仕事で福島原発の事故に関する調査レポートを読んだのですが、原稿で書き切れなかった部分をここで書くことにします。
「福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか」中間報告 チームH20プロジェクト
福島原子力事故調査 中間報告書 東京電力
東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 中間報告
上から順に「大前レポート」「東電レポート」「畑村レポート」とします。大前レポートは、大前研一氏が組織した民間調査組織による調査レポートで、08年に電源喪失による炉心溶融の可能性を指摘した(独)原子力発電安全基盤機構のメンバーが参加しています。東電レポートは東電による内部調査、畑村レポートは政府の事故調査・検証委員会による調査です。
これらのレポートを読んで、非常に興味深い記述にも関わらず、メディアがあまり触れようとしない話を中心に述べていくつもりです。
まず大前レポートで興味深かったのは、福島第一だけでなく、福島第二や女川、東通、東海第二など同様に津波に襲われた原発との比較を詳細に行なっている点です。津波の被害に関して、単純に(海面からの)津波の高さではなく、
「海面からの津波の高さ」ー「敷地の高さ」=「原発を襲った津波の実質高さ」
で比較すべきとしています。実質的な高さで言えば、やはり福島第一を襲った津波がもっとも高く、浸水域も広範で、そのために非常用電源をすべて失い、事故に至りました。他の原発については、浸水域が限定的で、直流、交流問わず非常用電源が1基以上生き残っていたので、冷温停止にまで持ち込めたとしています。ただし、福島第一については電源盤が水没して故障したので、非常用電源が生き残っていたとしても救えなかったとしています。つまり、非常用電源だけでなく、電源盤も水没しない高さに設置する、あるいは水密構造にする必要があるということです。
朝日新聞は事故の直後に「地震で原子炉が破壊され、津波が来る前に制御不能に陥っていた」と報じましたが、これは完全なデマでした。もし地震で壊れていたら、中央制御室には異常を知らせる警告信号が返ってくるはずで、それらはログとして残されます。こんなことは後から調べればわかることで、いかにいいかげんな報道をしていたかよくわかります。少なくとも地震に耐えたことは事実です。
もう一つ、非常に興味深い記述がありました。これは3つのレポートすべてに書かれていることですが、大手メディアでこのことに触れている記事はまず見かけません。
テレビ報道等で「今から1000年以上も前の869年に東北地方で起きた貞観地震が再び起きる危険が指摘されていたのに、東電はその対策をしなかったために、事故が起きた」と報じられ、私も鵜呑みにしていたのですが、どうも事情は少々異るようです。
事故の前に、貞観地震の再来を指摘したのは土木学会です。東京大学地震研究所の佐竹健治教授らの指摘を受けて、東電は何もしなかったのかというと、そうではありません。福島第一原発の吉田昌郎所長(事故当時)が東電本社にいた頃に、福島県内で貞観津波の堆積物の調査を行なっているのです。畑村レポートにはこうあります。
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東京電力は、平成21年11月、福島県に対し、津波堆積物調査についての説明を行い、農閑期である同年12月から平成22年3月までの間、福島県沿岸において、津波堆積物調査を実施した。
その結果、貞観津波の堆積物が、福島第一原発より10km北方に位置する南相馬市小高区浦尻地区等において発見されたが、福島第一原発より南方では、津波堆積物は発見されなかった。
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不幸にも、福島県の沿岸部を掘り返してみたところ、津波の痕跡はみつかりませんでした。貞観地震の震源地は、今回の大震災の震源地よりもかなり北の方にあったため、福島第一の付近のエリアまで津波は来なかったのです。だから、東電は対策を講じなかったのですが、国の中央防災会議は、「歴史的に繰り返して起きる地震を調査して対策せよ」という方針なので、それに反しているとは言えないことになります。
土木学会の見解では、今回の大震災は震源地の位置からしても、貞観地震の再来ではなく、別の地震だとされています。つまり、1000年どころか、有史以前の、数千年に1回規模の巨大地震だった可能性があるのです。
こういう想定外の地震に対しても対策をすべきだったのかというと、やはりすべきだったのでしょう。日本原子力発電の東海第二原発では、土木学会からの指摘をもとに非常用ディーゼル電源の側壁を4.91mから6.11mに増設していたおかげで、5.4mの津波に襲われても非常用電源2台が生き残って冷温停止に成功しています。今、日本中の原発では、非常用電源をタービン建屋の上や高台に増設し、原子炉建屋を水密構造にし、防潮堤の高さを上げるなどの対策が行なわれていますが、こういった対策を先にやっておけばこんな事故は起きなかったと考えられます。
しかし、こういった「津波の危険性」や「電源喪失で炉心溶融」を指摘したのは、“御用”とか“原子力ムラ”と呼ばれている研究者ばかりだったということも実に興味深い事実です。
2012/03/11
2011/09/14
「安心」と「安全」の違い
東北地方の歴史を遡ると、岩手県から福島県にかけて巨大津波が襲ったのは865年(貞観津波)のことで、まさに1000年に1回の規模の大津波が東北地方を襲いました。この津波で2万人もの人々が死亡・行方不明になりましたが、高さ20mを超えるような巨大津波を想定して、国や自治体は対策をしていたでしょうか。まったくしていなかったからこそ、これほど多くの被害者が出たわけです。
岩手県の宮古市田老地区には日本一といわれる高さ10mの防波堤があり、1960年のチリ地震津波から村を護りました。しかし、今回の大津波には耐え切れませんでした。
「日本一の防潮堤」無残 想定外の大津波、住民ぼうぜん asahi.com
一方、福島第一原発は5.7mの津波にも耐えられるように設計されていましたが、13mのの大津波に襲われて冷却用電源を消失し、事故を起こしました。甚大な経済的被害をもたらしましたが、原発周辺の住民に放射能災害で亡くなられた方はいませんし、これからもほとんど出ないでしょう。
福島県で住民の「内部被曝量」の先行調査を行なったところ、内部被曝線量がもっとも高かった浪江町の子供でも、70歳までの累積で推計「3mSv未満」だったそうです。
浪江町の子ども、生涯3ミリシーベルト未満も 内部被曝調査で 日本経済新聞
生涯でたった3ミリシーベルト。反原発団体は「子供の尿から放射性セシウムが出た」と騒いでいましたが、尿から検出されるということは「体外に排出されている」ということです。今まで内部被爆で騒いでいたマスコミは、もう少し冷静になるべきでしょう。
土地や家を放射能で汚染されて住めなくなった方たちの悲しみには言葉もありませんが、津波に流されて亡くなった方たちの恐怖と絶望も想像を絶するものだったでしょう。大津波は農地や家も徹底的に破壊し、海水(塩水)にさらされた田畑を復活させるのも容易ではありません。生き残ればそれを嘆くこともできますが、亡くなられた方はもはやそれさえもできないのです。1000年以上前に巨大津波があったことは史実として残されていたのに対策をしなかったから、こういう悲劇が起きたわけです。
(財)エネルギー経済研究所が6月24日に公表した「原子力発電の再稼働の有無に関する2012年度までの電力需給分析」によれば、原発を再稼働しない場合、2012年度の夏季には電力供給が7.8%足りなくなり、12年度の化石燃料調達費は3兆5000億円増加すると試算しています。燃料費の増加を電気料金に上乗せすれば、家庭用で18.5%、産業用で36%も上昇します。中東などの産油国に丸々3兆5000億円を献上するだけで経済効果はゼロ。しかも原発を再稼働しなければ、毎年毎年この負担が続くわけです。
今夏は15%の節電を強要されましたが、原発54基中16基がまだ稼働しているからなんとか乗り切れたわけです。しかし、史上空前の円高に加え、電力不足と電気代の高騰が続くのであれば、日本企業の工場はどんどん海外に逃げ出します。同研究所は、7月28日の「短期エネルギー需給見通し」で、原発の再稼働がない場合、12年度末までにGDPは3.6%減少し、失業者が約20万人増えるという試算も公表しています。
このまま産業空洞化が進んで失業者が溢れ、景気が後退していけば、電力需要は減少し、いずれ火力と水力だけで電力需要を賄えるようになり、脱原発が完遂されるでしょう。それまでに燃料費で数10兆円ものお金が吹っ飛び、日本はバブル崩壊のときよりひどい経済停滞に落ち込むでしょうが、即時全基停止でいったい何人の命を救えるのかというと、効果はほぼゼロです。むしろ、老朽化した火力発電所を無理に運転して大気汚染が悪化し、気管支喘息や肺がんなどで亡くなる人が増える可能性もあります。失業者が増えれば自殺者も増えるでしょう。911テロの後、多くのアメリカ人が飛行機を避けて自動車を利用したことで交通事故が激増し、1600人も死者が増加したのと同じです。
私には不思議で仕方がありません。孫正義氏らは「未来の命を救う」ために脱原発を唱えているわけですが、数10兆円ものお金を使うのなら、原発を止めるより、津波の対策をした方がはるかにたくさんの命を救えるのではないでしょうか。原発周辺の海に近い地域に住んでいる人々は、「原発を止めろ」ではなく、なぜ「津波対策をしろ」と言わないのでしょう。原発がなくなっても大津波に襲われたらひとたまりもないのです。原発事故では避難する時間が十分にありましたが、津波の場合は逃げ切れなかった人が2万人もいたわけです。自分だけは逃げ切れると思っているのでしょうか。自分は逃げられたとしても、子供や高齢者は逃げ切れるでしょうか。
「安心」と「安全」は違うといわれますが、「安心」っていったい何なのでしょう。
生肉を食べて腸管出血性大腸炎にかかる人は毎年100〜300人いて死者も出ています。生で牛肉を食べるのは危険なのですが、店側が商品として提供しているから「安心」して焼き肉店でユッケを食べて、4人の方が亡くなりました。シロウオの踊り食いが今も提供されているのか知りませんが、川魚には寄生虫がいるのが当たり前で、食中毒がしょっちゅう起きています。食中毒になるなど夢にも思わず、「安心」して食べてあたるわけです。「安心」って何なのでしょう。
