2011/07/18

長崎大学・山下俊一教授を反原発作家が告訴

BLOGOSに田中龍作という人の下記のような記事が載っています。

【福島原発事故】 東電最高幹部、山下教授ら張本人32名を刑事告発 〜上〜

これは記事の一部のようで、全文が下記の個人ブログにあります。

【福島原発事故】 東電最高幹部、山下教授ら張本人32名を刑事告発 〜上〜
【福島原発事故】 東電最高幹部、山下教授ら張本人32名を刑事告発 〜下〜

広瀬隆氏と明石昇二郎氏が、東電幹部や原子力保安院幹部、福島県放射線健康リスクアドバイザーの山下俊一・長崎大学大学院教授らを業務上過失致死傷や業務上過失致傷などの容疑で刑事告訴したというのです。

福島の事故で、周辺住民は多大な精神的苦痛や経済被害を被ったわけで、東電や原子力保安院を告訴するというのは理解できますが、「業務上過失致死傷」「業務上過失致傷」で訴えるというのはどういうことなのでしょう? 周辺住民のなかから原子力災害による死者は一人も出ていないし、傷害についても同様のはずです。自殺された農家の方はいましたが、反原発派が「放射能デマ」を撒き散らして風評被害や差別を拡大させていることを考えれば、広瀬氏らはむしろ逆に訴えられても仕方がないようにも思えます。

しかも山下俊一・長崎大学大学院教授を告訴するという行為に至っては、もはや理解不能です。“作家”であって放射線被爆の専門家でも何でもない広瀬氏らが、放射線医学の権威で、世界保健機関(WHO)緊急被曝医療協力研究センター長を務め、チェルノブイリでも何度も現地調査を行なっている山下教授を、自分たちが主張する「放射線被爆の被害」を認めないからといって告訴しているのです。イデオロギーに囚われた人間の恐ろしさがここでも見られます。

気になるのはこの記事を書いている田中氏の姿勢で、全面的に広瀬氏らを支持する立場に立って“悪役”呼ばわりしていますが、逆に名誉棄損で訴えられないか心配になります。この記事、ざっと読んだだけでいくつも間違いを指摘できるからです。たとえば、こんな記述です。

「チェルノブイリ事故では死者が4,000人とも100万人とも報告されている」

05年に国際原子力機関(IAEA)や世界保健機構(WHO)など国連8機関とウクライナ、ベラルーシ、ロシアの代表などで構成されたチェルノブイリ・フォーラムが発表した数字では、「将来にわたる死者数は約4000人」とされているので、4000人はいいとして、リスクをもっとも過大に評価している反原発団体のグリーンピースの試算でさえ、「全世界で9万3000人」です。桁が2桁も違う「100万人」の根拠はどこにあるのでしょう。

「同事故を凌駕する福島原発の事故で、死傷者が出ないはずはない」

これなどは単なる思い込みに過ぎず、いったいいつ福島の事故がチェルノブイリを超えたのでしょうか? 同じレベル7の事象でもチェルノブイリでは、格納容器のない黒鉛減速炉が水素爆発を起こして放射性物質のほとんどが飛散しましたが、福島の事故では原子炉から放出された放射性物質の量はチェルノブイリの約10分の1で、しかもそのほとんどは原発建屋の地下に溜まった水のなかにあります。施設外への放出量でいえばオーダーは2桁違うでしょう。前回の記事でも書きましたが、チェルノブイリの事故に比べて、周辺住民の放射性ヨウ素の被曝量は100分の1以下で、しかも日本人の場合は昆布やワカメなど海藻類を摂取するので甲状腺にヨウ素が溜まっていて、放射性ヨウ素が溜まりにくいとされています。

この記事を読む限り、こういった過大なリスク評価の根拠としているのは「ヨーロッパ放射線リスク委員会の報告書(ECRR)」のようです。しかし、欧州放射線リスク委員会(ECRR)というのは、リンク先のWikipediaのページを読んでもらえばわかりますが、「1997年に組織された非公式の委員会である。委員会と名前がついているが欧州評議会及び欧州議会とは関係ない別個の組織」で、実態は、欧州の反原発団体が集まって作った組織に過ぎません。つまり、田中氏の「欧州議会に設置されている」という記述も間違いです。

