ソフトバンクの孫正義氏は、太陽光発電で原発を代替すると主張していますが、それは果たして実現可能なのでしょうか。
孫氏は、「太陽光発電のコストは原発より安い」と主張し、自治体を巻き込んで「関西広域連合」を組織し、メガソーラーを事業化して(ソフトバンクの約款を改正して同社の事業に発電事業を加えています)、菅首相に働きかけて全量買い取りさせようとしています。孫氏は「40円/kWhで20年間買い取れ」と言っていますが、これは火力の発電コストと比較しても4〜5倍の価格です。
孫氏の計画は、自治体から遊休地を借り受け、2万kWのメガソーラーを10基建設するというものです。これでどれだけ電力を生み出せるのかというと、設備容量は2万kW×10基で20万kW分ですが、太陽光発電の稼働率は日本の平均で12%なので、実質2.4万kWとなります。原発は1基100万kWで稼働率は70%なので実質70万kW。とすると、原発1基の29分の1にしかなりません。たった29分の1でも、建設にかかる費用は莫大です。四国電力のメガソーラー「松山太陽光発電所」の建設費用は、1kWあたり約70万円とのことなので、20万kW分の投資額は1400億円ぐらいになります。
もしメガソーラーで原発1基分を賄おうとすれば、2万kWを290基建てる必要があり、投資コストは4兆円に達します。原発40基分ならなんと160兆円。日本の国家予算規模で、これを“空想”と呼ばずになんと呼べばいいのでしょう。
反原発派の人々はよく「原発開発に投資してきたお金を自然エネルギーに投資していれば……」と言いますが(実際には相当な額が投資されていますが)、同じ額を太陽光発電に投資したとしても、原発の10分の1の電力も得られないのです。今後は事故被害の補償や安全対策で原発の発電コストが上がることは間違いありませんが、発電コストが逆転することは当分ありえません。風力は17円/kWhとされていてまだマシですが、なぜ孫氏は風力を推さないのでしょうか。日本各地で低周波による健康被害が起きていて、民間発電事業者の多くが実は補助金頼みで、発電で収益をあげるのが難しいことを知っているからかもしれません。
では、この発電事業でソフトバンクは儲かるのでしょうか。孫氏がどのような事業形態を想定しているのかは不明ですが、仮にソフトバンク1社でこの事業を手がけた場合、どれぐらいの利益が出るのかを算出してみます。
メガソーラー計20万kWで稼働率12%とすると、年間の発電量は、
200000(kW)×24(h)×365(日)×0.12=210240000(kWh)
1kWhあたり40円で売れば、
210240000(kWh)×40(円)=8409600000(円)=約84億円
年間の売り上げは約84億円で、20年間で約1680億円になります。
投資額は1400億円なので、20年で280億円の利益が出ます。
現実にはインバータなどの交換や修理などのメンテナンスコストがかかりますが、一方で家の屋根に設置する場合と異なり、更地に建設するメガソーラーは隣のビルに太陽光を遮られるようなことがないので、稼働率は上がるはずで、自治体から遊休地をタダで借りるなら建設コストはさらに下がるはずです。ですから、20年で280億円、1年あたり14億円という金額は妥当なところではないでしょうか。
これは“ぼろ儲け”といってもいいでしょう。全量買い取りで利益が確実に見込めるので、銀行は喜んでお金を貸します。建てるだけでお金が入ってくるのですから、こんな楽な商売はありません。
しかし、この1680億円を誰が負担するのかというと、電力会社が20年かけて分割して支払うわけです。電力会社は発電コストが上がれば電気代を上げますから、結局は国民が負担することになります。孫氏が利益を増やすために中国や韓国のメーカーから安いソーラーパネルを購入したりすれば、日本経済に対する経済効果はほとんどゼロです。しかもメガソーラーは雇用をほとんど生みません。税金なら公共事業に使われて日本経済に還元されたりしますが、国民のお金がただただ吸い上げられて中国や韓国に流れていくとしたら、税金よりはるかにタチが悪く、国民に負担がのしかかるだけになります。