反原発ヒステリーを起こして全基停止を主張している人々は、とにかく「原発が止まれば安心」なのかもしれませんが、現実には何一つ命を脅かすリスクは減ってなどいません。今回と同規模の津波に襲われたら、また何万人という単位の人々が亡くなるのです。
岩手県の宮古市田老地区には日本一といわれる高さ10mの防波堤があり、1960年のチリ地震津波から村を護りました。しかし、今回の大津波には耐え切れませんでした。
「日本一の防潮堤」無残 想定外の大津波、住民ぼうぜん asahi.com
一方、福島第一原発は5.7mの津波にも耐えられるように設計されていましたが、13mのの大津波に襲われて冷却用電源を消失し、事故を起こしました。甚大な経済的被害をもたらしましたが、原発周辺の住民に放射能災害で亡くなられた方はいませんし、これからもほとんど出ないでしょう。
福島県で住民の「内部被曝量」の先行調査を行なったところ、内部被曝線量がもっとも高かった浪江町の子供でも、70歳までの累積で推計「3mSv未満」だったそうです。
浪江町の子ども、生涯3ミリシーベルト未満も 内部被曝調査で 日本経済新聞
生涯でたった3ミリシーベルト。反原発団体は「子供の尿から放射性セシウムが出た」と騒いでいましたが、尿から検出されるということは「体外に排出されている」ということです。今まで内部被爆で騒いでいたマスコミは、もう少し冷静になるべきでしょう。
土地や家を放射能で汚染されて住めなくなった方たちの悲しみには言葉もありませんが、津波に流されて亡くなった方たちの恐怖と絶望も想像を絶するものだったでしょう。大津波は農地や家も徹底的に破壊し、海水(塩水)にさらされた田畑を復活させるのも容易ではありません。生き残ればそれを嘆くこともできますが、亡くなられた方はもはやそれさえもできないのです。1000年以上前に巨大津波があったことは史実として残されていたのに対策をしなかったから、こういう悲劇が起きたわけです。
(財)エネルギー経済研究所が6月24日に公表した「原子力発電の再稼働の有無に関する2012年度までの電力需給分析」によれば、原発を再稼働しない場合、2012年度の夏季には電力供給が7.8%足りなくなり、12年度の化石燃料調達費は3兆5000億円増加すると試算しています。燃料費の増加を電気料金に上乗せすれば、家庭用で18.5%、産業用で36%も上昇します。中東などの産油国に丸々3兆5000億円を献上するだけで経済効果はゼロ。しかも原発を再稼働しなければ、毎年毎年この負担が続くわけです。
今夏は15%の節電を強要されましたが、原発54基中16基がまだ稼働しているからなんとか乗り切れたわけです。しかし、史上空前の円高に加え、電力不足と電気代の高騰が続くのであれば、日本企業の工場はどんどん海外に逃げ出します。同研究所は、7月28日の「短期エネルギー需給見通し」で、原発の再稼働がない場合、12年度末までにGDPは3.6%減少し、失業者が約20万人増えるという試算も公表しています。
このまま産業空洞化が進んで失業者が溢れ、景気が後退していけば、電力需要は減少し、いずれ火力と水力だけで電力需要を賄えるようになり、脱原発が完遂されるでしょう。それまでに燃料費で数10兆円ものお金が吹っ飛び、日本はバブル崩壊のときよりひどい経済停滞に落ち込むでしょうが、即時全基停止でいったい何人の命を救えるのかというと、効果はほぼゼロです。むしろ、老朽化した火力発電所を無理に運転して大気汚染が悪化し、気管支喘息や肺がんなどで亡くなる人が増える可能性もあります。失業者が増えれば自殺者も増えるでしょう。911テロの後、多くのアメリカ人が飛行機を避けて自動車を利用したことで交通事故が激増し、1600人も死者が増加したのと同じです。
私には不思議で仕方がありません。孫正義氏らは「未来の命を救う」ために脱原発を唱えているわけですが、数10兆円ものお金を使うのなら、原発を止めるより、津波の対策をした方がはるかにたくさんの命を救えるのではないでしょうか。原発周辺の海に近い地域に住んでいる人々は、「原発を止めろ」ではなく、なぜ「津波対策をしろ」と言わないのでしょう。原発がなくなっても大津波に襲われたらひとたまりもないのです。原発事故では避難する時間が十分にありましたが、津波の場合は逃げ切れなかった人が2万人もいたわけです。自分だけは逃げ切れると思っているのでしょうか。自分は逃げられたとしても、子供や高齢者は逃げ切れるでしょうか。
「安心」と「安全」は違うといわれますが、「安心」っていったい何なのでしょう。
生肉を食べて腸管出血性大腸炎にかかる人は毎年100〜300人いて死者も出ています。生で牛肉を食べるのは危険なのですが、店側が商品として提供しているから「安心」して焼き肉店でユッケを食べて、4人の方が亡くなりました。シロウオの踊り食いが今も提供されているのか知りませんが、川魚には寄生虫がいるのが当たり前で、食中毒がしょっちゅう起きています。食中毒になるなど夢にも思わず、「安心」して食べてあたるわけです。「安心」って何なのでしょう。
反原発ヒステリーを起こして全基停止を主張している人々は、とにかく「原発が止まれば安心」なのかもしれませんが、現実には何一つ命を脅かすリスクは減ってなどいません。今回と同規模の津波に襲われたら、また何万人という単位の人々が亡くなるのです。
2011/08/12
孫正義VS堀義人 トコトン議論を生で見てきました
先週の金曜日(8月5日)に「孫正義VS堀義人 トコトン議論」という討論会が開かれ、会場に足を運んで見てきました。USTREAMでライブ配信されたので、会場にわざわざ行く必要はなかったのですが、一応、生で見ておこうかと。現在でも下記から見られます。
孫正義×堀義人 トコトン議論 〜日本のエネルギー政策を考える〜 USTREAM
6月19日のエントリーでも書きましたが、孫氏は原発を廃止して太陽光発電など再生可能エネルギーで代替せよという立場で、自治体に声をかけて「関西広域連合」を組織してメガソーラーを建設し、20年間40円/kWで買い取れと主張しています。首相に個人的に働きかけて、みずからの事業に便宜を図ろうとしているわけで、この行為を堀氏は「政商」と呼んで批判してきました。ソフトバンクは風力発電の事業者にも出資しているようで、経済ジャーナリストの町田徹氏も孫氏を批判しています。
菅首相「脱原発」で儲ける「政商」ソフトバンク 太陽光よりおいしい風力発電にまでこっそり食指を延ばしていた 定款変更前に「補助金ビジネス」に参入 現代ビジネス
孫氏は堀氏からの批判を受けて、トコトン議論しようじゃないかということで、今回の公開討論会が開催されたということです。孫氏のような社会的に影響力のある人が暴走すると、本当に日本経済が破壊されかねないので、誰かが止めないといけない。その意味で、“脱原発ファシズム”の空気が支配的なこの時期に、孫氏に挑んだ堀氏の勇気には拍手を送りたいと思います。
ただ、いかんせん、孫氏は天才的にプレゼンがうまかった。この点についてだけは本当に勉強になりました。単純でわかりやすい話を感情に訴えかけて話すという手法を全面的に展開してきたので、データで論破する姿勢の堀氏は歩が悪く、Twitter上では孫氏の圧勝というムードが漂っていたようです。
しかし、聴衆が支持したからといって、その論が正しいかどうかは別の話です。国民の圧倒的支持で民主党政権が誕生しましたが、今、その選択が正しかったと考えている人はいったいどれほどいるでしょうか。
で、今回は孫氏の主張で気になった点について、ネチネチと反論していこうと思っていたのですが、やっぱり考え直しました。というのも、孫氏は以前まで「原発を全停止して、太陽光などの再生可能エネルギーで補う」との主張をしていましたが、この公開討論会では、火力をフル稼働して足りない分を原発で補うとする「ミニマム原発論」を主張したからです。つまり、原発の再稼働を容認したわけです。
福島原発の事故後、初期の段階で、孫氏はかなり筋の悪い情報ばかりに触れて「全基停止」と主張していたわけですが、さすがに時間が経って冷静になったのでしょう。今まで何度も書いてきましたが、今すぐ全基停止などしたら、電力不足で国内の工場はみな海外に移転し、産業の空洞化で日本経済は崩壊します。「節電して足りているからヨシ」とするような問題ではないのです。24時間稼働で定期点検のときにしか止めないような工場では輪番操業などできず、工場を止めるしかないわけで、この状態がずっと続くのなら日本から逃げ出すしかありません。産経新聞の報道によれば、実際に日本企業は続々と日本から逃げ出しています。
国内企業、電力不足で日本脱出続々 “思い付き”脱原発にも不信感 MSN産経ニュース
孫氏によれば、ソフトバンクでは13時〜16時のピーク時間帯にオフィス内のPCの電源を落とし、iPadやiPhoneで仕事をするようにして30%の節電を目指しているそうですが、携帯の基地局に関しては電源を落としていないわけです。同様に、一般企業でもオフィスのエアコンやエレベータを我慢することはできますが、工場は止めるわけにはいかないのです。現在の東電の供給余力の大きさを見ると、すでに空洞化は相当進んでいて、もう手遅れのような気がしないでもありません。もっとも、現在の世界同時株安が世界恐慌にまで発展すれば、再稼働もクソもないような気がしますが(笑)。
さすがに東証一部上場企業のCEOだけあって、現実を見て「目が覚めた」のでしょう。原発の稼働にはリスクがあるかもしれませんが、自動車にも飛行機にもタバコにも酒にも携帯電話にも同じようにリスクがあります。原発を「再稼働しないこと」にも大きなリスクがあります。節電の影響がどこまであるかは不明ですが、今年の熱中症の死者数はすでに98人に達し、過去最悪のペースとなっています。
なぜ埼玉で急増? 熱中症による死者、全国最多の理由 MSN産経ニュース
前述したような産業空洞化が進めば、失業や倒産で自殺者も増えます。「経済の問題」はまぎれもなく「命の問題」なのです。まして早急に再生可能エネルギーで原発を代替しようとすれば、電気代が高騰し、空洞化を加速します。仕事のない若者が増えれば、イギリスで起きているような暴動が日本でも起きるかもしれません。反原発活動家の人々の狙いはまさにそこにあるわけです。貧富格差が拡大し、貧困層に不満が鬱積していけば、それを組織化して勢力拡大に結びつけられるのです。
太陽光発電の高額買い取りも貧富格差を拡大させる政策です。一戸建ての持ち家に住むお金持ちしか導入できないわけですから。WIREDのインタビューで、ビル・ゲイツ氏は面白いことを言っています。
---------------------------------------------------
Q&A:ビル・ゲイツ、世界のエネルギー危機について語る
アンダーソン:ゲイツさんの家にソーラーパネルが設置されることはない、と言えば十分でしょうか?
