人では1人増えたり減ったりしただけで、1%弱は変動するので、とても有意とは言えません。

この件について、Twitterのまとめサイトでも指摘されています。

福島のこどもの甲状腺検査結果の報道をめぐって Togetter

この中のコメントで、(社)日本内科学会発行の「日本内科学会雑誌 2010年4月号」に甲状腺疾患について書かれているとの指摘があったので、取り寄せて読んでみました。群馬大学大学院医学系研究科の森雅朋氏が次のように書かれています。

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潜在性甲状腺機能低下症の実態調査(網野信行)により、成人(健康診断受信者)における甲状腺機能異常を示す患者数の実態が明らかになった。甲状腺自己抗体であるthyroglobulin(TG)(筆者注:サイログロブリン)抗体またはthyroid peroxidase(TPO)抗体を示す成人者は男性で14.4%(約7名に1人)、女性で24.7%(約4名に1人)で全体では21.7%に及ぶ。
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つまり、日本人の場合、成人(15歳以上)の約5人に1人が、異常値を示すということです。子供は調査対象に入っていないので、異常値を示すのがどれぐらいの割合かはわかりませんが、7.7%という数字を取り上げて、大変だと騒ぐことはできないはずです。数値が基準値からはずれているからといって、即“疾病”の状態にあるということではないわけで、むしろ「甲状腺がんはおろか、甲状腺疾患を発症している子供は一人もいなかった」ということがわかったわけです。

私が不思議で仕方がないのは、新聞やテレビは、なぜ甲状腺疾患の専門家にコメントをとらずに記者会見の話を垂れ流すのか、ということです。その方が“加工”して恐怖を煽りやすいからでしょうか。先のTogetterによれば、まともな報道をしていたのは福島民友新聞だけだったそうです。

話は変わりますが、先週の10月7日(金)に新宿で、農業環境技術研究所の主催で「第34回農業環境シンポジウム 放射性物質による土壌汚染 ー現状と対策ー」というシンポジウムが開かれたので聞きに行ってきました。後半だけの参加で、専門的な話が多く、難解だったので、細部まで理解することはできなかったのですが、「田んぼの場合、粘土質なのでセシウムが表層に留まりやすい(表層を削れば問題ない)」「米はセシウムを吸収しにくい。もっとも吸収しやすいのは牧草」「二本松で基準値の500Bq/kgを超えたのは例外で、他の地域の米はずっと低い。二本松については原因を調査している」とのことでした。

仮に放射性セシウムが500Bq/kgだったとしても、被爆量はどれぐらいになるかというと、1kg食べた場合、

500Bq×0.000013(放射性セシウムの係数)=0.0065ミリシーベルト

毎日1kg(水を含まない生米換算)もの米を1年間食べたとしても、0.0065×365日でたった年2.3ミリシーベルトにすぎません。普通はその何分の1かの数100g程度でしょう。こんな超低線量で体に影響が出るわけがありません。福島の米はまったくもって安全と言えます。

2011/09/15

DASH村の除染作業実験について

9月11日(日)の日本テレビ「ザ!鉄腕!DASH!!」で、福島県浪江町にあるDASH村での除染作業(実験)の模様を放映していました。DASH村は福島県第一原発からおよそ25kmの位置にあり、計画的避難区域に指定されています。番組では、TOKIOの山口達也氏と三瓶明雄氏の他、番組スタッフに、指導者としてJAXAの長谷川克也研究員と三重大学の加藤浩助教が村に入っていました。

JAXAの宇宙農業サロンを主催する山下雅道研究員は、放射能汚染農業土壌の除染プロジェクト「ひまわり作戦」を計画しており、おそらく長谷川研究員はそのメンバーなのだろうと考えられます。

DASH村敷地内の放射線量は、日本テレビのサイトの「DASH村の現況報告」というページに、測定データ(2011年7月16日測定)が掲載されています(「DASH村の現況報告」をクリック)。番組内ではガイガーカウンターをいろいろな場所に近づけて測定していましたが、サイトに掲載されているのは胸高で測定した正式な数値です。テレビなどでは地面に近づけて測ってワーワー騒いでいるのをよく見かけますが、比較するためには地面から100cmの高さで計測するのが正しい測り方です。詳しくは「放射線の正しい測り方-鈴木みそ」を参照。

この測定データを見ると、「枯れ葉」の堆積している場所がもっとも線量が高く毎時35μSV、もっとも低いのが「家前」の土が露出している場所で毎時10μSv、田んぼや畑など半年間放置されて雑草が生い茂っている場所で毎時12〜18μSvとなっています。ここで数時間ほど活動するだけなら、あんな大げさな防護服が必要かなあと思わないでもないですが、それはおいといて。

番組では何か所かにひまわりの種を植えて、経過を見守ることになっています。村に入ったのが7月16日で、すでに2か月近く経過しているので、近い内に続編が放映されるのかもしれませんが、今回は現時点での分析と予測を書いてみます。私はファイトレメディエーションの専門家でも何でもないので、あくまで素人の論であることにご注意ください。私はこう思うという単なる感想みたいなものです。