「太陽光の発電コストは40円/kWhよりもっと安い」と反論する人がいるかもしれませんが、それは的外れです。孫氏が「40円/kWhで買い取れ」と言っているのです。実際はもっと安かったとしても、国民が負担するのは40円/kWhをベースにした金額で、発電コストが下がって儲かるのはソフトバンク。文句があれば孫氏に言うべきでしょう。
実際のところ、20万kW程度で収めるのであれば、電気代にも電力系統にも大した影響は与えないでしょう。これだけで急に電気代が高騰するわけではありませんが、発電量は原発1基の29分の1にしかならず、代替にはほど遠い状態です。とすると、孫氏は発電事業の利益を新たなメガソーラー建設に投入していくつもりなのかもしれません。そうなると買い取り量がどんどん増え、国民負担は増加していきます。
以前書いたように、太陽光発電のような出力の不安定な電源を「大量に」電力系統につなぐには、同じ容量分だけバックアップの火力発電が必要になります。「夏の昼間のピーク時に、日本中で雨が降ると太陽光発電の電力供給がすっぽり抜け落ちるので、代わりに電力を供給する電源が必要」という話を理解できない人はいませんよね。太陽光発電を導入して原発を止めるわけですから、既存の火力はフル稼働で、結局は原発分と同じ量の電力を発電できるだけの火力発電所を新たに建設しなければならなくなるのです。
もし太陽光で脱原発をするのなら、太陽光発電の電力を高額買い取りしながら、実際には原発分の火力発電所を新規建設しなければならず、しかも原子炉を廃炉にしていくわけですから、これで電気代が高騰しないわけがありません。電気代が高騰すれば日本経済は失速し、国民は高い電気代を負担させられ、その一方でソフトバンクがぼろ儲けすることになります。こんなことが許されていいのでしょうか。
ヨーロッパでも風力の電力を買い取る場合、大資本の参入は規制されているのが一般的です。高い電気代を負担するのは一般市民で、それで大企業がぼろ儲けすると不公平感が生まれるからです。ですから、高い電気代を負担する市民からの出資を集めて風車を建て、電力を買い取り、その利益が市民に還元されるというしくみになっています。大資本がどんどん参入して風車を建てまくると、一般市民は高い電気代を負担するだけになるのです。
仮に孫氏が市民出資の方式を導入したとしても、派遣や契約で働いているような貧しい若者は、何十万円もの出資などできないでしょう。一般家庭でソーラーパネルを設置できるのも一戸建ての持ち家に住んでいる人に限られ、賃貸住宅やマンションに住んでいる人は設置できません。金持ちは発電で儲けられるようになり、一方で底辺にいる貧しい若者たちは仕事を失い、高い電気代を負担させられて、ますます貧しくなります。貧富格差が拡大するのです。まあ、それ以前にメーカーの工場がみな海外に逃げ出して、原発を止めても電力は足りるようになっているでしょうが。
私は、孫正義という人は電力システムについて(かなり)不勉強なだけで、基本的には善意で動いていると思っていました。しかし、この構想は危険であるだけでなく、孫氏の“善意”に疑いがかけられても仕方がないものだと思います。電力の安定供給が約束されている状態であれば、少々ラジカルな方策も受け入れられますが、今はダメです。
まともな学者に聞けば、誰もが原発を代替できるのは「天然ガス火力(コンバインドサイクル)」と「節電」だと言います。シェールガスという非在来型の天然ガスが実用化されたからです。今のような緊急時に、空想で物事を進めるのは非常に危険だと思います。孫氏は「日本経済を崩壊させたA級戦犯」として歴史に名を刻みたいのでしょうか。
2011/06/19
2011/06/07
中国の風車は3分の1が電力系統に接続されていない
前回とちょっと関係のある話です。
風力発電拡大に落とし穴、大規模な送電網脱落事故で--中国
