2011/09/23

コンパクトシティ化で津波に強い防災都市を

今月初旬の台風12号による集中豪雨では、和歌山県で57名、奈良県で25名の死者・行方不明者(9月14日現在)を出すという甚大な被害が出ました。先日の台風15号でも全国で20名弱の死者・行方不明者が出ています。地球温暖化の影響かどうかは不明ですが、ゲリラ豪雨が頻発している昨今、人命を脅かすリスクは津波だけに限らないということです。

日本亜熱帯化?豪雨当たり前の時代へ――気象協会 オルタナ・オンライン

和歌山の被害状況をレポートしている下記のブログには、50年前にも大きな水害があり、祖父母の代の人々は高台に住居を構えたが、その教訓が薄れると低い土地にも建物が建てられるようになり、そういった建造物が大きな被害を受けたと書かれています。

和歌山の集中豪雨で日高川の氾濫の被害にあった、お兄さんの家にお見舞いに行ってきました

「三陸の津波被害と同じ問題を、山間部でも抱えているのです」とあります。

東北の被災地でも、今後、巨大津波を想定した都市計画を進める必要があり、高台に住居を移すという考え方が基本になっています。しかし、高台に住居を移すと、漁業や農業の従事者は田畑や港までクルマなどで「通勤」しなければならなくなり、生活が不便になります。これから30年、40年経つと震災の記憶が風化し、海に近い平地に土地が余ったりしていれば、また人が住み始めてしまうのではないでしょうか。

9月14日のエントリーでは、国や自治体は1000年に1度の巨大津波を想定して対策をしていなかったから、2万人もの死者・行方不明者を出したと書きました。しかし、実は対策をしていたおかげで、被害を抑えた自治体があるようす。それが仙台市。以下のブログには、仙台市の津波対策について書かれていますので、ぜひご覧ください。

[都市]仙台の津波と都市計画 中二階から

東京でも大阪でも、湾岸地域はこれでもかというほど開発され尽くしていますが、仙台では内陸部に中心地を築き、湾岸地域を市街化調整区域として開発せず、農地として利用してきたようです。このブログを見ると、見事に津波の浸水域と市街化調整区域がかぶっていて(塩釜港周辺を除く)、感動するほどです。コメント欄で「120%偶然ですな」とクサしている人もいますが、市街化調整区域を設定するときに「津波」が条件として入っていても決して不思議ではありません。

もちろん仙台市でも犠牲者は出ましたし、農地は塩水にさらされています。しかし、「巨大津波の対策をしていたから被害を減らせた」というのは事実でしょう。とすると、「大きな自然災害だったから、2万人もの死者・行方不明者が出たのは仕方がない」と言えるのでしょうか。“人災”とまで言うつもりはありませんが、人間の知恵で被害を減らすことは可能だったはずです。

仙台市がなぜこのように被害を減らせたのかというと、同市は「コンパクトシティ」という概念に沿って都市計画を進めてきたからです。「仙台市が目指す都市づくりの考え方」には、「これまでの外延的な市街化の拡大を防止し、過度な自動車交通への依存を改め、「軌道系交通機関を中心としたまとまりのあるまち」を目指す必要があります」と書かれています。簡単に言えば、人と都市機能を鉄道(路面電車も含む)の駅を中心に集中させ、郊外は農地や公園として残すということで、コンパクトにまとまった都市にするということです。

同様にコンパクトシティ構想を推進しているのが青森市です。同市では、これまで人口増にともなって市民は郊外へ郊外へと移転してきました。青森市は豪雪地帯で知られますが、人が住んでいる地域は自治体が道路の除雪をしなければなりません。冬季に除雪する道路の長さは年々増え続け、2005年には1300km(青森市から岡山市までの国道の距離と同じ)に達し、除雪費用は年間30億円にも達したそうです。それをきっかけとして、コンパクトシティ構想が生まれてきたのです。

具体的な計画としては、青森市内を市街地を中心とする「インナーシティ」、その周囲約4km圏内を「ミッドシティ」と設定し、さらにその外側は都市化を抑制し、自然環境、営農環境を保全する「アウターシティ」の3ゾーンに分類します。中心市街地では大型商業施設や図書館、公共施設、マンションなどの集合住宅を重点的に整備し、ミッドシティでは既存の低層の住宅地を残しつつ無秩序な開発を抑制します。独身の若者と高齢者世帯や街なかに住み、子育て世帯は郊外に住むという形になり、住み替えが簡単にできるような制度を充実させていくわけです。