ゲイツ:いや、私たちも皆さんと同じように見てくれをよくするのは好きなのです。豊かな人々はいいのです、したいようにできるのですから。
---------------------------------------------------
辛辣すぎます。
最後に1つだけ、孫氏の主張に反論を書きます。おそらく多くの聴衆が「素晴らしい案だ」と感じたであろう提案に関してです。孫氏は「日本中の石炭火力を天然ガス火力に置き換えれば、出力が1.6倍になり、増加分で原発20基分の電力を賄える」「これから2〜3年で可能」と主張していました。しかし、これは減価償却の問題をまったく無視した意見です。日本の石炭火力は、70年代のオイルショックを契機に電源の多様化のために進められてきました。つまり、アメリカや中国などと違い、歴史が短く、発電所も新しいのです。しかも発電量は全電力の25%ほどで、原発とほとんど同じぐらいの規模です。減価償却の終わっていない新しい炉を廃炉にして、天然ガス火力に置き換えるという案はまったく馬鹿げていて、別の場所に新規に天然ガス火力を建設すればいいだけのことではないでしょうか。石炭をやめて天然ガスに完全に依存するのもエネルギー供給の安全保障から考えれば極めて危険です。世界の天然ガス市場を牛耳っているのはロシアです。日本が天然ガスに完全依存すれば、必ず足下を見られてふっかけられることになります。
どの道、原発の新規建設などもう不可能なのです。運転開始後40年以上を経た古い原子炉から順に廃炉にして、天然ガス火力、あるいは石炭火力に置き換えるという形でいいのではないでしょうか。再生可能エネルギーは少しずつ増やしていく。個人的に、孫氏には太陽光や風力ではなく、「地熱」に取り組んでほしいと思います。これまで何度も書いてきましたが、太陽光や風力などふらつく電源を大量導入するには、バックアップ電源が必要で火力発電の余力が不可欠なので、孫氏の火力を「フル稼働」させる「ミニマム原発論」とは相入れないことになります。しかし、安定的に発電できる地熱に関してはバックアップの電源が不要です。なぜ普及しないのかというと、既得権や規制の壁があるからで、それらをぶっ壊すのは孫氏の得意技だったように思います。
孫正義×堀義人 トコトン議論 〜日本のエネルギー政策を考える〜 USTREAM
6月19日のエントリーでも書きましたが、孫氏は原発を廃止して太陽光発電など再生可能エネルギーで代替せよという立場で、自治体に声をかけて「関西広域連合」を組織してメガソーラーを建設し、20年間40円/kWで買い取れと主張しています。首相に個人的に働きかけて、みずからの事業に便宜を図ろうとしているわけで、この行為を堀氏は「政商」と呼んで批判してきました。ソフトバンクは風力発電の事業者にも出資しているようで、経済ジャーナリストの町田徹氏も孫氏を批判しています。
菅首相「脱原発」で儲ける「政商」ソフトバンク 太陽光よりおいしい風力発電にまでこっそり食指を延ばしていた 定款変更前に「補助金ビジネス」に参入 現代ビジネス
孫氏は堀氏からの批判を受けて、トコトン議論しようじゃないかということで、今回の公開討論会が開催されたということです。孫氏のような社会的に影響力のある人が暴走すると、本当に日本経済が破壊されかねないので、誰かが止めないといけない。その意味で、“脱原発ファシズム”の空気が支配的なこの時期に、孫氏に挑んだ堀氏の勇気には拍手を送りたいと思います。
ただ、いかんせん、孫氏は天才的にプレゼンがうまかった。この点についてだけは本当に勉強になりました。単純でわかりやすい話を感情に訴えかけて話すという手法を全面的に展開してきたので、データで論破する姿勢の堀氏は歩が悪く、Twitter上では孫氏の圧勝というムードが漂っていたようです。
しかし、聴衆が支持したからといって、その論が正しいかどうかは別の話です。国民の圧倒的支持で民主党政権が誕生しましたが、今、その選択が正しかったと考えている人はいったいどれほどいるでしょうか。
で、今回は孫氏の主張で気になった点について、ネチネチと反論していこうと思っていたのですが、やっぱり考え直しました。というのも、孫氏は以前まで「原発を全停止して、太陽光などの再生可能エネルギーで補う」との主張をしていましたが、この公開討論会では、火力をフル稼働して足りない分を原発で補うとする「ミニマム原発論」を主張したからです。つまり、原発の再稼働を容認したわけです。
福島原発の事故後、初期の段階で、孫氏はかなり筋の悪い情報ばかりに触れて「全基停止」と主張していたわけですが、さすがに時間が経って冷静になったのでしょう。今まで何度も書いてきましたが、今すぐ全基停止などしたら、電力不足で国内の工場はみな海外に移転し、産業の空洞化で日本経済は崩壊します。「節電して足りているからヨシ」とするような問題ではないのです。24時間稼働で定期点検のときにしか止めないような工場では輪番操業などできず、工場を止めるしかないわけで、この状態がずっと続くのなら日本から逃げ出すしかありません。産経新聞の報道によれば、実際に日本企業は続々と日本から逃げ出しています。
国内企業、電力不足で日本脱出続々 “思い付き”脱原発にも不信感 MSN産経ニュース
孫氏によれば、ソフトバンクでは13時〜16時のピーク時間帯にオフィス内のPCの電源を落とし、iPadやiPhoneで仕事をするようにして30%の節電を目指しているそうですが、携帯の基地局に関しては電源を落としていないわけです。同様に、一般企業でもオフィスのエアコンやエレベータを我慢することはできますが、工場は止めるわけにはいかないのです。現在の東電の供給余力の大きさを見ると、すでに空洞化は相当進んでいて、もう手遅れのような気がしないでもありません。もっとも、現在の世界同時株安が世界恐慌にまで発展すれば、再稼働もクソもないような気がしますが(笑)。
さすがに東証一部上場企業のCEOだけあって、現実を見て「目が覚めた」のでしょう。原発の稼働にはリスクがあるかもしれませんが、自動車にも飛行機にもタバコにも酒にも携帯電話にも同じようにリスクがあります。原発を「再稼働しないこと」にも大きなリスクがあります。節電の影響がどこまであるかは不明ですが、今年の熱中症の死者数はすでに98人に達し、過去最悪のペースとなっています。
なぜ埼玉で急増? 熱中症による死者、全国最多の理由 MSN産経ニュース
前述したような産業空洞化が進めば、失業や倒産で自殺者も増えます。「経済の問題」はまぎれもなく「命の問題」なのです。まして早急に再生可能エネルギーで原発を代替しようとすれば、電気代が高騰し、空洞化を加速します。仕事のない若者が増えれば、イギリスで起きているような暴動が日本でも起きるかもしれません。反原発活動家の人々の狙いはまさにそこにあるわけです。貧富格差が拡大し、貧困層に不満が鬱積していけば、それを組織化して勢力拡大に結びつけられるのです。
太陽光発電の高額買い取りも貧富格差を拡大させる政策です。一戸建ての持ち家に住むお金持ちしか導入できないわけですから。WIREDのインタビューで、ビル・ゲイツ氏は面白いことを言っています。
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Q&A:ビル・ゲイツ、世界のエネルギー危機について語る
アンダーソン:ゲイツさんの家にソーラーパネルが設置されることはない、と言えば十分でしょうか?