専門用語が多いので、簡単に説明します。今年の2月24日に中国・甘粛省の風力発電所で、事故でショート(短絡)が起きて電圧が変動し、300基の風車が一斉に「解列」した。「解列」というのは、電圧が変動すると発電機が壊れる危険が高まるので、系統から切り離して発電機を守るということ。安全装置が働いた状態です。しかし、解列が起きると風車は電力を系統に送らなくなるわけで、電圧はさらに低下し、解列をどんどん引き起こします。結果的に、計598基が解列し、設備容量84万kW分の電力が喪失した。さらに4月17日に同じく甘粛省で702基、容量100万kW分が解列。同じ4月17日には河北省で644基、85万4000kW分が解列する脱落事故が起きたそうです。他にも中国の風力発電所ではしょっちゅう脱落事故が起きているようです。
ヨーロッパでも2006年11月に大規模な脱落事故が起き、危うくドイツやイタリア、スペイン、オランダなど11か国の地域で1700万kW分もの大停電が起きる寸前になったことがあります。その反省から、現在の最新の風力発電機は、電圧が変動しても系統から切り離さないしくみ(LVRT)になっていますが、中国では旧型ばかりで、それが問題になっているということです。
びっくりするのはその次の話で、中国は2010年末時点で風力発電の設備容量が4470万kWに達して世界一になりましたが、その内、電力系統に接続されているのは2956万kW分だけで、1514万kW分が接続されていないとのこと。つまり3分の1は建てただけで、まったく電力を送ってないのです。中国ってすごい国です。
しかし、現状でこれほどしょっちゅう脱落事故が起きているのに、残りを系統につないだりしたら、よけいに大変なことになるでしょう。つなぎたくてもつなげないというのが現実です。既存の風車をLVRTに対応させようとすれば、1基10万元かかり、全土に2万基以上あるので、100億元以上かかると。1元=12.4円で計算すると、1240億円以上。中国はお金が余っているから無問題ですが。
風力発電拡大に落とし穴、大規模な送電網脱落事故で--中国
専門用語が多いので、簡単に説明します。今年の2月24日に中国・甘粛省の風力発電所で、事故でショート(短絡)が起きて電圧が変動し、300基の風車が一斉に「解列」した。「解列」というのは、電圧が変動すると発電機が壊れる危険が高まるので、系統から切り離して発電機を守るということ。安全装置が働いた状態です。しかし、解列が起きると風車は電力を系統に送らなくなるわけで、電圧はさらに低下し、解列をどんどん引き起こします。結果的に、計598基が解列し、設備容量84万kW分の電力が喪失した。さらに4月17日に同じく甘粛省で702基、容量100万kW分が解列。同じ4月17日には河北省で644基、85万4000kW分が解列する脱落事故が起きたそうです。他にも中国の風力発電所ではしょっちゅう脱落事故が起きているようです。
ヨーロッパでも2006年11月に大規模な脱落事故が起き、危うくドイツやイタリア、スペイン、オランダなど11か国の地域で1700万kW分もの大停電が起きる寸前になったことがあります。その反省から、現在の最新の風力発電機は、電圧が変動しても系統から切り離さないしくみ(LVRT)になっていますが、中国では旧型ばかりで、それが問題になっているということです。
びっくりするのはその次の話で、中国は2010年末時点で風力発電の設備容量が4470万kWに達して世界一になりましたが、その内、電力系統に接続されているのは2956万kW分だけで、1514万kW分が接続されていないとのこと。つまり3分の1は建てただけで、まったく電力を送ってないのです。中国ってすごい国です。
しかし、現状でこれほどしょっちゅう脱落事故が起きているのに、残りを系統につないだりしたら、よけいに大変なことになるでしょう。つなぎたくてもつなげないというのが現実です。既存の風車をLVRTに対応させようとすれば、1基10万元かかり、全土に2万基以上あるので、100億元以上かかると。1元=12.4円で計算すると、1240億円以上。中国はお金が余っているから無問題ですが。
2011/06/04
太陽光・風力発電を大量導入するときの見えないコスト 2
前回の続きで、少々補足をします。