まず線量がもっとも高い「枯れ葉」のところですが、3月中旬に福島第一で水素爆発が起きて放射性物質がフォールアウトしたときに、枯れ葉はまだ樹木に生えていたのかもしれません。放射性物質を付着した葉が落ち、風の吹き溜まりになっているここに溜まった可能性があります。そうでなかったとしても、それ以前からここには枯れ葉が溜まっていたはずなので、放射性物質が土にまで到達している分は少なく、枯れ葉を除去するだけで線量は相当に落ちるような気がします。土が露出している「家前」より下がるかもしれません。

次に、「田んぼ」や「畑」「牧草地」などの場所ですが、「家前」の10μSv/hよりも高い数値が出ているわけです。3月中旬のフォールアウトの時点では、まだ雑草は生えておらず「家前」と同じ土が表出した状態だったはずなので、普通で考えれば同程度の数値が出ていてもおかしくありません。ところが、「家前」より高い数値が出ているということは、雑草が放射性セシウムを吸い上げていると考えるのが妥当な気がします。ただ、どれだけ吸い上げているかを判別するのは難しいところです。というのは、雑草がかなり伸びているため、吸い上げた放射性物質が微量であっても、茎の上部にまで吸い上げられていると、胸の高さにあるガイガーカウンターに近くなり、測定値が大きくなるからです。

と、書いていたら、まさに今、日テレのニュースで「農水省が実施していた実験で、ひまわりに除染効果がないことが判明した」と流れてきました。8月21日のエントリーで、「チェルノブイリ救援・中部」という支援団体が「菜の花が1年間に吸い上げる放射性物質は数%程度に過ぎない。土を耕すひまわり栽培は注意すべき」という声明を出していることを書きましたが、同じような結果が出たようです。

ヒマワリは除染効果なし 農水省が実験結果公表 asahi.com

ファイトレメディエーションの効果については、福島県農業総合センターでも検証しており、福島民報の記事「玄米から検出は微量 県農業総合センターが栽培試験」では、「ひまわりの放射性物質の移行率は1〜1.5%」と報じられています。ちなみに、この記事には「高濃度の放射性物質を含む土壌でコメを栽培しても、玄米からの検出量はわずか」で、米を作ってもまったく安全であると書かれています。稲の吸収率が低いことが逆に良かったということですね。

ひまわりの除染効果は疑わしいと考えるのが妥当のようです。ではなぜ、DASH村の雑草は吸収した(ように見える)のでしょうか。もしかしたらフォールアウトの後、雨でセシウムが土に染み込んでいくときから雑草が伸び始めたから、比較的よく吸収したのかもしれません。あるいは、土を耕さない状態のほうが吸収しやすいのかもしれません。これについては検証を待つ必要があります。

いずれにせよ、枯れ葉や雑草の除去で、おそらくDASH村内は「家前」の10μSv/hと同程度かそれ以下にまで下げられると考えられます。10μSV/hという線量は、仮にその場に24時間365日、立ちっぱなしで、「10μSv/h×24h×365日=87600μSv」となり、線量は年間87.6mSv。これが10分の1ぐらいになれば十分安全と言えるでしょう。毎日、一日中、外で突っ立っているわけではないので、現実の被曝量は大幅に下がります。

ひまわりの種をまいて刈り取るほうが、手間もコストも少なくてすみますが、効果がなさそうだということがわかった以上、土の表層数cm程度を削り取るしかないと思います。先ほどのasahi.comの記事には、除染技術ごとの効果が掲載されていて、「牧草ごと土地をはぎ取る」97%減、「固化剤ごと土を削り取る」82%減、「表土を削り取る」75%減と出ています。元ネタは農水省の以下のリリース。

農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)について 農水省

表土剥離によって8割から9割ぐらいは減少するので、ここまですればまったくもって安全なレベルにまで下がると言えます。

農地については表土剥離の後、耕すことになるので、通常より深めに掘って耕せば、線量はさらに減少するでしょう。放射性物質にしても結局は濃度の問題であって、薄ければ何の問題もないのです。前述した福島県農業総合センターの実験にあるように、玄米は土壌中の放射性物質をほとんど吸収しないようですから、他の作物も試験的に作って線量を測って検証すべきでしょう。こうなると、むしろ「植物が放射性物質を吸収しない」ほうがメリットは大きいのかもしれません。

ゼロリスク信仰に囚われている人々は、「こんな土地で採れた作物なんて!」とヒステリー起こすかもしれませんが、実際に採れた作物の放射性物質の含有量を計測して基準値以下であれば、何の問題もないですよね。人間の体のなかには5000Bqぐらいの放射性物質が存在していて、過去の核実験の影響で、超微量ですがプルトニウムも体内にあります。放射性物質を付着した黄砂が降っているなかでも、何の疑問ももたず「安心」して外出していますよね。メディアは「内部被爆」で大騒ぎですが、前回のエントリーでも書いたように、もっとも内部被曝量の多かった浪江町の子供たちでも、内部被曝量は70歳までの累積で、たった3mSv未満(推計値)なのです。

さて、次の段階ですが、集めた枯れ葉や刈り取った草、削り取った表土の処分をどうするかです。枯れ葉や雑草に関しては、通常の焼却処分ではなく、蒸し焼きにして飛散を防ぎながら体積を減らすという実験が始まるそうです。

