2011/11/30

東京大学大学院農学生命科学研究科の研究報告会レポート

11月19日に東大の安田講堂で、東京大学大学院農学生命科学研究科の「放射能の農畜産物等への影響についての研究報告会」という報告会があり、聴講してきました。

東大には何度も取材で行ってますが、安田講堂に入ったのは初めてです。安田講堂というと、60年代後半に東大闘争で全学連が立てこもり、機動隊から放水されていた映像がまず思い浮かびます。私もオンタイムで見たわけではなく、過去の事件の映像として見ただけですが、あの時代、馬鹿みたいに暴れていた人たちが、今、「放射能の恐怖」を煽りまくってメディアで暴れているというのは感慨深いものがあります。ま、どうでもいいことですが。

東京大学大学院農学生命科学研究科では、原発事故による放射性物質のフォールアウトが農畜産物にどんな影響を与えるかについて、教員40〜50人でチームを作り総力を挙げて調査・研究を行なっているそうです。まだ研究の途中段階ですが、社会に対して情報提供することが重要と判断し、中間報告という形で報告会を開いたということです。

発表された研究を全部紹介しようとしたら途方もないことになるので、かいつまんで印象に残った発表だけ紹介します。まず基本的な情報として、福島県農業総合センター生産環境部・吉岡邦雄氏の研究発表から以下の数値を出します。福島県内718か所の農地で、放射性物質の濃度を測定したところ、以下のような平均値になったとのこと。さらに濃度ごとの農地の割合も出されています。

<放射性物質の濃度の平均値>
水田   1200Bq/kg
畑    1100Bq/kg
果樹園地 1000Bq/kg
草地    900Bq/kg
その他   600Bq/kg

<濃度ごとの農地の割合>
〜1000Bq/kg  77.3%
〜2000Bq/kg  15.0%
〜3000Bq/kg   4.7%
〜4000Bq/kg   1.8%
〜5000Bq/kg   1.0%
5000Bq/kg以上  0.1%
*ただし、5000Bq/kgを超えた土地では、再度精密に調査して、「〜4000Bq/kg」だったことが判明したとのこと。

農地の8割近くが1000Bq/kg以下で、約97%が3000bq/kg以下だということです。

福島県農業総合センターでは試験的に野菜を生産し、精度の高いゲルマニウム半導体検出器4台を使って放射性物質の濃度を測定しています。すべての数値を出すのは大変なので、概略だけ。コマツナ、キュウリ、トマト、アスパラガス、キャベツ、ブロッコリー、ジャガイモ、ナスで、最大でも30Bq/kgで当然、規制値以下。大半が通常の測定ではND(検出限界10Bq/kg以下)とされる数値でした。

実際に生産された野菜のモニタリング検査でも、10月の時点で99%が規制値以下で、約70%がNDとのこと。ぶどうや梨など果樹については100Bq/kg以下で規制値は下回っているが、NDにはなっていない。しかし、果樹の場合、土から吸い上げるよりも樹皮から「転流」する割合が高く、樹皮をはぐことで9割程度減らせるとのこと。

移行係数は以下の通り。

ヒマワリ   0.0310
キュウリ   0.0028
ピーマン   0.0022
ブロッコリー 0.0015

ヒマワリはセシウムを吸い上げる割合が高く除染効果が期待されていたが、他の植物より10倍以上吸収するが、それでも効果はあまり期待できない。逆に言えば、野菜類はヒマワリよりもはるかに吸収率が低いため、ほとんど問題ないということです。

次、コメ。生産農家1173件のモニタリング検査。NDは964件(82%)、100Bq/kg以下が203件(17%)、200Bq/kg以下が6件(1%)。

前回のエントリーで、二本松地区で生産されたコメから基準値500Bq/kg以上が検出されたことを書きましたが、今日もニュースで伊達市の農家からも基準値を超えるコメが出たことが報じられました。99%が100Bq/kg以下なのに、なぜこういうことが起きるのでしょうか。

東京大学大学院農学生命科学研究科・生産・環境生物学専攻の根本圭介教授がその原因を明らかにしました。田んぼの土には、粘土分が多い「灰色低地土」と、粘土分が少なく有機物の多い「褐色森林土」の2種類があり、名前の通り、灰色低地土は平坦地、褐色森林土は山間地の田んぼに入っています。

セシウムはフォールアウトの後、陽イオン「Cs+」として存在し、土壌中の有機物と電荷による弱い結合で結びつきます。それが数か月から数年で、どんどん粘土に移行して非常に強く吸着するようになるとのことです。つまり、褐色森林土の田んぼは有機物が多く、粘土が少ないので、セシウムは粘土に吸着されづらいわけです。灰色低地土と森林褐色土では、移行率は8〜10倍もの差があるとのこと。福島ではほとんどの田んぼが灰色低地土ですが、一部の森林褐色土のコメから検出されたわけです。原因が解明されたわけですから、今後は対策の方針も立つことでしょう。

テレビや新聞では、何件か出ただけで「規制値を超えた」と大騒ぎしますが、福島の野菜やコメのほとんどはNDで、基準値を超えたのはごく一部だけなのです。

私はこの報告会に参加して、大きな希望をもちました。福島の農業は必ず復活します。