出力が変動する風力や太陽光のバックアップに、火力発電ではなく蓄電池を利用するという考え方もあります。夜間に風が吹き、その電力を昼間に使う、あるいは晴れの日に貯めた電力を雨の日に使う。スマートグリッドの考え方で、蓄電池の導入でバックアップの火力発電をいくらか減らせるかもしれません。しかし、火力発電を減らしてコストダウンできても、蓄電池を導入した分コストアップします。また、蓄電池はそれ自体が発電するわけではないので限界もあります。1週間ぐらいの間、「発電できるほどの風が吹かない」、「雨が降り続けた」、となればそもそも貯める電力がないわけで、結局、火力で代替するしかなくなります。
私はこれまで「電池社会」を提唱してきましたが、それは原発(と大規模火力)という安定供給できるベースロード電源があって、夜間に充電した電力を昼間に使うという構想でした。蓄電池が安くなり、電力供給にある程度余裕がある状態を想定していて、蓄電池が普及すればそこに風力や太陽光の電力も貯めればいいと考えたのです。揚水発電の場合は、ある程度まとまった変動しない電力でないとポンプを動かせないはずで、風力や太陽光の電力を入れるのは難しいですが、蓄電池ならふらふら変動する電力でも吸収できるわけです。もちろん、原発を火力で代替してもこの構図は成り立つわけですが、火力は化石燃料の価格と供給の両面からリスクを抱え込むことになります。この話はちょっと置いておきますが、現在のような需給がひっ迫している状況では、少なくとも蓄電池を導入すれば風力や太陽光が主力になれるというわけではないということです。
その一方で、風力や太陽光を大量導入するためには、蓄電池はやはり必要になってくるでしょう。むしろ蓄電池を利用する理由は、出力変動を抑えるためと考えたほうがいいと思います。電力のシステムというのは需要と供給がぴったり一致した状態に保たないと安定しません。需要に対して供給は多すぎても少なすぎても、停電は起きます。そのしくみについて安井至先生が下記のサイトで解説されています。
3.11以後のエネルギー戦略3
停電までいかなくても、需要に対して供給が多いと電圧と周波数が上がり、少ないと電圧と周波数は下がります。現実には、変動する需要に対して供給をコントロールする必要があるわけですが、供給側に位置する太陽光や風力が変動してしまうわけで、コントロールが非常に難しくなります。太陽光や風力のような変動する電力は、電圧と周波数の変動を生むのです。最近の家電製品はインバータが入っているので、電圧や周波数の変動は一般家庭にはあまり影響ありませんが、企業の製造工場では問題を起こします。製紙工場や繊維工場の糸や紙の巻き取り工程、アルミ工場の圧延工程、石油精製工場の分解・脱硫工程、自動車工場の溶接工程などで品質問題を引き起こすといわれています。日本の電力は品質が高く、ごく稀に起きる電圧や周波数の変動に対して対策するとなると、コストアップの要因になるので、対策をしていない企業も多いのです。電力系統に影響を与えないよう、発電した電力をいったん蓄電池に貯めて、オンデマンドで取り出せるようにすることで、出力変動を抑えようということです。電力の受け入れ先として、電気自動車の蓄電池を利用するという考え方もあります。
結局は、もし大量に導入しようと思えば、バックアップの火力発電も出力変動を抑える蓄電池も必要になるのです。少量であれば問題ないが、大量に入れようと考えると、こういったよけいなコストがかかるということです。今後、日本で原発の新規建設は不可能でしょうから、もはや「脱原発」は既定路線だと言えます。ならば、どうすれば原発を代替できるのかを冷静に議論したいものです。
出力が変動する風力や太陽光のバックアップに、火力発電ではなく蓄電池を利用するという考え方もあります。夜間に風が吹き、その電力を昼間に使う、あるいは晴れの日に貯めた電力を雨の日に使う。スマートグリッドの考え方で、蓄電池の導入でバックアップの火力発電をいくらか減らせるかもしれません。しかし、火力発電を減らしてコストダウンできても、蓄電池を導入した分コストアップします。また、蓄電池はそれ自体が発電するわけではないので限界もあります。1週間ぐらいの間、「発電できるほどの風が吹かない」、「雨が降り続けた」、となればそもそも貯める電力がないわけで、結局、火力で代替するしかなくなります。