地方にはクルマなしで生活できない自動車社会になっているところも多いですが、高齢化が進めば必然的にマイカーに頼る交通システムは崩壊していきます。徒歩、自転車、あるいはバスや路面電車など公共交通機関を中心に据えざるをえなくなります。地方でなぜ鉄道やバスが利用されないのかというと、人が広範囲にまばらに住んでいるために運行距離が伸びて運賃が高くり、利用者が少ないために本数が減り、本数が少ないと不便なので利用者が増えないというスパイラルに落ち込むからです。しかし、東京や大阪のように人口が集中すれば、バスや路面電車などの利用者が増え、採算が合うようになるわけです。

駅の周辺に人が集中して住むということは、鉄骨コンクリートの高層マンションに住むということになります。一戸建て住宅より、集合住宅のほうが消費エネルギーは少なくなりますし、六本木ヒルズのような天然ガス火力の自家発でコージェネレーションのシステムを住居棟に導入すれば、エネルギー消費削減ができます。停電しても大丈夫で、エコな町ができるのです。

では、「防災」という面から考えると、コンパクトシティにはどんなメリットがあるのでしょうか。仙台市は土地があるので、内陸に都市の中心を置き、津波を「避ける」ことができましたが、市の中心地が海に近く、土地が限られている地域ではそうはいきません。

安井至東大名誉教授は、「戦艦型高層住宅」と呼んでいますが、耐震性、耐津波性の高い高層マンション(RC造鉄骨10階建て程度でしょうか)を建設し、津波を「避ける」のではなく「受け流せ」ばいいとおっしゃっていました。いわゆる「津波避難ビル」で、いざというときは住民でない人々もそこに逃げ込めばいいわけです。高台まで長い距離を走って逃げるよりも、助かる確率は高まるでしょう。高台に住居を構えるよりも、農地や港などの職場に近いわけですから、利便性も高いはずです。何10年も経つと徐々に平地に住む人が出てきて、妙な不公平感も生じてきますから、初めから平地に住んでしまえばいいのです。

しかも農地を市街化調整区域として残し、集約化すれば、農業の大規模化が促進されます。農業機械の導入コストやエネルギーコストの削減が可能になり、農業の国際競争力も高まるでしょう。東北の被災地が、国際的な競争力をもつ現代的な農業で復活するというのは、理想的であるように思いますが、いかがでしょうか。

最後になりましたが、私は都市計画の専門家でも何でもありません。単なる素人の意見、というか希望というか、その程度の話ですのでご注意ください。

2011/09/15

DASH村の除染作業実験について

9月11日(日)の日本テレビ「ザ!鉄腕!DASH!!」で、福島県浪江町にあるDASH村での除染作業(実験)の模様を放映していました。DASH村は福島県第一原発からおよそ25kmの位置にあり、計画的避難区域に指定されています。番組では、TOKIOの山口達也氏と三瓶明雄氏の他、番組スタッフに、指導者としてJAXAの長谷川克也研究員と三重大学の加藤浩助教が村に入っていました。

JAXAの宇宙農業サロンを主催する山下雅道研究員は、放射能汚染農業土壌の除染プロジェクト「ひまわり作戦」を計画しており、おそらく長谷川研究員はそのメンバーなのだろうと考えられます。

DASH村敷地内の放射線量は、日本テレビのサイトの「DASH村の現況報告」というページに、測定データ(2011年7月16日測定)が掲載されています(「DASH村の現況報告」をクリック)。番組内ではガイガーカウンターをいろいろな場所に近づけて測定していましたが、サイトに掲載されているのは胸高で測定した正式な数値です。テレビなどでは地面に近づけて測ってワーワー騒いでいるのをよく見かけますが、比較するためには地面から100cmの高さで計測するのが正しい測り方です。詳しくは「放射線の正しい測り方-鈴木みそ」を参照。