しかもこのECRRについて、京大原子炉実験所の今中哲二助教は、下記URLの資料で「つきあいきれない」と評しています。今中助教は、同じく京大原子炉実験所の小出裕章助教とともに30年来、反原発活動を行なってきた“熊取六人衆”の一人です。

低線量被爆リスク評価に関する話題紹介と問題整理 今中哲二

最後から2ページ目のところで、今中助教はこう述べています。
「ECRRのリスク評価は、「ミソもクソも一緒」になっていて付き合い切れない」
「ECRRに安易に乗っかると、なんでもかんでも「よく分からない内部被爆が原因」となってしまう」
日本の反原発派の理論的支柱となっている人でさえ、あきれる組織だということです。そもそも、ほんのわずかでも科学リテラシーがあれば、「福島第一原発から100km圏内では今後10年間に10万人以上がガンを発症する」という記述をストレートに信じ込めるわけがないのですけどね。

で、反原発団体の招きで、ECRRのクリストファー・バズビー科学議長が来日しているようで、

東日本大震災:福島第1原発事故 内部被ばく最も懸念ーークリストファー・バズビー氏 毎日.jp

放射性セシウムに汚染された牛肉の流通問題について、バズビー氏は「食品による内部被ばくは代謝で体外に排出されるので危険性はあまり高くない」と語ったそうです。放射線リスクを世界でもっとも高く見積もる人々が、牛肉は大丈夫だと(笑)。政府は規制値を上回ったから危険だと騒いでいますが、確かに、嘘ばっかりですね!

前回の記事でもかきましたが、日本にはこれまで30年来にわたって、中国から放射性セシウムを含む黄砂が大量に飛んできています。自民党政権時代から政府はずっとこのことを隠し続けてきました。黄砂は中国都市部の大気汚染の原因になっている有害な化学物質も一緒に運んできます。反原発派の人々が言うように、低線量の被爆で、もしそんなに簡単にがんになるのなら、今ごろ西日本に住む人々は全員がんで死んでいるかもしれません。日本人の死亡原因の第1位はがんですが、それは日本人の平均寿命が長いからで、他の国より特異的に高いわけでもありません。

今の若い人たちは左翼運動に免疫がないので、仕方がない面もあるとは思いますが、彼らにとってみれば赤子の手をひねるようなものでしょうね。政府や東電は嘘ばっかりで信用できないというのはいいんですが、同じように、作家さんや市民科学者さんや助教さんのいうことも少しは疑ってみてはいかがでしょうか。

2011/07/09

「低線量でも人体に影響がある」のなら「黄砂」の影響は?

6月9日のエントリーで、
「動物細胞を使った実験では、低線量の放射線でも害があることが確認されていて、それゆえに「わずかな放射線でも人体に害がある」と声高に叫ぶ人がいる」
と書きました。この「わずかな放射線でも人体に害がある」という説はペトカウという学者(医師)による実験が最大の論拠になっているのですが、反原発派の人々はこれをかなり歪曲し、都合よく利用している節があるのです。「ぷろどおむ」という方が、ペトカウ氏の元の論文に当たって内容を検証されています。

「ペトカウ効果」は低線量被曝が健康に大きな影響を与える根拠となるのか?