私はこれまで「電池社会」を提唱してきましたが、それは原発(と大規模火力)という安定供給できるベースロード電源があって、夜間に充電した電力を昼間に使うという構想でした。蓄電池が安くなり、電力供給にある程度余裕がある状態を想定していて、蓄電池が普及すればそこに風力や太陽光の電力も貯めればいいと考えたのです。揚水発電の場合は、ある程度まとまった変動しない電力でないとポンプを動かせないはずで、風力や太陽光の電力を入れるのは難しいですが、蓄電池ならふらふら変動する電力でも吸収できるわけです。もちろん、原発を火力で代替してもこの構図は成り立つわけですが、火力は化石燃料の価格と供給の両面からリスクを抱え込むことになります。この話はちょっと置いておきますが、現在のような需給がひっ迫している状況では、少なくとも蓄電池を導入すれば風力や太陽光が主力になれるというわけではないということです。
その一方で、風力や太陽光を大量導入するためには、蓄電池はやはり必要になってくるでしょう。むしろ蓄電池を利用する理由は、出力変動を抑えるためと考えたほうがいいと思います。電力のシステムというのは需要と供給がぴったり一致した状態に保たないと安定しません。需要に対して供給は多すぎても少なすぎても、停電は起きます。そのしくみについて安井至先生が下記のサイトで解説されています。
3.11以後のエネルギー戦略3
停電までいかなくても、需要に対して供給が多いと電圧と周波数が上がり、少ないと電圧と周波数は下がります。現実には、変動する需要に対して供給をコントロールする必要があるわけですが、供給側に位置する太陽光や風力が変動してしまうわけで、コントロールが非常に難しくなります。太陽光や風力のような変動する電力は、電圧と周波数の変動を生むのです。最近の家電製品はインバータが入っているので、電圧や周波数の変動は一般家庭にはあまり影響ありませんが、企業の製造工場では問題を起こします。製紙工場や繊維工場の糸や紙の巻き取り工程、アルミ工場の圧延工程、石油精製工場の分解・脱硫工程、自動車工場の溶接工程などで品質問題を引き起こすといわれています。日本の電力は品質が高く、ごく稀に起きる電圧や周波数の変動に対して対策するとなると、コストアップの要因になるので、対策をしていない企業も多いのです。電力系統に影響を与えないよう、発電した電力をいったん蓄電池に貯めて、オンデマンドで取り出せるようにすることで、出力変動を抑えようということです。電力の受け入れ先として、電気自動車の蓄電池を利用するという考え方もあります。
結局は、もし大量に導入しようと思えば、バックアップの火力発電も出力変動を抑える蓄電池も必要になるのです。少量であれば問題ないが、大量に入れようと考えると、こういったよけいなコストがかかるということです。今後、日本で原発の新規建設は不可能でしょうから、もはや「脱原発」は既定路線だと言えます。ならば、どうすれば原発を代替できるのかを冷静に議論したいものです。
2011/06/01
太陽光・風力発電を大量導入するときの見えないコスト
1つ前のエントリーで、揚水発電で電力不足分を賄えるかという話を書きましたが、いつのまにか供給量が積み増されていたようです。こういう「いいニュース」は大きく報じられないのですね。
東電5500万キロワット供給へ 夏の電力計画引き上げ
企業の自家発電の余剰電力や揚水発電所の稼働率向上、被災した広野火力発電所の一部復旧で、5500万kWにまで増える見通し。今夏が平年並みの暑さならギリギリ賄える水準です。ただ、東北電力は270万kW不足する見込みで、東電が100万kWを融通するそうなので、東電管内の企業に対しては15%の節電を求めています。25%よりは大幅に減りましたが、輪番操業などは必要になりそうです。
東芝は、東電管内の本社・支社で7〜9月にかけ3週間の夏季休日、東電管内の製造拠点は7〜8月にかけ2週間の夏季休日を設定するそうです。工場は半月休むということで、正社員は給料減らないかもしれませんが、会社側の負担は増えることになり、時給で働いているパートやアルバイトは労働時間が半分になり、給料は半額になるのではないでしょうか。