ゲイツ:いや、私たちも皆さんと同じように見てくれをよくするのは好きなのです。豊かな人々はいいのです、したいようにできるのですから。
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辛辣すぎます。
最後に1つだけ、孫氏の主張に反論を書きます。おそらく多くの聴衆が「素晴らしい案だ」と感じたであろう提案に関してです。孫氏は「日本中の石炭火力を天然ガス火力に置き換えれば、出力が1.6倍になり、増加分で原発20基分の電力を賄える」「これから2〜3年で可能」と主張していました。しかし、これは減価償却の問題をまったく無視した意見です。日本の石炭火力は、70年代のオイルショックを契機に電源の多様化のために進められてきました。つまり、アメリカや中国などと違い、歴史が短く、発電所も新しいのです。しかも発電量は全電力の25%ほどで、原発とほとんど同じぐらいの規模です。減価償却の終わっていない新しい炉を廃炉にして、天然ガス火力に置き換えるという案はまったく馬鹿げていて、別の場所に新規に天然ガス火力を建設すればいいだけのことではないでしょうか。石炭をやめて天然ガスに完全に依存するのもエネルギー供給の安全保障から考えれば極めて危険です。世界の天然ガス市場を牛耳っているのはロシアです。日本が天然ガスに完全依存すれば、必ず足下を見られてふっかけられることになります。
どの道、原発の新規建設などもう不可能なのです。運転開始後40年以上を経た古い原子炉から順に廃炉にして、天然ガス火力、あるいは石炭火力に置き換えるという形でいいのではないでしょうか。再生可能エネルギーは少しずつ増やしていく。個人的に、孫氏には太陽光や風力ではなく、「地熱」に取り組んでほしいと思います。これまで何度も書いてきましたが、太陽光や風力などふらつく電源を大量導入するには、バックアップ電源が必要で火力発電の余力が不可欠なので、孫氏の火力を「フル稼働」させる「ミニマム原発論」とは相入れないことになります。しかし、安定的に発電できる地熱に関してはバックアップの電源が不要です。なぜ普及しないのかというと、既得権や規制の壁があるからで、それらをぶっ壊すのは孫氏の得意技だったように思います。
2011/06/22
「エアコン切って原発止めろ」は強者の論理
菅首相は国会の会期を70日延長し、是が非でも「再生可能エネルギー買い取り法案」を可決させるつもりのようです。菅首相の“盟友”である孫正義氏は韓国に行って、李明博大統領と会談していました。いったい何が目的で訪韓したのでしょう。まさか韓国製ソーラーパネル調達のためではないですよね。
で、当の法案ですが、すでに経産省が作成し、国会に提出されることになっています。
「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案について」
これを読むと「やっぱり官僚は一枚上手だ」と感心します。これに菅首相は政治生命を賭けてもいいのでしょうか。
今回の大震災と福島の原発事故は、政治家を見分ける踏み絵になりました。菅首相は震災前から能力を疑われていた人で、私は逆に、この大災害を機に“化ける”んじゃないかとほんの少し期待していましたが、残念ながらかつての市民活動家のレベルまで幼児退行しただけでした。
橋下徹府知事も馬脚を現した一人でしょう。ニュースで、関電からの節電要請を断ったと聞いたときは耳を疑いましたが、これ(下記)には怒りすら覚えました。
橋下知事、背景板も変え強調「エアコン切れば原発止まる」 MSN産経ニュース
毎年、熱中症で何人死ぬと思っているのでしょうか。
熱中症死者数は昨年の10・4倍/7〜9月間の死者167人 四国新聞
猛暑だった昨年は7〜9月の3か月間で、5万3843人が病院に搬送され、167人が亡くなっています。高齢者のなかには熱帯夜でも「電気がもったいない」とエアコンを切って寝て、熱中症で亡くなる人がけっこうおられます。橋下府知事は間違った節電法を広めているわけです。原発を止めるためなら高齢者が死んでも構わないと言っているのも同然で、まぎれもなく“強者の論理”であり、これほど人命を軽んじた知事がかつていたでしょうか。もしエアコンを切っても足りなかったらどうするのでしょう。
橋下府知事は、耳障りのいい言葉を並べて空想を語るだけで何ら現実的な具体策を立てようとしません。何か起きても「陰謀論」を振りかざし、すべて関電や政府に責任を押し付けるのでしょう。ポピュリズムも極まった感があります。
それに比べ、石原都知事は「花見の禁止」だのよけいなことも言いますが、都議会での所信表明では、過剰なエネルギー消費の見直し(要するに節電)とともに、「電力供給への不安により産業が停滞し空洞化することを防ぐため、首都圏の電力自給能力を高めてまいります。これに極めて有効な天然ガス発電所の新規な建設に向け、民間とも連携し行動を開始いたします」と、天然ガス火力の建設を進めるとしています。知事がやるべき仕事ってこういうことじゃないのでしょうか。
菅首相や橋下府知事らに決定的に欠けているのは、「リスクマネジメント」という概念です。我々の周りにはさまざまなリスクがあり、危険度に応じて優先順位をつけ、対策をしていくべきだという考え方です。ジャーナリストの宮島理氏は以下のような記事を書かれています。
反原発派はマイカー全廃に賛成を
「子供の命を守れ」というなら、マイカーを全廃した方が早いという主張です。交通事故で年に5000人ぐらい亡くなっていることは、私も以前書きましたが、自動車排ガスが小学生の喘息の原因になっていることも厚労省は認めています。
車の排ガスで小学生のぜんそく増加 国、関連性認める asahi.com
喘息の原因は排ガスだけではないものの、気管支喘息の死者数は年間3000人ぐらいとされています。原発のリスクより自動車のリスクのほうがはるかに大きいのです。
『リスクにあなたは騙される 「恐怖」を操る論理』(ダン・ガートナー著 田淵健太訳 早川書房)はリスク評価を学ぶのに非常にいい本で、これを読めば頭のいい人なら目が覚めます。プロローグに書いてあることを簡単に紹介します。
911テロでは航空機がハイジャックされたため、事件後、テロを恐れて航空機の利用者が激減しました。しかし、心理学者のゲルド・ギゲレンザー氏が調査したところ、交通手段を航空機より事故に遭うリスクがはるかに高い自動車に変えたことで、交通量が急増し、911後の1年で交通事故の死者は1595人も増えたそうです。リスク評価を間違えるとかえって被害を拡大することになるわけですが、恐怖にかられると人は論理的な判断ができなくなるのです。
橋下府知事は「原発事故が起きて死者が出るリスク」を過大に評価し、「エアコンを切って高齢者が熱中症で亡くなるリスク」や「大停電が起きて交通事故や病院の事故で死者が出るリスク」、「関西経済圏が沈没して失業者が溢れ、自殺者が増えるリスク」などを過小に評価しています。そういうリスクがあることに気づいていないのかもしれませんが、橋下府知事は頭のいい人なので、むしろすべてわかっていてこういう判断をしている可能性もあります。もし福井県に原発の再稼働をお願いして何かあれば自分の責任にされますが、節電や停電で大阪府民が死んでも政府や関電に責任を押し付けることができるからです。自分が一切責任を負わないですむ選択肢を選んでいるように見えなくもありません。もしそうだとしたら、もはや大阪府民の命を脅かす最大のリスクは「橋下府知事という存在」になるかもしれません。
で、当の法案ですが、すでに経産省が作成し、国会に提出されることになっています。
「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案について」
これを読むと「やっぱり官僚は一枚上手だ」と感心します。これに菅首相は政治生命を賭けてもいいのでしょうか。
今回の大震災と福島の原発事故は、政治家を見分ける踏み絵になりました。菅首相は震災前から能力を疑われていた人で、私は逆に、この大災害を機に“化ける”んじゃないかとほんの少し期待していましたが、残念ながらかつての市民活動家のレベルまで幼児退行しただけでした。
橋下徹府知事も馬脚を現した一人でしょう。ニュースで、関電からの節電要請を断ったと聞いたときは耳を疑いましたが、これ(下記)には怒りすら覚えました。
橋下知事、背景板も変え強調「エアコン切れば原発止まる」 MSN産経ニュース
毎年、熱中症で何人死ぬと思っているのでしょうか。
熱中症死者数は昨年の10・4倍/7〜9月間の死者167人 四国新聞
猛暑だった昨年は7〜9月の3か月間で、5万3843人が病院に搬送され、167人が亡くなっています。高齢者のなかには熱帯夜でも「電気がもったいない」とエアコンを切って寝て、熱中症で亡くなる人がけっこうおられます。橋下府知事は間違った節電法を広めているわけです。原発を止めるためなら高齢者が死んでも構わないと言っているのも同然で、まぎれもなく“強者の論理”であり、これほど人命を軽んじた知事がかつていたでしょうか。もしエアコンを切っても足りなかったらどうするのでしょう。
橋下府知事は、耳障りのいい言葉を並べて空想を語るだけで何ら現実的な具体策を立てようとしません。何か起きても「陰謀論」を振りかざし、すべて関電や政府に責任を押し付けるのでしょう。ポピュリズムも極まった感があります。
それに比べ、石原都知事は「花見の禁止」だのよけいなことも言いますが、都議会での所信表明では、過剰なエネルギー消費の見直し(要するに節電)とともに、「電力供給への不安により産業が停滞し空洞化することを防ぐため、首都圏の電力自給能力を高めてまいります。これに極めて有効な天然ガス発電所の新規な建設に向け、民間とも連携し行動を開始いたします」と、天然ガス火力の建設を進めるとしています。知事がやるべき仕事ってこういうことじゃないのでしょうか。
