2011/09/15

DASH村の除染作業実験について

9月11日(日)の日本テレビ「ザ!鉄腕!DASH!!」で、福島県浪江町にあるDASH村での除染作業(実験)の模様を放映していました。DASH村は福島県第一原発からおよそ25kmの位置にあり、計画的避難区域に指定されています。番組では、TOKIOの山口達也氏と三瓶明雄氏の他、番組スタッフに、指導者としてJAXAの長谷川克也研究員と三重大学の加藤浩助教が村に入っていました。

JAXAの宇宙農業サロンを主催する山下雅道研究員は、放射能汚染農業土壌の除染プロジェクト「ひまわり作戦」を計画しており、おそらく長谷川研究員はそのメンバーなのだろうと考えられます。

DASH村敷地内の放射線量は、日本テレビのサイトの「DASH村の現況報告」というページに、測定データ(2011年7月16日測定)が掲載されています(「DASH村の現況報告」をクリック)。番組内ではガイガーカウンターをいろいろな場所に近づけて測定していましたが、サイトに掲載されているのは胸高で測定した正式な数値です。テレビなどでは地面に近づけて測ってワーワー騒いでいるのをよく見かけますが、比較するためには地面から100cmの高さで計測するのが正しい測り方です。詳しくは「放射線の正しい測り方-鈴木みそ」を参照。

この測定データを見ると、「枯れ葉」の堆積している場所がもっとも線量が高く毎時35μSV、もっとも低いのが「家前」の土が露出している場所で毎時10μSv、田んぼや畑など半年間放置されて雑草が生い茂っている場所で毎時12〜18μSvとなっています。ここで数時間ほど活動するだけなら、あんな大げさな防護服が必要かなあと思わないでもないですが、それはおいといて。

番組では何か所かにひまわりの種を植えて、経過を見守ることになっています。村に入ったのが7月16日で、すでに2か月近く経過しているので、近い内に続編が放映されるのかもしれませんが、今回は現時点での分析と予測を書いてみます。私はファイトレメディエーションの専門家でも何でもないので、あくまで素人の論であることにご注意ください。私はこう思うという単なる感想みたいなものです。

まず線量がもっとも高い「枯れ葉」のところですが、3月中旬に福島第一で水素爆発が起きて放射性物質がフォールアウトしたときに、枯れ葉はまだ樹木に生えていたのかもしれません。放射性物質を付着した葉が落ち、風の吹き溜まりになっているここに溜まった可能性があります。そうでなかったとしても、それ以前からここには枯れ葉が溜まっていたはずなので、放射性物質が土にまで到達している分は少なく、枯れ葉を除去するだけで線量は相当に落ちるような気がします。土が露出している「家前」より下がるかもしれません。

次に、「田んぼ」や「畑」「牧草地」などの場所ですが、「家前」の10μSv/hよりも高い数値が出ているわけです。3月中旬のフォールアウトの時点では、まだ雑草は生えておらず「家前」と同じ土が表出した状態だったはずなので、普通で考えれば同程度の数値が出ていてもおかしくありません。ところが、「家前」より高い数値が出ているということは、雑草が放射性セシウムを吸い上げていると考えるのが妥当な気がします。ただ、どれだけ吸い上げているかを判別するのは難しいところです。というのは、雑草がかなり伸びているため、吸い上げた放射性物質が微量であっても、茎の上部にまで吸い上げられていると、胸の高さにあるガイガーカウンターに近くなり、測定値が大きくなるからです。

と、書いていたら、まさに今、日テレのニュースで「農水省が実施していた実験で、ひまわりに除染効果がないことが判明した」と流れてきました。8月21日のエントリーで、「チェルノブイリ救援・中部」という支援団体が「菜の花が1年間に吸い上げる放射性物質は数%程度に過ぎない。土を耕すひまわり栽培は注意すべき」という声明を出していることを書きましたが、同じような結果が出たようです。

ヒマワリは除染効果なし 農水省が実験結果公表 asahi.com

ファイトレメディエーションの効果については、福島県農業総合センターでも検証しており、福島民報の記事「玄米から検出は微量 県農業総合センターが栽培試験」では、「ひまわりの放射性物質の移行率は1〜1.5%」と報じられています。ちなみに、この記事には「高濃度の放射性物質を含む土壌でコメを栽培しても、玄米からの検出量はわずか」で、米を作ってもまったく安全であると書かれています。稲の吸収率が低いことが逆に良かったということですね。

ひまわりの除染効果は疑わしいと考えるのが妥当のようです。ではなぜ、DASH村の雑草は吸収した(ように見える)のでしょうか。もしかしたらフォールアウトの後、雨でセシウムが土に染み込んでいくときから雑草が伸び始めたから、比較的よく吸収したのかもしれません。あるいは、土を耕さない状態のほうが吸収しやすいのかもしれません。これについては検証を待つ必要があります。