被災した東電、東北電の管内で電力の需給がひっ迫するのは仕方がないことですが、全国で定期点検のために停止した原発が、地元の反対で再稼働できなくなっているため、電力不足が全国に広がる気配です。
夏の電力切迫の恐れ 全国の原発54基中42基停止も
中部電力は浜岡を停止させられたので、需給がひっ迫し、東電へ電力を融通できなくなり、九州電力では玄界の運転再開ができず、需要ピーク時に20〜25%も不足。四国電力は伊方再開のために周辺の2万1000戸に戸別訪問するそうです。冷夏になれば別ですが、平年並みの暑さなら、全国で計画停電が必要になるかもしれません。私は関西への工場移転を提言しましたが、まさかこんなことになるとは。このままだと関西に移転してもダメですね。
前置きが長くなりました。
今回は、5月下旬に開催されたG8サミットで、菅首相が「2020年代の早い時期に再生可能エネルギーの比率を電力需要の20%にまで高める」「1000万戸にソーラーパネルを設置する」と宣言した件について、少々書きます。
経済評論家の池田信夫氏が以下のような記事を書かれています。
太陽光発電という「課税」
ソーラーパネルを1000万戸に設置するには、補助金と高額な電力買い取りで、国民負担が3兆5000億円増大するとのこと。補助金は天から降ってくるわけではなく、国民が収めた税金ですし、電力会社が高額で買い取れば、そのコスト増は電気代のアップで賄うしかありません。消費税の税収は1%で2兆4000億円ほどなので、1.5%分ぐらいが飛んでいくということです。しかも1000万戸に設置しても電力需要の4%ほどにしかなりません。この宣言について国会での審議はおろか、海江田経産相も「聞いてない」と答えたそうで、鳩山首相のときと同様、菅首相の独断のようです。
実は風力や太陽光の発電コストは上記だけではありません。出力が安定しない風力・太陽光発電の電力を需要の20%まで導入するには、バックアップの電源が必ず必要になるのです。
電力会社は夏場の電力需要のピーク時に合わせて発電設備の投資を行ないます。日本では夏以外の季節には需要は下がるので、多くの発電所は遊んでいることになるのですが、ピーク時に電力を供給できなければ停電が起きるので、そうせざるをえないのです。
しかし、日本では夏場に発電できるほどの強い風が吹かないことが多く、現実に日本の風力発電事業者の発電実績は冬場に集中しています。夏場は戦力にならないのです。一方の太陽光発電は、日中晴れなら発電できますが雨ならほとんど発電できません。一般家庭に導入する太陽光発電の場合は、自家消費でピークカットする効果があるわけですが、雨の日は電力会社から買うわけで需要が増加します。雨の日は気温が下がるので多少需要が落ちますが、企業の製造工場では天気に関係なく製造のための電力需要が発生するし、蒸し暑ければ一般家庭でエアコンが利用されます。東電の場合、企業など大口需要家と一般家庭の比率は7:3ぐらいなので、雨であってもそれなりに需要はあるということです。「雨が降ったので、今日は停電します」というのは、需要家にとってはありない話です。
大量に導入すれば、どこかで晴れていたりどこかで風が吹いていたりするので平滑化されて問題ないというのですが、「日本中で雨の日」はあるし、「日本中であまり風が吹かない日」はあります。いくら気象予測が正確・精密にできるようになったとしても、風が吹かない日は吹かないし、雨が降る日は降るのです。夏場のピーク時に1日でもそんな日があるのなら供給がショートするので、20%分だといっても、結局は代替する電源、すなわち火力発電所を用意しておく必要があります。
ですから、太陽光や風力を大量導入するには、その設備容量と同じ容量だけ火力発電所を建設しなければならないということです。今から順次導入していく分には既存の火力発電所があるのでいいのですが、将来的に火力発電所が老朽化してきたら、風力や太陽光のバックアップのために新規に火力発電所を建設しなければならなくなります。どれほど太陽光・風力が増えても、今と同じだけ火力発電所をもっておくということです。その建設コストも本来なら発電コストに上乗せされるはずなのです。