菅首相や橋下府知事らに決定的に欠けているのは、「リスクマネジメント」という概念です。我々の周りにはさまざまなリスクがあり、危険度に応じて優先順位をつけ、対策をしていくべきだという考え方です。ジャーナリストの宮島理氏は以下のような記事を書かれています。
反原発派はマイカー全廃に賛成を
「子供の命を守れ」というなら、マイカーを全廃した方が早いという主張です。交通事故で年に5000人ぐらい亡くなっていることは、私も以前書きましたが、自動車排ガスが小学生の喘息の原因になっていることも厚労省は認めています。
車の排ガスで小学生のぜんそく増加 国、関連性認める asahi.com
喘息の原因は排ガスだけではないものの、気管支喘息の死者数は年間3000人ぐらいとされています。原発のリスクより自動車のリスクのほうがはるかに大きいのです。
『リスクにあなたは騙される 「恐怖」を操る論理』(ダン・ガートナー著 田淵健太訳 早川書房)はリスク評価を学ぶのに非常にいい本で、これを読めば頭のいい人なら目が覚めます。プロローグに書いてあることを簡単に紹介します。
911テロでは航空機がハイジャックされたため、事件後、テロを恐れて航空機の利用者が激減しました。しかし、心理学者のゲルド・ギゲレンザー氏が調査したところ、交通手段を航空機より事故に遭うリスクがはるかに高い自動車に変えたことで、交通量が急増し、911後の1年で交通事故の死者は1595人も増えたそうです。リスク評価を間違えるとかえって被害を拡大することになるわけですが、恐怖にかられると人は論理的な判断ができなくなるのです。
橋下府知事は「原発事故が起きて死者が出るリスク」を過大に評価し、「エアコンを切って高齢者が熱中症で亡くなるリスク」や「大停電が起きて交通事故や病院の事故で死者が出るリスク」、「関西経済圏が沈没して失業者が溢れ、自殺者が増えるリスク」などを過小に評価しています。そういうリスクがあることに気づいていないのかもしれませんが、橋下府知事は頭のいい人なので、むしろすべてわかっていてこういう判断をしている可能性もあります。もし福井県に原発の再稼働をお願いして何かあれば自分の責任にされますが、節電や停電で大阪府民が死んでも政府や関電に責任を押し付けることができるからです。自分が一切責任を負わないですむ選択肢を選んでいるように見えなくもありません。もしそうだとしたら、もはや大阪府民の命を脅かす最大のリスクは「橋下府知事という存在」になるかもしれません。
2011/06/19
孫正義氏の構想の現実性
ソフトバンクの孫正義氏は、太陽光発電で原発を代替すると主張していますが、それは果たして実現可能なのでしょうか。
孫氏は、「太陽光発電のコストは原発より安い」と主張し、自治体を巻き込んで「関西広域連合」を組織し、メガソーラーを事業化して(ソフトバンクの約款を改正して同社の事業に発電事業を加えています)、菅首相に働きかけて全量買い取りさせようとしています。孫氏は「40円/kWhで20年間買い取れ」と言っていますが、これは火力の発電コストと比較しても4〜5倍の価格です。
孫氏の計画は、自治体から遊休地を借り受け、2万kWのメガソーラーを10基建設するというものです。これでどれだけ電力を生み出せるのかというと、設備容量は2万kW×10基で20万kW分ですが、太陽光発電の稼働率は日本の平均で12%なので、実質2.4万kWとなります。原発は1基100万kWで稼働率は70%なので実質70万kW。とすると、原発1基の29分の1にしかなりません。たった29分の1でも、建設にかかる費用は莫大です。四国電力のメガソーラー「松山太陽光発電所」の建設費用は、1kWあたり約70万円とのことなので、20万kW分の投資額は1400億円ぐらいになります。
もしメガソーラーで原発1基分を賄おうとすれば、2万kWを290基建てる必要があり、投資コストは4兆円に達します。原発40基分ならなんと160兆円。日本の国家予算規模で、これを“空想”と呼ばずになんと呼べばいいのでしょう。
反原発派の人々はよく「原発開発に投資してきたお金を自然エネルギーに投資していれば……」と言いますが(実際には相当な額が投資されていますが)、同じ額を太陽光発電に投資したとしても、原発の10分の1の電力も得られないのです。今後は事故被害の補償や安全対策で原発の発電コストが上がることは間違いありませんが、発電コストが逆転することは当分ありえません。風力は17円/kWhとされていてまだマシですが、なぜ孫氏は風力を推さないのでしょうか。日本各地で低周波による健康被害が起きていて、民間発電事業者の多くが実は補助金頼みで、発電で収益をあげるのが難しいことを知っているからかもしれません。
では、この発電事業でソフトバンクは儲かるのでしょうか。孫氏がどのような事業形態を想定しているのかは不明ですが、仮にソフトバンク1社でこの事業を手がけた場合、どれぐらいの利益が出るのかを算出してみます。
メガソーラー計20万kWで稼働率12%とすると、年間の発電量は、
200000(kW)×24(h)×365(日)×0.12=210240000(kWh)
1kWhあたり40円で売れば、
210240000(kWh)×40(円)=8409600000(円)=約84億円
年間の売り上げは約84億円で、20年間で約1680億円になります。
投資額は1400億円なので、20年で280億円の利益が出ます。
現実にはインバータなどの交換や修理などのメンテナンスコストがかかりますが、一方で家の屋根に設置する場合と異なり、更地に建設するメガソーラーは隣のビルに太陽光を遮られるようなことがないので、稼働率は上がるはずで、自治体から遊休地をタダで借りるなら建設コストはさらに下がるはずです。ですから、20年で280億円、1年あたり14億円という金額は妥当なところではないでしょうか。
これは“ぼろ儲け”といってもいいでしょう。全量買い取りで利益が確実に見込めるので、銀行は喜んでお金を貸します。建てるだけでお金が入ってくるのですから、こんな楽な商売はありません。
しかし、この1680億円を誰が負担するのかというと、電力会社が20年かけて分割して支払うわけです。電力会社は発電コストが上がれば電気代を上げますから、結局は国民が負担することになります。孫氏が利益を増やすために中国や韓国のメーカーから安いソーラーパネルを購入したりすれば、日本経済に対する経済効果はほとんどゼロです。しかもメガソーラーは雇用をほとんど生みません。税金なら公共事業に使われて日本経済に還元されたりしますが、国民のお金がただただ吸い上げられて中国や韓国に流れていくとしたら、税金よりはるかにタチが悪く、国民に負担がのしかかるだけになります。
「太陽光の発電コストは40円/kWhよりもっと安い」と反論する人がいるかもしれませんが、それは的外れです。孫氏が「40円/kWhで買い取れ」と言っているのです。実際はもっと安かったとしても、国民が負担するのは40円/kWhをベースにした金額で、発電コストが下がって儲かるのはソフトバンク。文句があれば孫氏に言うべきでしょう。
実際のところ、20万kW程度で収めるのであれば、電気代にも電力系統にも大した影響は与えないでしょう。これだけで急に電気代が高騰するわけではありませんが、発電量は原発1基の29分の1にしかならず、代替にはほど遠い状態です。とすると、孫氏は発電事業の利益を新たなメガソーラー建設に投入していくつもりなのかもしれません。そうなると買い取り量がどんどん増え、国民負担は増加していきます。
以前書いたように、太陽光発電のような出力の不安定な電源を「大量に」電力系統につなぐには、同じ容量分だけバックアップの火力発電が必要になります。「夏の昼間のピーク時に、日本中で雨が降ると太陽光発電の電力供給がすっぽり抜け落ちるので、代わりに電力を供給する電源が必要」という話を理解できない人はいませんよね。太陽光発電を導入して原発を止めるわけですから、既存の火力はフル稼働で、結局は原発分と同じ量の電力を発電できるだけの火力発電所を新たに建設しなければならなくなるのです。
もし太陽光で脱原発をするのなら、太陽光発電の電力を高額買い取りしながら、実際には原発分の火力発電所を新規建設しなければならず、しかも原子炉を廃炉にしていくわけですから、これで電気代が高騰しないわけがありません。電気代が高騰すれば日本経済は失速し、国民は高い電気代を負担させられ、その一方でソフトバンクがぼろ儲けすることになります。こんなことが許されていいのでしょうか。
ヨーロッパでも風力の電力を買い取る場合、大資本の参入は規制されているのが一般的です。高い電気代を負担するのは一般市民で、それで大企業がぼろ儲けすると不公平感が生まれるからです。ですから、高い電気代を負担する市民からの出資を集めて風車を建て、電力を買い取り、その利益が市民に還元されるというしくみになっています。大資本がどんどん参入して風車を建てまくると、一般市民は高い電気代を負担するだけになるのです。
仮に孫氏が市民出資の方式を導入したとしても、派遣や契約で働いているような貧しい若者は、何十万円もの出資などできないでしょう。一般家庭でソーラーパネルを設置できるのも一戸建ての持ち家に住んでいる人に限られ、賃貸住宅やマンションに住んでいる人は設置できません。金持ちは発電で儲けられるようになり、一方で底辺にいる貧しい若者たちは仕事を失い、高い電気代を負担させられて、ますます貧しくなります。貧富格差が拡大するのです。まあ、それ以前にメーカーの工場がみな海外に逃げ出して、原発を止めても電力は足りるようになっているでしょうが。