農水省、福島・飯舘村に試験炉-放射性物質含むヒマワリ、蒸し焼きで飛散防ぐ 日刊工業新聞

削り取った表土の処分については、DASH村のような狭い土地であればさほど問題になりませんが、福島県内の農地にまで広げると何1000万トンもの量になると見込まれ、それが課題となっています。そんななかで、産業総合研究所は、土壌中の放射性セシウムを吸着する「プルシアンブルーナノ粒子吸着材」を開発したと発表しました。

土壌中のセシウムを低濃度の酸で抽出することに成功
プルシアンブルーを利用して多様な形態のセシウム吸着材を開発

この技術を使えば、「12000Bq/kgの土壌を現在作付け制限の基準値となっている5000 Bq/kg以下にすることができる」としています。さらに処理温度を200℃にまで上げれば、ほぼ100%放射性セシウムを除去できるそうです。洗浄に利用する酸水溶液は、酸濃度の調整のみで繰り返し利用できるとしています。ここにははっきりと書かれていませんが、洗浄後の土は農地に戻せるということでしょう。廃棄物を大幅に減量できるということです。

除去した放射性セシウムの残渣は、どう処理するのか不明ですが、放射性セシウムの半減期はセシウム134が2年、セシウム137が30年と、ウランやプルトニウムなどに比べればはるかに短いです。セシウム134と137の存在割合はほぼ半々で、30年経てばセシウム134はほぼ消滅、セシウム137は半分になるので、現在の4分の1になります。100年経てばおよそ20分の1と問題のないレベルになります。ですので、どこかに埋設処理するということになるのでしょう。

DASH村の場合は小さな土地なので、やろうと思えばコスト無視で完璧に除染することは可能でしょう。しかし、テレビの影響力というものも考える必要があると思います。同じことを福島の農地すべてでできるとは限らないからです。どこまでやれば安全なレベルに達したと言えるのか、その判断の基準を視聴者に説明することを望みます。公的な基準に合わせるというのが無難だと思うのですが。

2011/09/14

「安心」と「安全」の違い

東北地方の歴史を遡ると、岩手県から福島県にかけて巨大津波が襲ったのは865年(貞観津波)のことで、まさに1000年に1回の規模の大津波が東北地方を襲いました。この津波で2万人もの人々が死亡・行方不明になりましたが、高さ20mを超えるような巨大津波を想定して、国や自治体は対策をしていたでしょうか。まったくしていなかったからこそ、これほど多くの被害者が出たわけです。

岩手県の宮古市田老地区には日本一といわれる高さ10mの防波堤があり、1960年のチリ地震津波から村を護りました。しかし、今回の大津波には耐え切れませんでした。

「日本一の防潮堤」無残 想定外の大津波、住民ぼうぜん asahi.com

一方、福島第一原発は5.7mの津波にも耐えられるように設計されていましたが、13mのの大津波に襲われて冷却用電源を消失し、事故を起こしました。甚大な経済的被害をもたらしましたが、原発周辺の住民に放射能災害で亡くなられた方はいませんし、これからもほとんど出ないでしょう。

福島県で住民の「内部被曝量」の先行調査を行なったところ、内部被曝線量がもっとも高かった浪江町の子供でも、70歳までの累積で推計「3mSv未満」だったそうです。

浪江町の子ども、生涯3ミリシーベルト未満も 内部被曝調査で 日本経済新聞

生涯でたった3ミリシーベルト。反原発団体は「子供の尿から放射性セシウムが出た」と騒いでいましたが、尿から検出されるということは「体外に排出されている」ということです。今まで内部被爆で騒いでいたマスコミは、もう少し冷静になるべきでしょう。

土地や家を放射能で汚染されて住めなくなった方たちの悲しみには言葉もありませんが、津波に流されて亡くなった方たちの恐怖と絶望も想像を絶するものだったでしょう。大津波は農地や家も徹底的に破壊し、海水(塩水)にさらされた田畑を復活させるのも容易ではありません。生き残ればそれを嘆くこともできますが、亡くなられた方はもはやそれさえもできないのです。1000年以上前に巨大津波があったことは史実として残されていたのに対策をしなかったから、こういう悲劇が起きたわけです。

(財)エネルギー経済研究所が6月24日に公表した「原子力発電の再稼働の有無に関する2012年度までの電力需給分析」によれば、原発を再稼働しない場合、2012年度の夏季には電力供給が7.8%足りなくなり、12年度の化石燃料調達費は3兆5000億円増加すると試算しています。燃料費の増加を電気料金に上乗せすれば、家庭用で18.5%、産業用で36%も上昇します。中東などの産油国に丸々3兆5000億円を献上するだけで経済効果はゼロ。しかも原発を再稼働しなければ、毎年毎年この負担が続くわけです。

今夏は15%の節電を強要されましたが、原発54基中16基がまだ稼働しているからなんとか乗り切れたわけです。しかし、史上空前の円高に加え、電力不足と電気代の高騰が続くのであれば、日本企業の工場はどんどん海外に逃げ出します。同研究所は、7月28日の「短期エネルギー需給見通し」で、原発の再稼働がない場合、12年度末までにGDPは3.6%減少し、失業者が約20万人増えるという試算も公表しています。