この測定データを見ると、「枯れ葉」の堆積している場所がもっとも線量が高く毎時35μSV、もっとも低いのが「家前」の土が露出している場所で毎時10μSv、田んぼや畑など半年間放置されて雑草が生い茂っている場所で毎時12〜18μSvとなっています。ここで数時間ほど活動するだけなら、あんな大げさな防護服が必要かなあと思わないでもないですが、それはおいといて。

番組では何か所かにひまわりの種を植えて、経過を見守ることになっています。村に入ったのが7月16日で、すでに2か月近く経過しているので、近い内に続編が放映されるのかもしれませんが、今回は現時点での分析と予測を書いてみます。私はファイトレメディエーションの専門家でも何でもないので、あくまで素人の論であることにご注意ください。私はこう思うという単なる感想みたいなものです。

まず線量がもっとも高い「枯れ葉」のところですが、3月中旬に福島第一で水素爆発が起きて放射性物質がフォールアウトしたときに、枯れ葉はまだ樹木に生えていたのかもしれません。放射性物質を付着した葉が落ち、風の吹き溜まりになっているここに溜まった可能性があります。そうでなかったとしても、それ以前からここには枯れ葉が溜まっていたはずなので、放射性物質が土にまで到達している分は少なく、枯れ葉を除去するだけで線量は相当に落ちるような気がします。土が露出している「家前」より下がるかもしれません。

次に、「田んぼ」や「畑」「牧草地」などの場所ですが、「家前」の10μSv/hよりも高い数値が出ているわけです。3月中旬のフォールアウトの時点では、まだ雑草は生えておらず「家前」と同じ土が表出した状態だったはずなので、普通で考えれば同程度の数値が出ていてもおかしくありません。ところが、「家前」より高い数値が出ているということは、雑草が放射性セシウムを吸い上げていると考えるのが妥当な気がします。ただ、どれだけ吸い上げているかを判別するのは難しいところです。というのは、雑草がかなり伸びているため、吸い上げた放射性物質が微量であっても、茎の上部にまで吸い上げられていると、胸の高さにあるガイガーカウンターに近くなり、測定値が大きくなるからです。

と、書いていたら、まさに今、日テレのニュースで「農水省が実施していた実験で、ひまわりに除染効果がないことが判明した」と流れてきました。8月21日のエントリーで、「チェルノブイリ救援・中部」という支援団体が「菜の花が1年間に吸い上げる放射性物質は数%程度に過ぎない。土を耕すひまわり栽培は注意すべき」という声明を出していることを書きましたが、同じような結果が出たようです。

ヒマワリは除染効果なし 農水省が実験結果公表 asahi.com

ファイトレメディエーションの効果については、福島県農業総合センターでも検証しており、福島民報の記事「玄米から検出は微量 県農業総合センターが栽培試験」では、「ひまわりの放射性物質の移行率は1〜1.5%」と報じられています。ちなみに、この記事には「高濃度の放射性物質を含む土壌でコメを栽培しても、玄米からの検出量はわずか」で、米を作ってもまったく安全であると書かれています。稲の吸収率が低いことが逆に良かったということですね。

ひまわりの除染効果は疑わしいと考えるのが妥当のようです。ではなぜ、DASH村の雑草は吸収した(ように見える)のでしょうか。もしかしたらフォールアウトの後、雨でセシウムが土に染み込んでいくときから雑草が伸び始めたから、比較的よく吸収したのかもしれません。あるいは、土を耕さない状態のほうが吸収しやすいのかもしれません。これについては検証を待つ必要があります。

いずれにせよ、枯れ葉や雑草の除去で、おそらくDASH村内は「家前」の10μSv/hと同程度かそれ以下にまで下げられると考えられます。10μSV/hという線量は、仮にその場に24時間365日、立ちっぱなしで、「10μSv/h×24h×365日=87600μSv」となり、線量は年間87.6mSv。これが10分の1ぐらいになれば十分安全と言えるでしょう。毎日、一日中、外で突っ立っているわけではないので、現実の被曝量は大幅に下がります。