私は、孫正義という人は電力システムについて(かなり)不勉強なだけで、基本的には善意で動いていると思っていました。しかし、この構想は危険であるだけでなく、孫氏の“善意”に疑いがかけられても仕方がないものだと思います。電力の安定供給が約束されている状態であれば、少々ラジカルな方策も受け入れられますが、今はダメです。
まともな学者に聞けば、誰もが原発を代替できるのは「天然ガス火力(コンバインドサイクル)」と「節電」だと言います。シェールガスという非在来型の天然ガスが実用化されたからです。今のような緊急時に、空想で物事を進めるのは非常に危険だと思います。孫氏は「日本経済を崩壊させたA級戦犯」として歴史に名を刻みたいのでしょうか。
孫氏は、「太陽光発電のコストは原発より安い」と主張し、自治体を巻き込んで「関西広域連合」を組織し、メガソーラーを事業化して(ソフトバンクの約款を改正して同社の事業に発電事業を加えています)、菅首相に働きかけて全量買い取りさせようとしています。孫氏は「40円/kWhで20年間買い取れ」と言っていますが、これは火力の発電コストと比較しても4〜5倍の価格です。
孫氏の計画は、自治体から遊休地を借り受け、2万kWのメガソーラーを10基建設するというものです。これでどれだけ電力を生み出せるのかというと、設備容量は2万kW×10基で20万kW分ですが、太陽光発電の稼働率は日本の平均で12%なので、実質2.4万kWとなります。原発は1基100万kWで稼働率は70%なので実質70万kW。とすると、原発1基の29分の1にしかなりません。たった29分の1でも、建設にかかる費用は莫大です。四国電力のメガソーラー「松山太陽光発電所」の建設費用は、1kWあたり約70万円とのことなので、20万kW分の投資額は1400億円ぐらいになります。
もしメガソーラーで原発1基分を賄おうとすれば、2万kWを290基建てる必要があり、投資コストは4兆円に達します。原発40基分ならなんと160兆円。日本の国家予算規模で、これを“空想”と呼ばずになんと呼べばいいのでしょう。
反原発派の人々はよく「原発開発に投資してきたお金を自然エネルギーに投資していれば……」と言いますが(実際には相当な額が投資されていますが)、同じ額を太陽光発電に投資したとしても、原発の10分の1の電力も得られないのです。今後は事故被害の補償や安全対策で原発の発電コストが上がることは間違いありませんが、発電コストが逆転することは当分ありえません。風力は17円/kWhとされていてまだマシですが、なぜ孫氏は風力を推さないのでしょうか。日本各地で低周波による健康被害が起きていて、民間発電事業者の多くが実は補助金頼みで、発電で収益をあげるのが難しいことを知っているからかもしれません。
では、この発電事業でソフトバンクは儲かるのでしょうか。孫氏がどのような事業形態を想定しているのかは不明ですが、仮にソフトバンク1社でこの事業を手がけた場合、どれぐらいの利益が出るのかを算出してみます。
メガソーラー計20万kWで稼働率12%とすると、年間の発電量は、
200000(kW)×24(h)×365(日)×0.12=210240000(kWh)
1kWhあたり40円で売れば、
210240000(kWh)×40(円)=8409600000(円)=約84億円
年間の売り上げは約84億円で、20年間で約1680億円になります。
投資額は1400億円なので、20年で280億円の利益が出ます。
現実にはインバータなどの交換や修理などのメンテナンスコストがかかりますが、一方で家の屋根に設置する場合と異なり、更地に建設するメガソーラーは隣のビルに太陽光を遮られるようなことがないので、稼働率は上がるはずで、自治体から遊休地をタダで借りるなら建設コストはさらに下がるはずです。ですから、20年で280億円、1年あたり14億円という金額は妥当なところではないでしょうか。
これは“ぼろ儲け”といってもいいでしょう。全量買い取りで利益が確実に見込めるので、銀行は喜んでお金を貸します。建てるだけでお金が入ってくるのですから、こんな楽な商売はありません。
しかし、この1680億円を誰が負担するのかというと、電力会社が20年かけて分割して支払うわけです。電力会社は発電コストが上がれば電気代を上げますから、結局は国民が負担することになります。孫氏が利益を増やすために中国や韓国のメーカーから安いソーラーパネルを購入したりすれば、日本経済に対する経済効果はほとんどゼロです。しかもメガソーラーは雇用をほとんど生みません。税金なら公共事業に使われて日本経済に還元されたりしますが、国民のお金がただただ吸い上げられて中国や韓国に流れていくとしたら、税金よりはるかにタチが悪く、国民に負担がのしかかるだけになります。
「太陽光の発電コストは40円/kWhよりもっと安い」と反論する人がいるかもしれませんが、それは的外れです。孫氏が「40円/kWhで買い取れ」と言っているのです。実際はもっと安かったとしても、国民が負担するのは40円/kWhをベースにした金額で、発電コストが下がって儲かるのはソフトバンク。文句があれば孫氏に言うべきでしょう。
実際のところ、20万kW程度で収めるのであれば、電気代にも電力系統にも大した影響は与えないでしょう。これだけで急に電気代が高騰するわけではありませんが、発電量は原発1基の29分の1にしかならず、代替にはほど遠い状態です。とすると、孫氏は発電事業の利益を新たなメガソーラー建設に投入していくつもりなのかもしれません。そうなると買い取り量がどんどん増え、国民負担は増加していきます。
以前書いたように、太陽光発電のような出力の不安定な電源を「大量に」電力系統につなぐには、同じ容量分だけバックアップの火力発電が必要になります。「夏の昼間のピーク時に、日本中で雨が降ると太陽光発電の電力供給がすっぽり抜け落ちるので、代わりに電力を供給する電源が必要」という話を理解できない人はいませんよね。太陽光発電を導入して原発を止めるわけですから、既存の火力はフル稼働で、結局は原発分と同じ量の電力を発電できるだけの火力発電所を新たに建設しなければならなくなるのです。
もし太陽光で脱原発をするのなら、太陽光発電の電力を高額買い取りしながら、実際には原発分の火力発電所を新規建設しなければならず、しかも原子炉を廃炉にしていくわけですから、これで電気代が高騰しないわけがありません。電気代が高騰すれば日本経済は失速し、国民は高い電気代を負担させられ、その一方でソフトバンクがぼろ儲けすることになります。こんなことが許されていいのでしょうか。
ヨーロッパでも風力の電力を買い取る場合、大資本の参入は規制されているのが一般的です。高い電気代を負担するのは一般市民で、それで大企業がぼろ儲けすると不公平感が生まれるからです。ですから、高い電気代を負担する市民からの出資を集めて風車を建て、電力を買い取り、その利益が市民に還元されるというしくみになっています。大資本がどんどん参入して風車を建てまくると、一般市民は高い電気代を負担するだけになるのです。
仮に孫氏が市民出資の方式を導入したとしても、派遣や契約で働いているような貧しい若者は、何十万円もの出資などできないでしょう。一般家庭でソーラーパネルを設置できるのも一戸建ての持ち家に住んでいる人に限られ、賃貸住宅やマンションに住んでいる人は設置できません。金持ちは発電で儲けられるようになり、一方で底辺にいる貧しい若者たちは仕事を失い、高い電気代を負担させられて、ますます貧しくなります。貧富格差が拡大するのです。まあ、それ以前にメーカーの工場がみな海外に逃げ出して、原発を止めても電力は足りるようになっているでしょうが。
私は、孫正義という人は電力システムについて(かなり)不勉強なだけで、基本的には善意で動いていると思っていました。しかし、この構想は危険であるだけでなく、孫氏の“善意”に疑いがかけられても仕方がないものだと思います。電力の安定供給が約束されている状態であれば、少々ラジカルな方策も受け入れられますが、今はダメです。
まともな学者に聞けば、誰もが原発を代替できるのは「天然ガス火力(コンバインドサイクル)」と「節電」だと言います。シェールガスという非在来型の天然ガスが実用化されたからです。今のような緊急時に、空想で物事を進めるのは非常に危険だと思います。孫氏は「日本経済を崩壊させたA級戦犯」として歴史に名を刻みたいのでしょうか。
2011/06/16
日本は「脱原発」の道を歩み始めたのだから
これほど反原発の空気が広がっては、日本ではもう原発の新規建設は不可能でしょう。日本がこの状況で新規建設という選択をするほど「大人の社会」だったら、むしろ驚愕します。新規建設ができないということはどういうことかというと、炉が老朽化すれば廃炉していくほかないわけで、必然的に日本は「脱原発」の道を歩み始めたのです。
そもそも事故の前から、東大をはじめとする日本中の大学で原子力工学科は不人気のため次々に消滅していて、人材の補給もままならなくなっています。これで新規建設が止まれば、何十年か後にやっぱり建設すると言っても技術は失われているでしょう。海外での受注も今回の事故で減るかもしれません。GEやウェスチングハウスのように、東芝、日立、三菱重工は原子力部門をアレバやロスアトムなど海外企業に売り飛ばすかもしれません。
反原発派の人々にこう言っても無駄かもしれませんが、すでに「脱原発」は既定路線になったわけで、それで十分じゃないですか。ドイツやイタリアと違って日本は海外から電力を輸入することができないのです。それなのに「今すぐ全基停止」なんてしたら、日本中で電力不足が起き、多くの国民が計画停電でひどい目に遭います。電力不足で日本企業の工場が海外に逃げ出すと書きましたが、その多くは都市部ではなく地方にあります。原発を止めるのなら、そこで働いている何千人もの職員も雇用を失います。発電しないのなら電源交付金などの補助金もなくなるでしょう。ゆっくりと進めるならまだしも、急にストップすれば地方経済に大打撃を与えます。
