2011/10/15

福島の子供の甲状腺検査に関して

数日前に、世田谷で飯舘村並みのホットスポットが見つかったとして騒ぎになりました。結局、民家の床下からラジウムの入った瓶が発見され、福島由来ではないことが明らかになりました。マスコミはこういった恐怖を煽れるネタに飛びつくわけで、早合点して恥をかいたわけです。

一週間ほど前にもひどい報道がありました。朝の情報番組で知ったのですが、福島の浪江町から避難してきた子供たちを対象に甲状腺検査をしたところ、130人中、10人が異常値を示したという話です。番組では基準値からはずれるということはどういうことかを説明することもなく、チェルノブイリ事故で甲状腺がんになった少年たちの悲惨な映像につなげ、まるでこれから同じことが起きるかのようにイメージを操作をしていて、吐き気さえ覚えました。もし自分に子供がいて、福島に住んでいたとしたら、とても見ていられないでしょう。

新聞にしても同様です。一部引用します。

甲状腺機能:子供10人に変化…福島の130人NPO調査 2011年10月4日 毎日.jp
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長野県松本市の認定NPO法人「日本チェルノブイリ連帯基金」と信州大病院が福島県内の子ども130人を対象に実施した健康調査で、甲状腺ホルモンが基準値を下回るなど10人の甲状腺機能に変化がみられたことが4日、同NPOへの取材で分かった。
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この記事には「変化がみられた」と書かれていますが、以前と比べて数値が上昇したとか、下降したとかいった事実がなければ、「変化」とは言えないはずです。原発事故前に検査をしていないのに、毎日新聞は何をもって「変化」と呼んでいるのでしょうか。まるで、事故前は全員、基準値内だったのに、事故後に異常値を示す子供が出てきたかのようです。もちろんその可能性はありますが、事故前からそうだったという可能性もあるわけで、少なくともこの検査で「変化」があったなどとは言えないはずです。

甲状腺検査の基準値というのがどのように設定されているのかというと、「こども健康倶楽部」というサイト内の国立成育医療研究センター室長・原田正平氏が監修した「先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)」というページに解説があります。一部引用します。

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この「正常値」と言われるのはどのような「値」なのでしょうか。 ある臓器の機能の検査を、何千〜何万人分も測定し、そこで得られた値を数学的に(正しくは統計学と言います)処理して、だいたい95%の人の値が入る値の範囲を決めます。これが「正常値」と言われる値です。これらの数値は最近では「基準値」「基準範囲」といわれています。検査の数値には個人差があり、また同じ検査項目でも検査方法が異なる場合もあります。ですから「正常値だから正常」で「正常値ではないから異常」ということではありません。
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事故や被爆がなくても5%程度は基準値からはずれるのが普通の状態ということです。130人を対象に10人ということは7.7%ですが、検査対象がたった130人では1人増えたり減ったりしただけで、1%弱は変動するので、とても有意とは言えません。

この件について、Twitterのまとめサイトでも指摘されています。

福島のこどもの甲状腺検査結果の報道をめぐって Togetter

この中のコメントで、(社)日本内科学会発行の「日本内科学会雑誌 2010年4月号」に甲状腺疾患について書かれているとの指摘があったので、取り寄せて読んでみました。群馬大学大学院医学系研究科の森雅朋氏が次のように書かれています。

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潜在性甲状腺機能低下症の実態調査(網野信行)により、成人(健康診断受信者)における甲状腺機能異常を示す患者数の実態が明らかになった。甲状腺自己抗体であるthyroglobulin(TG)(筆者注:サイログロブリン)抗体またはthyroid peroxidase(TPO)抗体を示す成人者は男性で14.4%(約7名に1人)、女性で24.7%(約4名に1人)で全体では21.7%に及ぶ。
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つまり、日本人の場合、成人(15歳以上)の約5人に1人が、異常値を示すということです。子供は調査対象に入っていないので、異常値を示すのがどれぐらいの割合かはわかりませんが、7.7%という数字を取り上げて、大変だと騒ぐことはできないはずです。数値が基準値からはずれているからといって、即“疾病”の状態にあるということではないわけで、むしろ「甲状腺がんはおろか、甲状腺疾患を発症している子供は一人もいなかった」ということがわかったわけです。

私が不思議で仕方がないのは、新聞やテレビは、なぜ甲状腺疾患の専門家にコメントをとらずに記者会見の話を垂れ流すのか、ということです。その方が“加工”して恐怖を煽りやすいからでしょうか。先のTogetterによれば、まともな報道をしていたのは福島民友新聞だけだったそうです。

話は変わりますが、先週の10月7日(金)に新宿で、農業環境技術研究所の主催で「第34回農業環境シンポジウム 放射性物質による土壌汚染 ー現状と対策ー」というシンポジウムが開かれたので聞きに行ってきました。後半だけの参加で、専門的な話が多く、難解だったので、細部まで理解することはできなかったのですが、「田んぼの場合、粘土質なのでセシウムが表層に留まりやすい(表層を削れば問題ない)」「米はセシウムを吸収しにくい。もっとも吸収しやすいのは牧草」「二本松で基準値の500Bq/kgを超えたのは例外で、他の地域の米はずっと低い。二本松については原因を調査している」とのことでした。

仮に放射性セシウムが500Bq/kgだったとしても、被爆量はどれぐらいになるかというと、1kg食べた場合、

500Bq×0.000013(放射性セシウムの係数)=0.0065ミリシーベルト

毎日1kg(水を含まない生米換算)もの米を1年間食べたとしても、0.0065×365日でたった年2.3ミリシーベルトにすぎません。普通はその何分の1かの数100g程度でしょう。こんな超低線量で体に影響が出るわけがありません。福島の米はまったくもって安全と言えます。