ひまわりの種をまいて刈り取るほうが、手間もコストも少なくてすみますが、効果がなさそうだということがわかった以上、土の表層数cm程度を削り取るしかないと思います。先ほどのasahi.comの記事には、除染技術ごとの効果が掲載されていて、「牧草ごと土地をはぎ取る」97%減、「固化剤ごと土を削り取る」82%減、「表土を削り取る」75%減と出ています。元ネタは農水省の以下のリリース。

農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)について 農水省

表土剥離によって8割から9割ぐらいは減少するので、ここまですればまったくもって安全なレベルにまで下がると言えます。

農地については表土剥離の後、耕すことになるので、通常より深めに掘って耕せば、線量はさらに減少するでしょう。放射性物質にしても結局は濃度の問題であって、薄ければ何の問題もないのです。前述した福島県農業総合センターの実験にあるように、玄米は土壌中の放射性物質をほとんど吸収しないようですから、他の作物も試験的に作って線量を測って検証すべきでしょう。こうなると、むしろ「植物が放射性物質を吸収しない」ほうがメリットは大きいのかもしれません。

ゼロリスク信仰に囚われている人々は、「こんな土地で採れた作物なんて!」とヒステリー起こすかもしれませんが、実際に採れた作物の放射性物質の含有量を計測して基準値以下であれば、何の問題もないですよね。人間の体のなかには5000Bqぐらいの放射性物質が存在していて、過去の核実験の影響で、超微量ですがプルトニウムも体内にあります。放射性物質を付着した黄砂が降っているなかでも、何の疑問ももたず「安心」して外出していますよね。メディアは「内部被爆」で大騒ぎですが、前回のエントリーでも書いたように、もっとも内部被曝量の多かった浪江町の子供たちでも、内部被曝量は70歳までの累積で、たった3mSv未満(推計値)なのです。

さて、次の段階ですが、集めた枯れ葉や刈り取った草、削り取った表土の処分をどうするかです。枯れ葉や雑草に関しては、通常の焼却処分ではなく、蒸し焼きにして飛散を防ぎながら体積を減らすという実験が始まるそうです。

農水省、福島・飯舘村に試験炉-放射性物質含むヒマワリ、蒸し焼きで飛散防ぐ 日刊工業新聞

削り取った表土の処分については、DASH村のような狭い土地であればさほど問題になりませんが、福島県内の農地にまで広げると何1000万トンもの量になると見込まれ、それが課題となっています。そんななかで、産業総合研究所は、土壌中の放射性セシウムを吸着する「プルシアンブルーナノ粒子吸着材」を開発したと発表しました。

土壌中のセシウムを低濃度の酸で抽出することに成功
プルシアンブルーを利用して多様な形態のセシウム吸着材を開発

この技術を使えば、「12000Bq/kgの土壌を現在作付け制限の基準値となっている5000 Bq/kg以下にすることができる」としています。さらに処理温度を200℃にまで上げれば、ほぼ100%放射性セシウムを除去できるそうです。洗浄に利用する酸水溶液は、酸濃度の調整のみで繰り返し利用できるとしています。ここにははっきりと書かれていませんが、洗浄後の土は農地に戻せるということでしょう。廃棄物を大幅に減量できるということです。

除去した放射性セシウムの残渣は、どう処理するのか不明ですが、放射性セシウムの半減期はセシウム134が2年、セシウム137が30年と、ウランやプルトニウムなどに比べればはるかに短いです。セシウム134と137の存在割合はほぼ半々で、30年経てばセシウム134はほぼ消滅、セシウム137は半分になるので、現在の4分の1になります。100年経てばおよそ20分の1と問題のないレベルになります。ですので、どこかに埋設処理するということになるのでしょう。

DASH村の場合は小さな土地なので、やろうと思えばコスト無視で完璧に除染することは可能でしょう。しかし、テレビの影響力というものも考える必要があると思います。同じことを福島の農地すべてでできるとは限らないからです。どこまでやれば安全なレベルに達したと言えるのか、その判断の基準を視聴者に説明することを望みます。公的な基準に合わせるというのが無難だと思うのですが。

2011/09/14

「安心」と「安全」の違い

東北地方の歴史を遡ると、岩手県から福島県にかけて巨大津波が襲ったのは865年(貞観津波)のことで、まさに1000年に1回の規模の大津波が東北地方を襲いました。この津波で2万人もの人々が死亡・行方不明になりましたが、高さ20mを超えるような巨大津波を想定して、国や自治体は対策をしていたでしょうか。まったくしていなかったからこそ、これほど多くの被害者が出たわけです。