そうなると逆に「やっぱり原発は必要だ」という方向に進んでしまうのではないでしょうか。「再稼働も認めない」というラジカルすぎるやり方は、むしろ逆効果になるような気がします。
そもそも事故の前から、東大をはじめとする日本中の大学で原子力工学科は不人気のため次々に消滅していて、人材の補給もままならなくなっています。これで新規建設が止まれば、何十年か後にやっぱり建設すると言っても技術は失われているでしょう。海外での受注も今回の事故で減るかもしれません。GEやウェスチングハウスのように、東芝、日立、三菱重工は原子力部門をアレバやロスアトムなど海外企業に売り飛ばすかもしれません。
反原発派の人々にこう言っても無駄かもしれませんが、すでに「脱原発」は既定路線になったわけで、それで十分じゃないですか。ドイツやイタリアと違って日本は海外から電力を輸入することができないのです。それなのに「今すぐ全基停止」なんてしたら、日本中で電力不足が起き、多くの国民が計画停電でひどい目に遭います。電力不足で日本企業の工場が海外に逃げ出すと書きましたが、その多くは都市部ではなく地方にあります。原発を止めるのなら、そこで働いている何千人もの職員も雇用を失います。発電しないのなら電源交付金などの補助金もなくなるでしょう。ゆっくりと進めるならまだしも、急にストップすれば地方経済に大打撃を与えます。
そうなると逆に「やっぱり原発は必要だ」という方向に進んでしまうのではないでしょうか。「再稼働も認めない」というラジカルすぎるやり方は、むしろ逆効果になるような気がします。
2011/04/09
この夏の輪番停電(操業)で何が起きるか
このところテレビや新聞などの大手メディアに、専門家でもなんでもない「反原発活動家」が登場して、放射性物質汚染の恐怖を煽りまくっています。パニックで二次災害が起きて死者がたくさん出たら、それも東電や政府に責任をなすりつけるのでしょう。
彼らの多くは常々「原発をすべて止めても電力はカバーできる」と言い続けてきました。もういきなり嘘だったことが判明しているわけですが、そのことを誰も問い詰めようとはしません。「止まっている時計も1日に2回、正確な時刻を示す」という言葉があります。「事故が起きる」と言い続けていれば、いつか当たるかもしれない。当たったからといって、他のすべての言動が正しいとは限りません。
電力需要のピーク時は7月末〜8月初めごろのもっとも暑くなるお昼過ぎで、ピーク時に必要な電力を供給できなければ停電が起きるので、電力会社はそれに合わせて発電施設に投資します。日本の電力需要は夏冬と春秋で倍近くも差があり、昼夜でも大きな差があるので、電力需要の低い時期には多くの発電施設は遊んでいることになりますが、ピーク時にはフル稼働に近い状態で、どこかでトラブルが発生したときに備えてバックアップのために老朽化した火力発電を残しているだけになります。原子力は電力需要の25%を担っているので、これで原発を止めてカバーできるわけがありません。
東電管内の真夏のピークは平均で5500万kW、2010年のような猛暑では6000万kWになることが予想され、東電はガスタービン発電などの新設で4650万kWまで供給可能としています。平年並みなら15%、猛暑なら23%足りないことになります。
政府は、全閣僚で構成する「電力需給緊急対策本部」で、今夏、大口需要家への電力使用制限令の発動や家庭への節電要請により、計画停電を実施しないことを決めました。東電の場合、約7割が工場など大口需要家、約3割が一般家庭で、大口需要家に節電を求めた方が効果的との判断でしょう。しかし、日本はエネルギーコストが高いので、国際競争にさらされている大手企業の工場などは極限まで省エネが進められています。節電を求められても照明を消すぐらいしかすることがなく、結局は操業を停止するしかありません。
経団連は自主的に「節電計画」作成を進めています。自工会は、たとえば工場の休業日をトヨタは日月曜日、日産は火水曜日、ホンダは木金曜日とズラす「輪番操業」を検討してます。しかし、トヨタとマツダは東電管内にほとんど生産設備がないので、ホンダと日産だけが割を食う形になりかねません。電機や半導体、鉄鋼などは一度工場を停止すると再稼働まで日数がかかるので、かなり難しいとされています。百貨店やスーパーなどは順番に休業日を作ることが検討されています。
輪番操業が仮にうまくいったとしても、休業が増えるわけで、工場やスーパーなどで時給で働いている非正規社員の給料は大幅に減ります。正社員は補償されていますが、ボーナスは確実に減るでしょう。経団連は電力消費25%削減を目標にしているので、大雑把に言えば操業が25%減って給料も25%減ることになります(企業側がどこまで人件費に転嫁するかによりますが)。これで何が起きるかと言えば、「デフレ」です。今は日本全体が自粛ムードに包まれているので、モノを製造しても仕方がないと思うかもしれませんが、労働者の給料まで減れば、デフレを加速することになるでしょう。
今年はもはやどうしようもないですが、火力発電所を建てるにしても1年やそこらではとうてい無理です。電力を自由化して、民間から発電事業への参入を募る必要もありますが、来年以降も輪番操業が続くなら、いよいよ工場の移転が始まります。従業員を引き連れて西日本に移転するならいいですが、海外に移転すれば失業者が増え、下請け企業の倒産も起きます。景気と失業者数、自殺者数は明確に関連があります。私は「自殺者が増える」と予想します。
景気、失業者数、自殺者数の変動幅の推移
つまり、「風が吹けば〜」みたいな話ですが、電力が供給されないと死者が増えるということです。
私は、政府に対して「企業が西日本や北海道(東電、東北電力以外のエリア)へ工場を移転する際の優遇策」を提言します。税金免除でも補助金でもいい。関東圏から工場と人が減れば、少ない電力で賄えるようになります。大阪に首都を移転するという案も考えてみる必要があるように思います。
彼らの多くは常々「原発をすべて止めても電力はカバーできる」と言い続けてきました。もういきなり嘘だったことが判明しているわけですが、そのことを誰も問い詰めようとはしません。「止まっている時計も1日に2回、正確な時刻を示す」という言葉があります。「事故が起きる」と言い続けていれば、いつか当たるかもしれない。当たったからといって、他のすべての言動が正しいとは限りません。
電力需要のピーク時は7月末〜8月初めごろのもっとも暑くなるお昼過ぎで、ピーク時に必要な電力を供給できなければ停電が起きるので、電力会社はそれに合わせて発電施設に投資します。日本の電力需要は夏冬と春秋で倍近くも差があり、昼夜でも大きな差があるので、電力需要の低い時期には多くの発電施設は遊んでいることになりますが、ピーク時にはフル稼働に近い状態で、どこかでトラブルが発生したときに備えてバックアップのために老朽化した火力発電を残しているだけになります。原子力は電力需要の25%を担っているので、これで原発を止めてカバーできるわけがありません。
東電管内の真夏のピークは平均で5500万kW、2010年のような猛暑では6000万kWになることが予想され、東電はガスタービン発電などの新設で4650万kWまで供給可能としています。平年並みなら15%、猛暑なら23%足りないことになります。
政府は、全閣僚で構成する「電力需給緊急対策本部」で、今夏、大口需要家への電力使用制限令の発動や家庭への節電要請により、計画停電を実施しないことを決めました。東電の場合、約7割が工場など大口需要家、約3割が一般家庭で、大口需要家に節電を求めた方が効果的との判断でしょう。しかし、日本はエネルギーコストが高いので、国際競争にさらされている大手企業の工場などは極限まで省エネが進められています。節電を求められても照明を消すぐらいしかすることがなく、結局は操業を停止するしかありません。
経団連は自主的に「節電計画」作成を進めています。自工会は、たとえば工場の休業日をトヨタは日月曜日、日産は火水曜日、ホンダは木金曜日とズラす「輪番操業」を検討してます。しかし、トヨタとマツダは東電管内にほとんど生産設備がないので、ホンダと日産だけが割を食う形になりかねません。電機や半導体、鉄鋼などは一度工場を停止すると再稼働まで日数がかかるので、かなり難しいとされています。百貨店やスーパーなどは順番に休業日を作ることが検討されています。
輪番操業が仮にうまくいったとしても、休業が増えるわけで、工場やスーパーなどで時給で働いている非正規社員の給料は大幅に減ります。正社員は補償されていますが、ボーナスは確実に減るでしょう。経団連は電力消費25%削減を目標にしているので、大雑把に言えば操業が25%減って給料も25%減ることになります(企業側がどこまで人件費に転嫁するかによりますが)。これで何が起きるかと言えば、「デフレ」です。今は日本全体が自粛ムードに包まれているので、モノを製造しても仕方がないと思うかもしれませんが、労働者の給料まで減れば、デフレを加速することになるでしょう。
今年はもはやどうしようもないですが、火力発電所を建てるにしても1年やそこらではとうてい無理です。電力を自由化して、民間から発電事業への参入を募る必要もありますが、来年以降も輪番操業が続くなら、いよいよ工場の移転が始まります。従業員を引き連れて西日本に移転するならいいですが、海外に移転すれば失業者が増え、下請け企業の倒産も起きます。景気と失業者数、自殺者数は明確に関連があります。私は「自殺者が増える」と予想します。
景気、失業者数、自殺者数の変動幅の推移