ポイントは2つあります。ペトカウ氏は、1時間当たり0.6〜600ミリシーベルト(600〜600000マイクロシーベルト)という線量で実験をしていること。「現在首都圏で測定されている空間放射線量の1000倍以上高い領域での話」なのです。福島県の浪江町などには毎時30マイクロシーベルトを超えるホットスポットがありますが、それの20倍以上の線量です。これを「低線量」と呼んでいるわけです。放射線医療では10シーベルト(10000ミリシーベルト)単位の放射線照射を行なうこともあるので、それに比べれば「低線量」ではありますが、福島で観測されている線量でもそれよりはるかに「低線量」なのです。

もう一つは、この実験で「放射線の影響を最小限に抑えるためのシステムが生体には備わっていることがすでに確かめられている」ということ。反原発活動家はそのことには一切触れないわけです。しかも「実はこのペトカウ氏は、低線量放射線が人体に多大な影響を与えるなんてことは何一つ言っていない」。

そもそも試験管内の細胞に対する実験の結果をそのまま複雑なメカニズムをもつ人体にあてはめるのは無理があるわけですが、この実験よりはるかに少ない超微量の放射線被爆にあてはめるのはメチャクチャです。そもそも微量の放射線被爆の影響に関して諸説あるのは、誰が実験しても明確に結果が出るというわけではないからです。つまり、仮にあったとしても、極めて影響は小さいということです。

こんな微量な被曝量では、20年後、30年後に統計を取っても発がん率の上昇という形では現れないでしょう。チェルノブイリ事故では避難民11万5000人の甲状腺への平均線量は490mGy(490ミリシーベルトとほぼ同じ)でしたが、福島第一周辺の子供約1000人を対象に行なった調査では、最高値は毎時0.1マイクロシーベルトで、99%が毎時0.04マイクロシーベルト以下でした。放射性ヨウ素の半減期は8日で、すでにほぼ消滅していますから、年換算する意味はないのですが、仮に最高値の毎時0.1マイクロシーベルトを1年間被爆したとしても約0.9ミリシーベルトで、少なくともチェルノブイリの100分の1以下であることは間違いありません。

これで困っているのは反原発派の人々です。今までさんざん「放射能の恐怖」を煽り、「がんになる、がんになる」と騒いできたのに、こんな大事故が起きても何も起きないのですから。そこで彼らが何をやっているのかというと、さらに恐怖を煽って被災者に心理的ストレスを与え、健康を害させるように仕向けている。なんとしてでも被害を生み出したいわけです。イデオロギーに狂った人々の恐ろしさというのはこういうところにあります。

「東日本は人が住めなくなる」「1ミリシーベルトでも害がある」等の発言で“神様”と崇められているあの方がどんなイデオロギーをお持ちかは、下記のファイルを見ればよくわかります。

2003年6月14日 朝鮮の核問題 京都大学・原子炉実験所 小出裕章

ここには、「なぜ、朝鮮(注:北朝鮮のこと)は文明国になるために必要な「原子力開発=Nuclear development」をしてはならないのか?」と書かれています。文明国になるためには原子力開発が必要だそうで、日本はダメだが北朝鮮は原発も核兵器も開発していいそうです。これでは「反原発」ではなくて、ただの「反米」「反日」ではないのでしょうか。

ここで終わろうと思ったのですが、面白い記事を発見したので、もう少々。

黄砂に乗って微量セシウム 石川県保健環境センター調査「人体に影響なし」 北國新聞

中国では80年代から新疆ウイグルの砂漠地帯で核実験を数10回行なっています。それで放出された放射性セシウムが黄砂に乗って日本に降り注いでいるわけです。セシウム137の半減期は約30年なので、仮に30年前に行なわれた核実験で放出されたものでもまだ半分残っているということです。石川県保健環境センターの調査によると、県内で確認された放射性セシウムの量は、福島第一の事故で確認された量のなんと71倍。しかも黄砂はこの数十年、毎年飛んできているのです。昔はセシウム137の崩壊が進んでいないので、もっと量が多かったでしょう。

我々日本人は、数十年前から黄砂に乗ってやってきた放射性セシウムで被爆していたのです。黄砂は吸い込んでしまうわけですから、反原発派の人々が大好きな「内部被爆」をしてきたことになります。それも福島の事故で出たものよりはるかに多い量を毎年、毎年。これでどうやって「福島の事故分」だけの影響を語れるのでしょうか。反原発派の人々で黄砂の影響に触れている人を見たことがありません。中国は共産主義だから、黄砂の放射能は「いい放射能」なのでしょうか。