このまま産業空洞化が進んで失業者が溢れ、景気が後退していけば、電力需要は減少し、いずれ火力と水力だけで電力需要を賄えるようになり、脱原発が完遂されるでしょう。それまでに燃料費で数10兆円ものお金が吹っ飛び、日本はバブル崩壊のときよりひどい経済停滞に落ち込むでしょうが、即時全基停止でいったい何人の命を救えるのかというと、効果はほぼゼロです。むしろ、老朽化した火力発電所を無理に運転して大気汚染が悪化し、気管支喘息や肺がんなどで亡くなる人が増える可能性もあります。失業者が増えれば自殺者も増えるでしょう。911テロの後、多くのアメリカ人が飛行機を避けて自動車を利用したことで交通事故が激増し、1600人も死者が増加したのと同じです。

私には不思議で仕方がありません。孫正義氏らは「未来の命を救う」ために脱原発を唱えているわけですが、数10兆円ものお金を使うのなら、原発を止めるより、津波の対策をした方がはるかにたくさんの命を救えるのではないでしょうか。原発周辺の海に近い地域に住んでいる人々は、「原発を止めろ」ではなく、なぜ「津波対策をしろ」と言わないのでしょう。原発がなくなっても大津波に襲われたらひとたまりもないのです。原発事故では避難する時間が十分にありましたが、津波の場合は逃げ切れなかった人が2万人もいたわけです。自分だけは逃げ切れると思っているのでしょうか。自分は逃げられたとしても、子供や高齢者は逃げ切れるでしょうか。

「安心」と「安全」は違うといわれますが、「安心」っていったい何なのでしょう。
生肉を食べて腸管出血性大腸炎にかかる人は毎年100〜300人いて死者も出ています。生で牛肉を食べるのは危険なのですが、店側が商品として提供しているから「安心」して焼き肉店でユッケを食べて、4人の方が亡くなりました。シロウオの踊り食いが今も提供されているのか知りませんが、川魚には寄生虫がいるのが当たり前で、食中毒がしょっちゅう起きています。食中毒になるなど夢にも思わず、「安心」して食べてあたるわけです。「安心」って何なのでしょう。

反原発ヒステリーを起こして全基停止を主張している人々は、とにかく「原発が止まれば安心」なのかもしれませんが、現実には何一つ命を脅かすリスクは減ってなどいません。今回と同規模の津波に襲われたら、また何万人という単位の人々が亡くなるのです。

2011/08/21

ようやく福島に「除染チーム」が設置される

細野原発担当相は福島県知事との20日の会談で、放射性物質の除染活動を担う「除染推進チーム」を福島県に設ける方針を伝えたとのこと。

「除染チーム」福島で立ち上げへ 細野原発相が表明

ようやく、です。

以前、放射線医学が専門の大学教授や原子炉設計の専門家の方から除染に関する話をお聞きしたので、一部をここで紹介しようと思います。お名前を出すとご迷惑をおかけする可能性があるので、ここでは伏せさせていただきます。

半減期が8日のヨウ素131については、すでに事故から半年近く経過した現在では検出限界以下にまで下がっているので、除染の対象になるのはセシウム134(半減期2年)とセシウム137(半減期30年)が主です。検出されているセシウム134と137はほぼ同じぐらいの量です。仮に事故から2年経つと、セシウム134は半分になり、セシウム137はほとんど減らないので、線量は約4分の3ほどに下がります。30年経つとセシウム134はほぼ消滅して、137は半減するので、線量は約2分の1。飯舘村や浪江町などには空間線量が10μSV/hを超える地域が多々ありますが(10μSV/hを年間の積算量に換算すると87mSv/h)、理論的には30年経ってもその半分程度にしかならないということです。

ただし、これは風雨の影響を無視した話で、セシウムは水溶性なので実際には雨に洗われて川に流され、海で希釈されていきます。洗い流される量は表面積で変わり、アスファルトの道路やコンクリートの建物が多い街中の地区では、洗い流される割合が高いので、実際に放射線量は低い傾向にあります。

問題は自然拡散があまり期待できない森林や農地など土の地面ですが、セシウムはどうもコロイドのような固まりになって表層に溜まっているようで、表土を5cmぐらい削るだけで線量は何10分の1かに下がるそうです。学校の校庭で表層を削っていたのはそのためです。削った土をどこに持っていくかで揉め、結局、校庭の隅に積んであるようですが、農地を除く校庭や公園などでは1mぐらい掘って、土をひっくり返すという方法も考えられるそうです。線量は距離の2乗に比例するので、地下に埋めてしまえばほとんど影響がなくなるわけです。

農地の場合は、やはり表土を削って別の場所に保管しておくことを真っ先にやるべきと考えられます。ひまわりなどを植えて土中のセシウムを吸収させるバイオレメディエーションの実験が始まっていますが、チェルノブイリの土壌浄化活動を行なっているチェルノブイリ救援・中部の見解が以下にあります。