つまり、「風が吹けば〜」みたいな話ですが、電力が供給されないと死者が増えるということです。
私は、政府に対して「企業が西日本や北海道(東電、東北電力以外のエリア)へ工場を移転する際の優遇策」を提言します。税金免除でも補助金でもいい。関東圏から工場と人が減れば、少ない電力で賄えるようになります。大阪に首都を移転するという案も考えてみる必要があるように思います。
2011/04/03
原発のスイッチを入れよ
福島第一1号機が爆発する映像を見て、こんな映像が日本中に流されたらもう日本で原発の新設はおろか、定期点検で止められていた原発の再起動も認められず、現在運転中の原発もすべて停止されることになるのではないかと思いました。
事故が起きてから3週間、私は「果たして日本は原子力利用抜きでやっていけるのだろうか」と考え続けました。しかし、やはり無理だとの結論に達しました。
このまま計画停電が続けば、関東地方の大企業の本社オフィスや製造工場はどんどん逃げ出します。従業員を引き連れて西日本に移動するならマシですが、かろうじて日本に踏みとどまっていた製造工場は海外への移転を選択するでしょう。失業者が増え、経済は失速します。日本の年金は貯蓄型ではなく、若者が高齢者の年金を負担する賦課型なので、これも早晩破綻するでしょう。日本全体が沈没しかねない事態です。
実情を知らない人はのんきに「風力や太陽光で原発を代替しろ」と言いますが、日本では不可能です。ヨーロッパやアメリカなどの大陸国と違い、日本は山岳地帯が多く地形が複雑なので、風向が安定せず、風力に向いていません。洋上に出れば風が安定しますが、日本の沿岸の地形は、遠浅のデンマークなどと違って水深が一気に深くなるので、建設コストが跳ね上がります。太陽光も単位面積当たりの発電量が少ないうえ、雨が多い国なので、やはり向いていない。再生可能エネルギーとしては実は地熱や水力が一番向いているのですが、温泉地になっている地域では温泉の湧出に影響が出るとして地熱に大反対で、日本の大河川にはすでにあらかた水力ダムが建設されています。
もし無理やり原子力を風力と太陽光で代替すれば、電気代は2倍ぐらいになるでしょう。普及させるために多額の補助金を出せば、それも負担として跳ね返ってきます。火力で補うにしても、ニュースではほとんど報道されていませんが、原油価格はすでに1バレル108ドル(4月1日)に達しています。石油が上がれば、天然ガスも石炭も連動して上がります。
電気代が2倍になっても一般家庭の場合は他を切り詰めて何とかできるでしょうが(消費が冷え込んで景気が悪化しますが)、企業の場合はそうはいきません。ただでさえ日本は、人件費や土地が高く、エネルギー資源を輸入に頼っているため、エネルギーコストも高いわけですが、電気代が2倍になればやはり工場は日本から逃げ出します。
これまで私はBlogで、半分夢みたいな話を将来への期待として書いてきました。電池が安くなればこんなことが可能になるよ、と。しかし、今回の震災でそんな悠長なことは言っていられなくなりました。日本は沈没しかねない危機的状況にあります。
今発売されているSAPIOで、森永卓郎氏は「原発のスイッチを入れよ」と提言しています。私もまったく同意です。仮に将来的に代替するにしても、今は動かさざるをえない状況だと思います。
今回の福島の事故では、地震で排気筒のクレーン操縦室に閉じこめられて亡くなった作業員の方はおられますが、原子力事故による死者は今のところ一人も出ていません。大量に被爆した作業員が将来的にガンを発症する可能性はありますが、周辺地域の人々は避難しているので、ほとんど影響はありません。4月2日のNHKニュースで、放射線医学総合研究所が被爆による発ガンリスクの上昇率を発表していましたが、避難地域以外で放射線レベルがもっとも高い福島県飯舘村で、今の状態が3か月続くと仮定した場合(まだ3週間)で0.1%上昇(乳幼児は0.25%)、東京の場合で0.02%上昇するとのことです。発ガンの原因は食生活(というより食べ物そのもの)と喫煙が最大で、そもそも日本人の半分はいずれガンを発症するので、この程度の上昇を気にしても仕方がないのです。今の東京より自然界からの放射線レベルがはるかに高い地域は、世界中にいくらでもありますし、飛行機で海外旅行をする方がはるかに多くの被爆をします。
事故による経済的な損失は数兆円単位になるでしょうが、人的被害は意外にも少ないのです。原発と同じ文明の利器である自動車やバイクによる交通事故で死ぬ人は年間5000人です。この60年間に約60万人もの人々が交通事故で亡くなっています。それでも私たちは平気で自動車に乗っているわけです。
計画停電で信号が消えて交通事故が起き、死亡事故も起きました。夏場に計画外の事故的な停電が起きれば、病院等で亡くなる方も出てくる可能性もあります。熱中症で亡くなる高齢者も出てくるかもしれません。
今夏の計画停電で、電力がどれほど重要なものかを日本人は思い知ることになるのでしょう。そしかしたら「リスク」に対する意識も変わるかもしれません。今はそれに期待するしかないような気もします。何よりも作業員が怪我をすることもなく、福島の事故が一刻も早く終息することを願ってやみません。
事故が起きてから3週間、私は「果たして日本は原子力利用抜きでやっていけるのだろうか」と考え続けました。しかし、やはり無理だとの結論に達しました。
このまま計画停電が続けば、関東地方の大企業の本社オフィスや製造工場はどんどん逃げ出します。従業員を引き連れて西日本に移動するならマシですが、かろうじて日本に踏みとどまっていた製造工場は海外への移転を選択するでしょう。失業者が増え、経済は失速します。日本の年金は貯蓄型ではなく、若者が高齢者の年金を負担する賦課型なので、これも早晩破綻するでしょう。日本全体が沈没しかねない事態です。
実情を知らない人はのんきに「風力や太陽光で原発を代替しろ」と言いますが、日本では不可能です。ヨーロッパやアメリカなどの大陸国と違い、日本は山岳地帯が多く地形が複雑なので、風向が安定せず、風力に向いていません。洋上に出れば風が安定しますが、日本の沿岸の地形は、遠浅のデンマークなどと違って水深が一気に深くなるので、建設コストが跳ね上がります。太陽光も単位面積当たりの発電量が少ないうえ、雨が多い国なので、やはり向いていない。再生可能エネルギーとしては実は地熱や水力が一番向いているのですが、温泉地になっている地域では温泉の湧出に影響が出るとして地熱に大反対で、日本の大河川にはすでにあらかた水力ダムが建設されています。
もし無理やり原子力を風力と太陽光で代替すれば、電気代は2倍ぐらいになるでしょう。普及させるために多額の補助金を出せば、それも負担として跳ね返ってきます。火力で補うにしても、ニュースではほとんど報道されていませんが、原油価格はすでに1バレル108ドル(4月1日)に達しています。石油が上がれば、天然ガスも石炭も連動して上がります。
電気代が2倍になっても一般家庭の場合は他を切り詰めて何とかできるでしょうが(消費が冷え込んで景気が悪化しますが)、企業の場合はそうはいきません。ただでさえ日本は、人件費や土地が高く、エネルギー資源を輸入に頼っているため、エネルギーコストも高いわけですが、電気代が2倍になればやはり工場は日本から逃げ出します。
これまで私はBlogで、半分夢みたいな話を将来への期待として書いてきました。電池が安くなればこんなことが可能になるよ、と。しかし、今回の震災でそんな悠長なことは言っていられなくなりました。日本は沈没しかねない危機的状況にあります。
今発売されているSAPIOで、森永卓郎氏は「原発のスイッチを入れよ」と提言しています。私もまったく同意です。仮に将来的に代替するにしても、今は動かさざるをえない状況だと思います。
今回の福島の事故では、地震で排気筒のクレーン操縦室に閉じこめられて亡くなった作業員の方はおられますが、原子力事故による死者は今のところ一人も出ていません。大量に被爆した作業員が将来的にガンを発症する可能性はありますが、周辺地域の人々は避難しているので、ほとんど影響はありません。4月2日のNHKニュースで、放射線医学総合研究所が被爆による発ガンリスクの上昇率を発表していましたが、避難地域以外で放射線レベルがもっとも高い福島県飯舘村で、今の状態が3か月続くと仮定した場合(まだ3週間)で0.1%上昇(乳幼児は0.25%)、東京の場合で0.02%上昇するとのことです。発ガンの原因は食生活(というより食べ物そのもの)と喫煙が最大で、そもそも日本人の半分はいずれガンを発症するので、この程度の上昇を気にしても仕方がないのです。今の東京より自然界からの放射線レベルがはるかに高い地域は、世界中にいくらでもありますし、飛行機で海外旅行をする方がはるかに多くの被爆をします。
事故による経済的な損失は数兆円単位になるでしょうが、人的被害は意外にも少ないのです。原発と同じ文明の利器である自動車やバイクによる交通事故で死ぬ人は年間5000人です。この60年間に約60万人もの人々が交通事故で亡くなっています。それでも私たちは平気で自動車に乗っているわけです。
計画停電で信号が消えて交通事故が起き、死亡事故も起きました。夏場に計画外の事故的な停電が起きれば、病院等で亡くなる方も出てくる可能性もあります。熱中症で亡くなる高齢者も出てくるかもしれません。
今夏の計画停電で、電力がどれほど重要なものかを日本人は思い知ることになるのでしょう。そしかしたら「リスク」に対する意識も変わるかもしれません。今はそれに期待するしかないような気もします。何よりも作業員が怪我をすることもなく、福島の事故が一刻も早く終息することを願ってやみません。
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