岩手県の宮古市田老地区には日本一といわれる高さ10mの防波堤があり、1960年のチリ地震津波から村を護りました。しかし、今回の大津波には耐え切れませんでした。

「日本一の防潮堤」無残 想定外の大津波、住民ぼうぜん asahi.com

一方、福島第一原発は5.7mの津波にも耐えられるように設計されていましたが、13mのの大津波に襲われて冷却用電源を消失し、事故を起こしました。甚大な経済的被害をもたらしましたが、原発周辺の住民に放射能災害で亡くなられた方はいませんし、これからもほとんど出ないでしょう。

福島県で住民の「内部被曝量」の先行調査を行なったところ、内部被曝線量がもっとも高かった浪江町の子供でも、70歳までの累積で推計「3mSv未満」だったそうです。

浪江町の子ども、生涯3ミリシーベルト未満も 内部被曝調査で 日本経済新聞

生涯でたった3ミリシーベルト。反原発団体は「子供の尿から放射性セシウムが出た」と騒いでいましたが、尿から検出されるということは「体外に排出されている」ということです。今まで内部被爆で騒いでいたマスコミは、もう少し冷静になるべきでしょう。

土地や家を放射能で汚染されて住めなくなった方たちの悲しみには言葉もありませんが、津波に流されて亡くなった方たちの恐怖と絶望も想像を絶するものだったでしょう。大津波は農地や家も徹底的に破壊し、海水(塩水)にさらされた田畑を復活させるのも容易ではありません。生き残ればそれを嘆くこともできますが、亡くなられた方はもはやそれさえもできないのです。1000年以上前に巨大津波があったことは史実として残されていたのに対策をしなかったから、こういう悲劇が起きたわけです。

(財)エネルギー経済研究所が6月24日に公表した「原子力発電の再稼働の有無に関する2012年度までの電力需給分析」によれば、原発を再稼働しない場合、2012年度の夏季には電力供給が7.8%足りなくなり、12年度の化石燃料調達費は3兆5000億円増加すると試算しています。燃料費の増加を電気料金に上乗せすれば、家庭用で18.5%、産業用で36%も上昇します。中東などの産油国に丸々3兆5000億円を献上するだけで経済効果はゼロ。しかも原発を再稼働しなければ、毎年毎年この負担が続くわけです。

今夏は15%の節電を強要されましたが、原発54基中16基がまだ稼働しているからなんとか乗り切れたわけです。しかし、史上空前の円高に加え、電力不足と電気代の高騰が続くのであれば、日本企業の工場はどんどん海外に逃げ出します。同研究所は、7月28日の「短期エネルギー需給見通し」で、原発の再稼働がない場合、12年度末までにGDPは3.6%減少し、失業者が約20万人増えるという試算も公表しています。

このまま産業空洞化が進んで失業者が溢れ、景気が後退していけば、電力需要は減少し、いずれ火力と水力だけで電力需要を賄えるようになり、脱原発が完遂されるでしょう。それまでに燃料費で数10兆円ものお金が吹っ飛び、日本はバブル崩壊のときよりひどい経済停滞に落ち込むでしょうが、即時全基停止でいったい何人の命を救えるのかというと、効果はほぼゼロです。むしろ、老朽化した火力発電所を無理に運転して大気汚染が悪化し、気管支喘息や肺がんなどで亡くなる人が増える可能性もあります。失業者が増えれば自殺者も増えるでしょう。911テロの後、多くのアメリカ人が飛行機を避けて自動車を利用したことで交通事故が激増し、1600人も死者が増加したのと同じです。

私には不思議で仕方がありません。孫正義氏らは「未来の命を救う」ために脱原発を唱えているわけですが、数10兆円ものお金を使うのなら、原発を止めるより、津波の対策をした方がはるかにたくさんの命を救えるのではないでしょうか。原発周辺の海に近い地域に住んでいる人々は、「原発を止めろ」ではなく、なぜ「津波対策をしろ」と言わないのでしょう。原発がなくなっても大津波に襲われたらひとたまりもないのです。原発事故では避難する時間が十分にありましたが、津波の場合は逃げ切れなかった人が2万人もいたわけです。自分だけは逃げ切れると思っているのでしょうか。自分は逃げられたとしても、子供や高齢者は逃げ切れるでしょうか。