ヒマワリ栽培による放射能汚染土壌の浄化は可能か

本家サイトにこの文書はみつからなかったのですが、おそらくは機関誌か何かからの転載なのでしょう。この文書によれば、水に溶けたセシウムは吸収できるが土に固着したセシウムは吸い上げるのが難しく、菜の花が1年間に吸い上げる放射性物質は数%程度だそうです。チェルノブイリの場合は事故後25年経って始めたため、土壌の数10cm地中まで浸透していて表土剥離が不可能だったので、菜の花を使ったとのことです。日本は雨が多いので条件が異なるかもしれませんが、逆に浸透が早まる可能性も考えられます。実験は実験としてやるべきで経過を見る必要はありますが、一刻も早く表土剥離は実施すべきではないでしょうか。

森林の場合は樹木が生えているのでブルドーザーを入れるのは難しいですが、教授が岩手県で行なった調査によれば、枯れ葉や下草が積層しているため、セシウムは土にまで到達していなかったそうです。冬になれば樹木に生えている葉も落ちますから、枯れ葉と下草を除去すれば線量を下げられるはずだとおっしゃっていました。

個人的には、削った表土や刈り取った草は、福島第一原発の敷地内に持ち込んで保管すればいいのではないかと思います。廃炉まで10年以上かかり、その後も立ち入り禁止区域として管理するしかないわけですから。並行して除染処理をするとしても都合がいいかもしれません。

除染で安全なレベルに線量を下げられる地域から先に、表土剥離などの介入措置をどんどんやっていくべきだと思います。それに加え、地域ごとの放射線レベルの情報公開していくことも必要でしょう。一方で、原発の20km圏内には線量が高すぎてどうにもならない区域もあると考えられます。今日のNHKニュースで、そういった土地の買い取りに関する報道がありました。

一部区域 国が土地買い取りも NHKニュース

いつまでも先の見えない避難生活を続けるよりは、新たな土地で新たな生活を始める方が、住民の方々の精神的な負担は小さくなるように思います。もちろん、これは当事者と国、自治体、東電が交渉して決めることで、周りがとやかく言うことではありませんが、そういうオプションが提示されなければ決断することもできないように思います。

2011/07/18

長崎大学・山下俊一教授を反原発作家が告訴

BLOGOSに田中龍作という人の下記のような記事が載っています。

【福島原発事故】 東電最高幹部、山下教授ら張本人32名を刑事告発 〜上〜

これは記事の一部のようで、全文が下記の個人ブログにあります。

【福島原発事故】 東電最高幹部、山下教授ら張本人32名を刑事告発 〜上〜
【福島原発事故】 東電最高幹部、山下教授ら張本人32名を刑事告発 〜下〜

広瀬隆氏と明石昇二郎氏が、東電幹部や原子力保安院幹部、福島県放射線健康リスクアドバイザーの山下俊一・長崎大学大学院教授らを業務上過失致死傷や業務上過失致傷などの容疑で刑事告訴したというのです。

福島の事故で、周辺住民は多大な精神的苦痛や経済被害を被ったわけで、東電や原子力保安院を告訴するというのは理解できますが、「業務上過失致死傷」「業務上過失致傷」で訴えるというのはどういうことなのでしょう? 周辺住民のなかから原子力災害による死者は一人も出ていないし、傷害についても同様のはずです。自殺された農家の方はいましたが、反原発派が「放射能デマ」を撒き散らして風評被害や差別を拡大させていることを考えれば、広瀬氏らはむしろ逆に訴えられても仕方がないようにも思えます。

しかも山下俊一・長崎大学大学院教授を告訴するという行為に至っては、もはや理解不能です。“作家”であって放射線被爆の専門家でも何でもない広瀬氏らが、放射線医学の権威で、世界保健機関(WHO)緊急被曝医療協力研究センター長を務め、チェルノブイリでも何度も現地調査を行なっている山下教授を、自分たちが主張する「放射線被爆の被害」を認めないからといって告訴しているのです。イデオロギーに囚われた人間の恐ろしさがここでも見られます。

気になるのはこの記事を書いている田中氏の姿勢で、全面的に広瀬氏らを支持する立場に立って“悪役”呼ばわりしていますが、逆に名誉棄損で訴えられないか心配になります。この記事、ざっと読んだだけでいくつも間違いを指摘できるからです。たとえば、こんな記述です。

「チェルノブイリ事故では死者が4,000人とも100万人とも報告されている」

05年に国際原子力機関(IAEA)や世界保健機構(WHO)など国連8機関とウクライナ、ベラルーシ、ロシアの代表などで構成されたチェルノブイリ・フォーラムが発表した数字では、「将来にわたる死者数は約4000人」とされているので、4000人はいいとして、リスクをもっとも過大に評価している反原発団体のグリーンピースの試算でさえ、「全世界で9万3000人」です。桁が2桁も違う「100万人」の根拠はどこにあるのでしょう。