風力が普及しているヨーロッパでも、火力発電をバックアップに使っています。大陸で風が安定しているとはいえ、予測に逆らって急にパタッとやむことも現実にあります。いくら火力の起動は早いといっても、急な変動には追いつけません。だから、常に炉を炊いてアイドリング状態にしておくのです。量の多少はありますが、発電してもしなくても化石燃料は消費されるということです。炉を炊いているのに発電しないのですから、その燃料コストとCO2排出も本来なら上乗せされるべきでしょう。
つまり、風力や太陽光を大量に導入するには、見えないところでそういったコストがかかるということです。では、なぜ今は風力や太陽光の電力が入っているかというと、総電力需要に占める割合が極めて小さく、入っても入らなくても影響がほとんどないからです。
東大名誉教授の安井至先生は「日本では地熱と中小水力が最有力」とおっしゃっています。一定の電力を安定的に取り出せるからで、代替の火力発電や蓄電池がなくても戦力になるのです。資源エネルギー庁の「エネルギー白書2010」によれば、1kWあたりの風力の発電コストは10〜14円、太陽光49円、地熱8〜22円とされていますが、上記のコストを含めれば、風力と地熱のコストは逆転するのではないでしょうか。
Googleは地熱ベンチャーに1000万ドル投資しています。従来の温泉を掘り当てる方式ではなく、さらに深く高温岩体まで掘って、水を注入して温める方式です。掘るコストが高くつくのが課題で、その研究開発をしているわけです。もちろん、ベンチャーですから現段階では成功するかどうかはわかりません。
東電5500万キロワット供給へ 夏の電力計画引き上げ
企業の自家発電の余剰電力や揚水発電所の稼働率向上、被災した広野火力発電所の一部復旧で、5500万kWにまで増える見通し。今夏が平年並みの暑さならギリギリ賄える水準です。ただ、東北電力は270万kW不足する見込みで、東電が100万kWを融通するそうなので、東電管内の企業に対しては15%の節電を求めています。25%よりは大幅に減りましたが、輪番操業などは必要になりそうです。
東芝は、東電管内の本社・支社で7〜9月にかけ3週間の夏季休日、東電管内の製造拠点は7〜8月にかけ2週間の夏季休日を設定するそうです。工場は半月休むということで、正社員は給料減らないかもしれませんが、会社側の負担は増えることになり、時給で働いているパートやアルバイトは労働時間が半分になり、給料は半額になるのではないでしょうか。
被災した東電、東北電の管内で電力の需給がひっ迫するのは仕方がないことですが、全国で定期点検のために停止した原発が、地元の反対で再稼働できなくなっているため、電力不足が全国に広がる気配です。
夏の電力切迫の恐れ 全国の原発54基中42基停止も
中部電力は浜岡を停止させられたので、需給がひっ迫し、東電へ電力を融通できなくなり、九州電力では玄界の運転再開ができず、需要ピーク時に20〜25%も不足。四国電力は伊方再開のために周辺の2万1000戸に戸別訪問するそうです。冷夏になれば別ですが、平年並みの暑さなら、全国で計画停電が必要になるかもしれません。私は関西への工場移転を提言しましたが、まさかこんなことになるとは。このままだと関西に移転してもダメですね。
前置きが長くなりました。
今回は、5月下旬に開催されたG8サミットで、菅首相が「2020年代の早い時期に再生可能エネルギーの比率を電力需要の20%にまで高める」「1000万戸にソーラーパネルを設置する」と宣言した件について、少々書きます。
経済評論家の池田信夫氏が以下のような記事を書かれています。
太陽光発電という「課税」
ソーラーパネルを1000万戸に設置するには、補助金と高額な電力買い取りで、国民負担が3兆5000億円増大するとのこと。補助金は天から降ってくるわけではなく、国民が収めた税金ですし、電力会社が高額で買い取れば、そのコスト増は電気代のアップで賄うしかありません。消費税の税収は1%で2兆4000億円ほどなので、1.5%分ぐらいが飛んでいくということです。しかも1000万戸に設置しても電力需要の4%ほどにしかなりません。この宣言について国会での審議はおろか、海江田経産相も「聞いてない」と答えたそうで、鳩山首相のときと同様、菅首相の独断のようです。
