2011/06/04

太陽光・風力発電を大量導入するときの見えないコスト 2

前回の続きで、少々補足をします。
出力が変動する風力や太陽光のバックアップに、火力発電ではなく蓄電池を利用するという考え方もあります。夜間に風が吹き、その電力を昼間に使う、あるいは晴れの日に貯めた電力を雨の日に使う。スマートグリッドの考え方で、蓄電池の導入でバックアップの火力発電をいくらか減らせるかもしれません。しかし、火力発電を減らしてコストダウンできても、蓄電池を導入した分コストアップします。また、蓄電池はそれ自体が発電するわけではないので限界もあります。1週間ぐらいの間、「発電できるほどの風が吹かない」、「雨が降り続けた」、となればそもそも貯める電力がないわけで、結局、火力で代替するしかなくなります。

私はこれまで「電池社会」を提唱してきましたが、それは原発(と大規模火力)という安定供給できるベースロード電源があって、夜間に充電した電力を昼間に使うという構想でした。蓄電池が安くなり、電力供給にある程度余裕がある状態を想定していて、蓄電池が普及すればそこに風力や太陽光の電力も貯めればいいと考えたのです。揚水発電の場合は、ある程度まとまった変動しない電力でないとポンプを動かせないはずで、風力や太陽光の電力を入れるのは難しいですが、蓄電池ならふらふら変動する電力でも吸収できるわけです。もちろん、原発を火力で代替してもこの構図は成り立つわけですが、火力は化石燃料の価格と供給の両面からリスクを抱え込むことになります。この話はちょっと置いておきますが、現在のような需給がひっ迫している状況では、少なくとも蓄電池を導入すれば風力や太陽光が主力になれるというわけではないということです。

その一方で、風力や太陽光を大量導入するためには、蓄電池はやはり必要になってくるでしょう。むしろ蓄電池を利用する理由は、出力変動を抑えるためと考えたほうがいいと思います。電力のシステムというのは需要と供給がぴったり一致した状態に保たないと安定しません。需要に対して供給は多すぎても少なすぎても、停電は起きます。そのしくみについて安井至先生が下記のサイトで解説されています。

3.11以後のエネルギー戦略3

停電までいかなくても、需要に対して供給が多いと電圧と周波数が上がり、少ないと電圧と周波数は下がります。現実には、変動する需要に対して供給をコントロールする必要があるわけですが、供給側に位置する太陽光や風力が変動してしまうわけで、コントロールが非常に難しくなります。太陽光や風力のような変動する電力は、電圧と周波数の変動を生むのです。最近の家電製品はインバータが入っているので、電圧や周波数の変動は一般家庭にはあまり影響ありませんが、企業の製造工場では問題を起こします。製紙工場や繊維工場の糸や紙の巻き取り工程、アルミ工場の圧延工程、石油精製工場の分解・脱硫工程、自動車工場の溶接工程などで品質問題を引き起こすといわれています。日本の電力は品質が高く、ごく稀に起きる電圧や周波数の変動に対して対策するとなると、コストアップの要因になるので、対策をしていない企業も多いのです。電力系統に影響を与えないよう、発電した電力をいったん蓄電池に貯めて、オンデマンドで取り出せるようにすることで、出力変動を抑えようということです。電力の受け入れ先として、電気自動車の蓄電池を利用するという考え方もあります。

結局は、もし大量に導入しようと思えば、バックアップの火力発電も出力変動を抑える蓄電池も必要になるのです。少量であれば問題ないが、大量に入れようと考えると、こういったよけいなコストがかかるということです。今後、日本で原発の新規建設は不可能でしょうから、もはや「脱原発」は既定路線だと言えます。ならば、どうすれば原発を代替できるのかを冷静に議論したいものです。