「同事故を凌駕する福島原発の事故で、死傷者が出ないはずはない」

これなどは単なる思い込みに過ぎず、いったいいつ福島の事故がチェルノブイリを超えたのでしょうか? 同じレベル7の事象でもチェルノブイリでは、格納容器のない黒鉛減速炉が水素爆発を起こして放射性物質のほとんどが飛散しましたが、福島の事故では原子炉から放出された放射性物質の量はチェルノブイリの約10分の1で、しかもそのほとんどは原発建屋の地下に溜まった水のなかにあります。施設外への放出量でいえばオーダーは2桁違うでしょう。前回の記事でも書きましたが、チェルノブイリの事故に比べて、周辺住民の放射性ヨウ素の被曝量は100分の1以下で、しかも日本人の場合は昆布やワカメなど海藻類を摂取するので甲状腺にヨウ素が溜まっていて、放射性ヨウ素が溜まりにくいとされています。

この記事を読む限り、こういった過大なリスク評価の根拠としているのは「ヨーロッパ放射線リスク委員会の報告書(ECRR)」のようです。しかし、欧州放射線リスク委員会(ECRR)というのは、リンク先のWikipediaのページを読んでもらえばわかりますが、「1997年に組織された非公式の委員会である。委員会と名前がついているが欧州評議会及び欧州議会とは関係ない別個の組織」で、実態は、欧州の反原発団体が集まって作った組織に過ぎません。つまり、田中氏の「欧州議会に設置されている」という記述も間違いです。

しかもこのECRRについて、京大原子炉実験所の今中哲二助教は、下記URLの資料で「つきあいきれない」と評しています。今中助教は、同じく京大原子炉実験所の小出裕章助教とともに30年来、反原発活動を行なってきた“熊取六人衆”の一人です。

低線量被爆リスク評価に関する話題紹介と問題整理 今中哲二

最後から2ページ目のところで、今中助教はこう述べています。
「ECRRのリスク評価は、「ミソもクソも一緒」になっていて付き合い切れない」
「ECRRに安易に乗っかると、なんでもかんでも「よく分からない内部被爆が原因」となってしまう」
日本の反原発派の理論的支柱となっている人でさえ、あきれる組織だということです。そもそも、ほんのわずかでも科学リテラシーがあれば、「福島第一原発から100km圏内では今後10年間に10万人以上がガンを発症する」という記述をストレートに信じ込めるわけがないのですけどね。

で、反原発団体の招きで、ECRRのクリストファー・バズビー科学議長が来日しているようで、

東日本大震災:福島第1原発事故 内部被ばく最も懸念ーークリストファー・バズビー氏 毎日.jp

放射性セシウムに汚染された牛肉の流通問題について、バズビー氏は「食品による内部被ばくは代謝で体外に排出されるので危険性はあまり高くない」と語ったそうです。放射線リスクを世界でもっとも高く見積もる人々が、牛肉は大丈夫だと(笑)。政府は規制値を上回ったから危険だと騒いでいますが、確かに、嘘ばっかりですね!

前回の記事でもかきましたが、日本にはこれまで30年来にわたって、中国から放射性セシウムを含む黄砂が大量に飛んできています。自民党政権時代から政府はずっとこのことを隠し続けてきました。黄砂は中国都市部の大気汚染の原因になっている有害な化学物質も一緒に運んできます。反原発派の人々が言うように、低線量の被爆で、もしそんなに簡単にがんになるのなら、今ごろ西日本に住む人々は全員がんで死んでいるかもしれません。日本人の死亡原因の第1位はがんですが、それは日本人の平均寿命が長いからで、他の国より特異的に高いわけでもありません。

今の若い人たちは左翼運動に免疫がないので、仕方がない面もあるとは思いますが、彼らにとってみれば赤子の手をひねるようなものでしょうね。政府や東電は嘘ばっかりで信用できないというのはいいんですが、同じように、作家さんや市民科学者さんや助教さんのいうことも少しは疑ってみてはいかがでしょうか。

2011/07/09

「低線量でも人体に影響がある」のなら「黄砂」の影響は?

6月9日のエントリーで、
「動物細胞を使った実験では、低線量の放射線でも害があることが確認されていて、それゆえに「わずかな放射線でも人体に害がある」と声高に叫ぶ人がいる」
と書きました。この「わずかな放射線でも人体に害がある」という説はペトカウという学者(医師)による実験が最大の論拠になっているのですが、反原発派の人々はこれをかなり歪曲し、都合よく利用している節があるのです。「ぷろどおむ」という方が、ペトカウ氏の元の論文に当たって内容を検証されています。

「ペトカウ効果」は低線量被曝が健康に大きな影響を与える根拠となるのか?

ポイントは2つあります。ペトカウ氏は、1時間当たり0.6〜600ミリシーベルト(600〜600000マイクロシーベルト)という線量で実験をしていること。「現在首都圏で測定されている空間放射線量の1000倍以上高い領域での話」なのです。福島県の浪江町などには毎時30マイクロシーベルトを超えるホットスポットがありますが、それの20倍以上の線量です。これを「低線量」と呼んでいるわけです。放射線医療では10シーベルト(10000ミリシーベルト)単位の放射線照射を行なうこともあるので、それに比べれば「低線量」ではありますが、福島で観測されている線量でもそれよりはるかに「低線量」なのです。

もう一つは、この実験で「放射線の影響を最小限に抑えるためのシステムが生体には備わっていることがすでに確かめられている」ということ。反原発活動家はそのことには一切触れないわけです。しかも「実はこのペトカウ氏は、低線量放射線が人体に多大な影響を与えるなんてことは何一つ言っていない」。