「安心」と「安全」は違うといわれますが、「安心」っていったい何なのでしょう。
生肉を食べて腸管出血性大腸炎にかかる人は毎年100〜300人いて死者も出ています。生で牛肉を食べるのは危険なのですが、店側が商品として提供しているから「安心」して焼き肉店でユッケを食べて、4人の方が亡くなりました。シロウオの踊り食いが今も提供されているのか知りませんが、川魚には寄生虫がいるのが当たり前で、食中毒がしょっちゅう起きています。食中毒になるなど夢にも思わず、「安心」して食べてあたるわけです。「安心」って何なのでしょう。

反原発ヒステリーを起こして全基停止を主張している人々は、とにかく「原発が止まれば安心」なのかもしれませんが、現実には何一つ命を脅かすリスクは減ってなどいません。今回と同規模の津波に襲われたら、また何万人という単位の人々が亡くなるのです。

2011/09/13

フランスの核施設で爆発事故

フランス南部マルクールの核廃棄物処理施設で爆発事故が起きました。

仏の核施設で爆発、1人死亡4人負傷 「放射能漏れなし」 当局は収束宣言 日本経済新聞

情報が錯綜していて、正確なところはわかりませんが、低レベルまたは極低レベルの金属放射性廃棄物を溶かす炉のある施設のようです。報道では「溶融炉」という言葉が使われているので(2ch系のサイトでは「核溶融炉」と書かれている)、何か核燃料の類いを扱っているような気がしてしまいますが、おそらくは製鉄所の電炉のような炉がある施設だと考えられます。核廃棄物といっても、原発内で使用した工具やポンプなどのスクラップや作業服、手袋などで、もともと大量の放射性物質がある場所ではないはずなので、当局の「放射能漏れはない」という発表は本当だろうと思います。放射性物質は放射線を出すので極めて微量でも簡単に検知でき、それゆえに今、日本中で大騒ぎになっているわけですが、もし外に漏れていたら周辺各国で即座に検知されているはずです。北朝鮮の核実験でも瞬時に偵察衛星で検知できるわけです。

政府当局者は「人的なミス」としているようですが、いったい何が原因なのでしょう。「製鉄所 爆発事故」でググってみるとわかりますが、一般的に爆発事故が起きやすいのは石炭を原料に使うコークス炉などの高炉メーカーの製鉄所で、コークス炉ガス(COG)のガス爆発事故がかなりの頻度で起きていて、事故のたび、多くの作業員の方々が亡くなられています。ただ、スクラップを融かす施設なので、おそらくは電炉だと考えられます。電炉の場合、廃棄物に水が多量に含まれていて水蒸気爆発を起こすことがあるようですが、水蒸気爆発で遺体が炭化するほど燃え続けるだろうかという疑問が残ります。可燃性の燃料がないとそういう状態にはならないような気がします。もしかしてテロ? という気がしないでもありませんが、今後の事故調査を見守る必要があるでしょう。

いずれにせよ、原子炉以外の周辺施設は安全基準が緩いので、こういった事故は起きうるわけですが、福島の事故の後で「核廃棄物の処理施設で爆発事故」となると、フランスのエネルギー政策にも影響を及ぼす可能性は否定できません。フランスは電力供給の8割を原子力に頼っている国で、普通で考えれば脱原発は不可能ですが、もし国民がヒステリー起こして是が非でもやるとなれば影響はEU全体に及びます。図(エネルギー白書2010より抜粋)にあるように、ドイツもイタリアもイギリスもスペインも、みんなフランスの電力に依存しています。フランスに電力を輸出に回す余力がなくなれば、各国とも自前で賄わなければならなくなります。自前で火力発電所を建設していくしかなく、化石燃料は高騰し、各国の脱原発政策にもブレーキがかかるでしょう。これはあくまで「フランスが脱原発を選択したら」という仮の話で、そうはならないとは思いますが。