2011/06/01

太陽光・風力発電を大量導入するときの見えないコスト

1つ前のエントリーで、揚水発電で電力不足分を賄えるかという話を書きましたが、いつのまにか供給量が積み増されていたようです。こういう「いいニュース」は大きく報じられないのですね。

東電5500万キロワット供給へ 夏の電力計画引き上げ

企業の自家発電の余剰電力や揚水発電所の稼働率向上、被災した広野火力発電所の一部復旧で、5500万kWにまで増える見通し。今夏が平年並みの暑さならギリギリ賄える水準です。ただ、東北電力は270万kW不足する見込みで、東電が100万kWを融通するそうなので、東電管内の企業に対しては15%の節電を求めています。25%よりは大幅に減りましたが、輪番操業などは必要になりそうです。

東芝は、東電管内の本社・支社で7〜9月にかけ3週間の夏季休日、東電管内の製造拠点は7〜8月にかけ2週間の夏季休日を設定するそうです。工場は半月休むということで、正社員は給料減らないかもしれませんが、会社側の負担は増えることになり、時給で働いているパートやアルバイトは労働時間が半分になり、給料は半額になるのではないでしょうか。

被災した東電、東北電の管内で電力の需給がひっ迫するのは仕方がないことですが、全国で定期点検のために停止した原発が、地元の反対で再稼働できなくなっているため、電力不足が全国に広がる気配です。

夏の電力切迫の恐れ 全国の原発54基中42基停止も

中部電力は浜岡を停止させられたので、需給がひっ迫し、東電へ電力を融通できなくなり、九州電力では玄界の運転再開ができず、需要ピーク時に20〜25%も不足。四国電力は伊方再開のために周辺の2万1000戸に戸別訪問するそうです。冷夏になれば別ですが、平年並みの暑さなら、全国で計画停電が必要になるかもしれません。私は関西への工場移転を提言しましたが、まさかこんなことになるとは。このままだと関西に移転してもダメですね。

前置きが長くなりました。

今回は、5月下旬に開催されたG8サミットで、菅首相が「2020年代の早い時期に再生可能エネルギーの比率を電力需要の20%にまで高める」「1000万戸にソーラーパネルを設置する」と宣言した件について、少々書きます。

経済評論家の池田信夫氏が以下のような記事を書かれています。

太陽光発電という「課税」

ソーラーパネルを1000万戸に設置するには、補助金と高額な電力買い取りで、国民負担が3兆5000億円増大するとのこと。補助金は天から降ってくるわけではなく、国民が収めた税金ですし、電力会社が高額で買い取れば、そのコスト増は電気代のアップで賄うしかありません。消費税の税収は1%で2兆4000億円ほどなので、1.5%分ぐらいが飛んでいくということです。しかも1000万戸に設置しても電力需要の4%ほどにしかなりません。この宣言について国会での審議はおろか、海江田経産相も「聞いてない」と答えたそうで、鳩山首相のときと同様、菅首相の独断のようです。

実は風力や太陽光の発電コストは上記だけではありません。出力が安定しない風力・太陽光発電の電力を需要の20%まで導入するには、バックアップの電源が必ず必要になるのです。

電力会社は夏場の電力需要のピーク時に合わせて発電設備の投資を行ないます。日本では夏以外の季節には需要は下がるので、多くの発電所は遊んでいることになるのですが、ピーク時に電力を供給できなければ停電が起きるので、そうせざるをえないのです。

しかし、日本では夏場に発電できるほどの強い風が吹かないことが多く、現実に日本の風力発電事業者の発電実績は冬場に集中しています。夏場は戦力にならないのです。一方の太陽光発電は、日中晴れなら発電できますが雨ならほとんど発電できません。一般家庭に導入する太陽光発電の場合は、自家消費でピークカットする効果があるわけですが、雨の日は電力会社から買うわけで需要が増加します。雨の日は気温が下がるので多少需要が落ちますが、企業の製造工場では天気に関係なく製造のための電力需要が発生するし、蒸し暑ければ一般家庭でエアコンが利用されます。東電の場合、企業など大口需要家と一般家庭の比率は7:3ぐらいなので、雨であってもそれなりに需要はあるということです。「雨が降ったので、今日は停電します」というのは、需要家にとってはありない話です。

大量に導入すれば、どこかで晴れていたりどこかで風が吹いていたりするので平滑化されて問題ないというのですが、「日本中で雨の日」はあるし、「日本中であまり風が吹かない日」はあります。いくら気象予測が正確・精密にできるようになったとしても、風が吹かない日は吹かないし、雨が降る日は降るのです。夏場のピーク時に1日でもそんな日があるのなら供給がショートするので、20%分だといっても、結局は代替する電源、すなわち火力発電所を用意しておく必要があります。

ですから、太陽光や風力を大量導入するには、その設備容量と同じ容量だけ火力発電所を建設しなければならないということです。今から順次導入していく分には既存の火力発電所があるのでいいのですが、将来的に火力発電所が老朽化してきたら、風力や太陽光のバックアップのために新規に火力発電所を建設しなければならなくなります。どれほど太陽光・風力が増えても、今と同じだけ火力発電所をもっておくということです。その建設コストも本来なら発電コストに上乗せされるはずなのです。

風力が普及しているヨーロッパでも、火力発電をバックアップに使っています。大陸で風が安定しているとはいえ、予測に逆らって急にパタッとやむことも現実にあります。いくら火力の起動は早いといっても、急な変動には追いつけません。だから、常に炉を炊いてアイドリング状態にしておくのです。量の多少はありますが、発電してもしなくても化石燃料は消費されるということです。炉を炊いているのに発電しないのですから、その燃料コストとCO2排出も本来なら上乗せされるべきでしょう。

つまり、風力や太陽光を大量に導入するには、見えないところでそういったコストがかかるということです。では、なぜ今は風力や太陽光の電力が入っているかというと、総電力需要に占める割合が極めて小さく、入っても入らなくても影響がほとんどないからです。

東大名誉教授の安井至先生は「日本では地熱と中小水力が最有力」とおっしゃっています。一定の電力を安定的に取り出せるからで、代替の火力発電や蓄電池がなくても戦力になるのです。資源エネルギー庁の「エネルギー白書2010」によれば、1kWあたりの風力の発電コストは10〜14円、太陽光49円、地熱8〜22円とされていますが、上記のコストを含めれば、風力と地熱のコストは逆転するのではないでしょうか。

Googleは地熱ベンチャーに1000万ドル投資しています。従来の温泉を掘り当てる方式ではなく、さらに深く高温岩体まで掘って、水を注入して温める方式です。掘るコストが高くつくのが課題で、その研究開発をしているわけです。もちろん、ベンチャーですから現段階では成功するかどうかはわかりません。