そもそも試験管内の細胞に対する実験の結果をそのまま複雑なメカニズムをもつ人体にあてはめるのは無理があるわけですが、この実験よりはるかに少ない超微量の放射線被爆にあてはめるのはメチャクチャです。そもそも微量の放射線被爆の影響に関して諸説あるのは、誰が実験しても明確に結果が出るというわけではないからです。つまり、仮にあったとしても、極めて影響は小さいということです。

こんな微量な被曝量では、20年後、30年後に統計を取っても発がん率の上昇という形では現れないでしょう。チェルノブイリ事故では避難民11万5000人の甲状腺への平均線量は490mGy(490ミリシーベルトとほぼ同じ)でしたが、福島第一周辺の子供約1000人を対象に行なった調査では、最高値は毎時0.1マイクロシーベルトで、99%が毎時0.04マイクロシーベルト以下でした。放射性ヨウ素の半減期は8日で、すでにほぼ消滅していますから、年換算する意味はないのですが、仮に最高値の毎時0.1マイクロシーベルトを1年間被爆したとしても約0.9ミリシーベルトで、少なくともチェルノブイリの100分の1以下であることは間違いありません。

これで困っているのは反原発派の人々です。今までさんざん「放射能の恐怖」を煽り、「がんになる、がんになる」と騒いできたのに、こんな大事故が起きても何も起きないのですから。そこで彼らが何をやっているのかというと、さらに恐怖を煽って被災者に心理的ストレスを与え、健康を害させるように仕向けている。なんとしてでも被害を生み出したいわけです。イデオロギーに狂った人々の恐ろしさというのはこういうところにあります。

「東日本は人が住めなくなる」「1ミリシーベルトでも害がある」等の発言で“神様”と崇められているあの方がどんなイデオロギーをお持ちかは、下記のファイルを見ればよくわかります。

2003年6月14日 朝鮮の核問題 京都大学・原子炉実験所 小出裕章

ここには、「なぜ、朝鮮(注:北朝鮮のこと)は文明国になるために必要な「原子力開発=Nuclear development」をしてはならないのか?」と書かれています。文明国になるためには原子力開発が必要だそうで、日本はダメだが北朝鮮は原発も核兵器も開発していいそうです。これでは「反原発」ではなくて、ただの「反米」「反日」ではないのでしょうか。

ここで終わろうと思ったのですが、面白い記事を発見したので、もう少々。

黄砂に乗って微量セシウム 石川県保健環境センター調査「人体に影響なし」 北國新聞

中国では80年代から新疆ウイグルの砂漠地帯で核実験を数10回行なっています。それで放出された放射性セシウムが黄砂に乗って日本に降り注いでいるわけです。セシウム137の半減期は約30年なので、仮に30年前に行なわれた核実験で放出されたものでもまだ半分残っているということです。石川県保健環境センターの調査によると、県内で確認された放射性セシウムの量は、福島第一の事故で確認された量のなんと71倍。しかも黄砂はこの数十年、毎年飛んできているのです。昔はセシウム137の崩壊が進んでいないので、もっと量が多かったでしょう。

我々日本人は、数十年前から黄砂に乗ってやってきた放射性セシウムで被爆していたのです。黄砂は吸い込んでしまうわけですから、反原発派の人々が大好きな「内部被爆」をしてきたことになります。それも福島の事故で出たものよりはるかに多い量を毎年、毎年。これでどうやって「福島の事故分」だけの影響を語れるのでしょうか。反原発派の人々で黄砂の影響に触れている人を見たことがありません。中国は共産主義だから、黄砂の放射能は「いい放射能」なのでしょうか。

2011/06/09

携帯電話と放射線の発がんリスク

世界保健機関(WHO)が「携帯電話の電波に発がんリスクがある疑いがある」との分析結果を公表しました。14か国の専門家31人が議論し、5つの分類の内、3番目の「発がんの可能性がある」に分類。この議論では、「1日30分以上、10年以上使用すると、神経膠腫(グリオーマ)に罹患する可能性が40%高まる」という報告があったそうですが、明確に証明されたとまではいえないそうです。同じ分類には、「自動車の排ガス」や「コーヒー」、「クロロホルム」などが同程度の発がんリスクがある「可能性が疑われるもの」としてリストアップされています。排ガスやクロロホルムはわかりますが、コーヒーまで疑われているんですね。

GIGAZINEのニュースには、「ヨーロッパの環境庁は携帯電話が喫煙やアスベスト、鉛を含んだガソリンと同じくらい危険であるという研究結果を付け加えた」と書かれていて、「ヨーロッパの環境庁」って何?と思いつつ、「喫煙」と同じというのはちょっと煽り過ぎじゃないかと。