実は風力や太陽光の発電コストは上記だけではありません。出力が安定しない風力・太陽光発電の電力を需要の20%まで導入するには、バックアップの電源が必ず必要になるのです。
電力会社は夏場の電力需要のピーク時に合わせて発電設備の投資を行ないます。日本では夏以外の季節には需要は下がるので、多くの発電所は遊んでいることになるのですが、ピーク時に電力を供給できなければ停電が起きるので、そうせざるをえないのです。
しかし、日本では夏場に発電できるほどの強い風が吹かないことが多く、現実に日本の風力発電事業者の発電実績は冬場に集中しています。夏場は戦力にならないのです。一方の太陽光発電は、日中晴れなら発電できますが雨ならほとんど発電できません。一般家庭に導入する太陽光発電の場合は、自家消費でピークカットする効果があるわけですが、雨の日は電力会社から買うわけで需要が増加します。雨の日は気温が下がるので多少需要が落ちますが、企業の製造工場では天気に関係なく製造のための電力需要が発生するし、蒸し暑ければ一般家庭でエアコンが利用されます。東電の場合、企業など大口需要家と一般家庭の比率は7:3ぐらいなので、雨であってもそれなりに需要はあるということです。「雨が降ったので、今日は停電します」というのは、需要家にとってはありない話です。
大量に導入すれば、どこかで晴れていたりどこかで風が吹いていたりするので平滑化されて問題ないというのですが、「日本中で雨の日」はあるし、「日本中であまり風が吹かない日」はあります。いくら気象予測が正確・精密にできるようになったとしても、風が吹かない日は吹かないし、雨が降る日は降るのです。夏場のピーク時に1日でもそんな日があるのなら供給がショートするので、20%分だといっても、結局は代替する電源、すなわち火力発電所を用意しておく必要があります。
ですから、太陽光や風力を大量導入するには、その設備容量と同じ容量だけ火力発電所を建設しなければならないということです。今から順次導入していく分には既存の火力発電所があるのでいいのですが、将来的に火力発電所が老朽化してきたら、風力や太陽光のバックアップのために新規に火力発電所を建設しなければならなくなります。どれほど太陽光・風力が増えても、今と同じだけ火力発電所をもっておくということです。その建設コストも本来なら発電コストに上乗せされるはずなのです。
風力が普及しているヨーロッパでも、火力発電をバックアップに使っています。大陸で風が安定しているとはいえ、予測に逆らって急にパタッとやむことも現実にあります。いくら火力の起動は早いといっても、急な変動には追いつけません。だから、常に炉を炊いてアイドリング状態にしておくのです。量の多少はありますが、発電してもしなくても化石燃料は消費されるということです。炉を炊いているのに発電しないのですから、その燃料コストとCO2排出も本来なら上乗せされるべきでしょう。
つまり、風力や太陽光を大量に導入するには、見えないところでそういったコストがかかるということです。では、なぜ今は風力や太陽光の電力が入っているかというと、総電力需要に占める割合が極めて小さく、入っても入らなくても影響がほとんどないからです。
東大名誉教授の安井至先生は「日本では地熱と中小水力が最有力」とおっしゃっています。一定の電力を安定的に取り出せるからで、代替の火力発電や蓄電池がなくても戦力になるのです。資源エネルギー庁の「エネルギー白書2010」によれば、1kWあたりの風力の発電コストは10〜14円、太陽光49円、地熱8〜22円とされていますが、上記のコストを含めれば、風力と地熱のコストは逆転するのではないでしょうか。
Googleは地熱ベンチャーに1000万ドル投資しています。従来の温泉を掘り当てる方式ではなく、さらに深く高温岩体まで掘って、水を注入して温める方式です。掘るコストが高くつくのが課題で、その研究開発をしているわけです。もちろん、ベンチャーですから現段階では成功するかどうかはわかりません。
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