いずれにせよ、枯れ葉や雑草の除去で、おそらくDASH村内は「家前」の10μSv/hと同程度かそれ以下にまで下げられると考えられます。10μSV/hという線量は、仮にその場に24時間365日、立ちっぱなしで、「10μSv/h×24h×365日=87600μSv」となり、線量は年間87.6mSv。これが10分の1ぐらいになれば十分安全と言えるでしょう。毎日、一日中、外で突っ立っているわけではないので、現実の被曝量は大幅に下がります。

ひまわりの種をまいて刈り取るほうが、手間もコストも少なくてすみますが、効果がなさそうだということがわかった以上、土の表層数cm程度を削り取るしかないと思います。先ほどのasahi.comの記事には、除染技術ごとの効果が掲載されていて、「牧草ごと土地をはぎ取る」97%減、「固化剤ごと土を削り取る」82%減、「表土を削り取る」75%減と出ています。元ネタは農水省の以下のリリース。

農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)について 農水省

表土剥離によって8割から9割ぐらいは減少するので、ここまですればまったくもって安全なレベルにまで下がると言えます。

農地については表土剥離の後、耕すことになるので、通常より深めに掘って耕せば、線量はさらに減少するでしょう。放射性物質にしても結局は濃度の問題であって、薄ければ何の問題もないのです。前述した福島県農業総合センターの実験にあるように、玄米は土壌中の放射性物質をほとんど吸収しないようですから、他の作物も試験的に作って線量を測って検証すべきでしょう。こうなると、むしろ「植物が放射性物質を吸収しない」ほうがメリットは大きいのかもしれません。

ゼロリスク信仰に囚われている人々は、「こんな土地で採れた作物なんて!」とヒステリー起こすかもしれませんが、実際に採れた作物の放射性物質の含有量を計測して基準値以下であれば、何の問題もないですよね。人間の体のなかには5000Bqぐらいの放射性物質が存在していて、過去の核実験の影響で、超微量ですがプルトニウムも体内にあります。放射性物質を付着した黄砂が降っているなかでも、何の疑問ももたず「安心」して外出していますよね。メディアは「内部被爆」で大騒ぎですが、前回のエントリーでも書いたように、もっとも内部被曝量の多かった浪江町の子供たちでも、内部被曝量は70歳までの累積で、たった3mSv未満(推計値)なのです。

さて、次の段階ですが、集めた枯れ葉や刈り取った草、削り取った表土の処分をどうするかです。枯れ葉や雑草に関しては、通常の焼却処分ではなく、蒸し焼きにして飛散を防ぎながら体積を減らすという実験が始まるそうです。

農水省、福島・飯舘村に試験炉-放射性物質含むヒマワリ、蒸し焼きで飛散防ぐ 日刊工業新聞

削り取った表土の処分については、DASH村のような狭い土地であればさほど問題になりませんが、福島県内の農地にまで広げると何1000万トンもの量になると見込まれ、それが課題となっています。そんななかで、産業総合研究所は、土壌中の放射性セシウムを吸着する「プルシアンブルーナノ粒子吸着材」を開発したと発表しました。

土壌中のセシウムを低濃度の酸で抽出することに成功
プルシアンブルーを利用して多様な形態のセシウム吸着材を開発

この技術を使えば、「12000Bq/kgの土壌を現在作付け制限の基準値となっている5000 Bq/kg以下にすることができる」としています。さらに処理温度を200℃にまで上げれば、ほぼ100%放射性セシウムを除去できるそうです。洗浄に利用する酸水溶液は、酸濃度の調整のみで繰り返し利用できるとしています。ここにははっきりと書かれていませんが、洗浄後の土は農地に戻せるということでしょう。廃棄物を大幅に減量できるということです。

除去した放射性セシウムの残渣は、どう処理するのか不明ですが、放射性セシウムの半減期はセシウム134が2年、セシウム137が30年と、ウランやプルトニウムなどに比べればはるかに短いです。セシウム134と137の存在割合はほぼ半々で、30年経てばセシウム134はほぼ消滅、セシウム137は半分になるので、現在の4分の1になります。100年経てばおよそ20分の1と問題のないレベルになります。ですので、どこかに埋設処理するということになるのでしょう。

DASH村の場合は小さな土地なので、やろうと思えばコスト無視で完璧に除染することは可能でしょう。しかし、テレビの影響力というものも考える必要があると思います。同じことを福島の農地すべてでできるとは限らないからです。どこまでやれば安全なレベルに達したと言えるのか、その判断の基準を視聴者に説明することを望みます。公的な基準に合わせるというのが無難だと思うのですが。