というわけで、今回は放射線被爆はどの程度の発がんリスクがあるのかについて。
産経新聞のサイトに放射能と生活習慣によってがんになるリスクという表(国立がん研究センター調べ)があり、それによれば「毎日2合以上の飲酒」は1000〜2000ミリシーベルトの被爆と同等、「喫煙」と「毎日3合以上の飲酒」はそれぞれ2000ミリシーベルト以上の被爆と同等とされています。100や200じゃないですよ、1000、2000というオーダー。「野菜不足」で100〜200ミリシーベルトと同等。短期的に1000ミリシーベルトも被爆すれば急性放射線障害を起こすほどですが、喫煙習慣はそれ以上です。先日、放射線医学が専門の大学教授にお聞きした話では、「タバコ1本吸うと5マイクロシーベルト被爆したのと同じ」だそうです。私の場合、1日1箱半(30本)吸うので、

5(マイクロシーベルト)×30(本)×365(日)=54750マイクロシーベルト

で、年間約55ミリシーベルト被爆しているのと同じ。喫煙習慣は20年以上続いているので、累積で1000ミリシーベルト超えています。非喫煙者より発がん率が50%ぐらい高まっています。いや、酒も飲むのでほとんど100%か。ということをタバコを吸いながら今書いています。

こういった数字は、広島・長崎の原爆とチェルノブイリ事故の影響調査から算出されたものです。広島、長崎に落とされた原爆で、1000〜2000ミリシーベルトの被爆をした30歳の人が、40年後に被爆していない同年齢の人に比べて、がん発症率が1.5倍になったことや、国連、国際放射線防護委員会(ICPR)が行なったチェルノブイリ事故による放射能汚染の影響調査で、年間10〜20ミリシーベルトの地域では25年経っても健康上の被害が何も見られないこと(ヨウ素131による甲状腺がんを除く)が判明していて、これらのデータとその他のタバコや飲酒、野菜不足などが発がんに寄与する影響を比較して、計算された数字です。この数字を見れば、放射線被爆が発がんに寄与する影響は、非常に小さいことがわかります。「運動不足」や「肥満」のほうが、500ミリシーベルトの被爆より発がんに寄与するのですから。

動物細胞を使った実験では、低線量の放射線でも害があることが確認されていて、それゆえに「わずかな放射線でも人体に害がある」と声高に叫ぶ人がいるわけですが、その一方で人間にはDNAを修復する機能があるとされています。だから、疫学調査では影響が数字に現れてこない。タバコや飲酒など他の要因が大きすぎるので、よほどたくさん放射線を浴びないと影響を確認することはできないわけです。

そもそも日本では自然被爆の量は平均で年1.5ミリシーベルトですが、世界にはブラジルのガラパリや中国の内陸部など年10ミリシーベルトを超えるような地域がたくさんあります。イランのラムサールでは年20〜30ミリシーベルトも珍しくなく、ひどいときは260ミリシーベルトに達するそうです。大気中に放射性物質が漂っているわけですから、当然、内部被爆もします。それで発がん率はイランの他の地域よりむしろ低いのです。まったく矛盾しています。

国立がん研究センター発表の「日本国民の生涯がん羅患リスク」によれば、男性で54%、女性で41%で、がんで死亡する確率は男性26%、女性16%とされています。普通に生活していても日本人の2人に1人はがんになり、その半数は亡くなるということ。がんというのは人間に組み込まれた病気で、どこまでも長生きすればいつか必ずがんを発症します。がんを発症する前に、老衰で死ぬか、他の病気で死ぬか、事故か何かで死ぬかの違いだけ。日本人は寿命が長いので、必然的に発がん率も高くなります。最近ではペットの犬や猫も死因のNO.1はがんになっています。家の中で飼われるようになって寿命が伸びたからです。家電製品でも永久に使い続けることはできないように、人間の体も劣化して誤作動するようになるのです。がんは老化現象の一種と言ってもいいでしょう。

それに、人が死ぬ原因はがんに限りません。前にも書きましたが、今も日本では交通事故で年間5000人も亡くなっています。平均で毎日13人が死んでいることになります。自分の意志で避けられるなら、交通事故なんて起きません。

むしろ「放射能が怖い」と過剰に恐れていると、ストレスは免疫機能を低下させるので、がんになりやすいともいわれています。チェルノブイリ事故では、放射性物質による健康被害よりも、「がんになる」とか「奇形が生まれる」とかいったメディアの過剰報道によるストレスが最大の被害をもたらしたともいわれています。テレビなどで「奇形が生まれる」と平気でしゃべっている人がいますが、「国連科学委員会報告2008年チェルノブイリ事故の放射線の健康影響について」の「ベラルーシの汚染地帯と非汚染地帯の先天性奇形の頻度」を見れば、線量の高い地域のほうが逆に先天性奇形の出生頻度が低いことがわかります。先天性奇形というのは、放射能汚染地域に限らず、どこの国でもある一定の頻度で生まれ、このベラルーシの数値は先進国と同程度か低いぐらいです。

災害時に恐怖を煽れば煽るほど、雑誌はよく売れるというのは出版業界では常識です。実際に恐怖を煽って大幅に部数を伸ばした週刊誌が何誌かあります。この未曾有の大災害のときでも商売優先のようです。

週刊誌の原発報道とどうつき合うか 佐野和美

恐怖に脅えている人々に対して「大丈夫だ」というのと、「大変だ、大変だ、人が死ぬ、奇形が生まれる」と大騒ぎするのとでは、どちらが勇気のいる行為だと思いますか。