2011/06/09

携帯電話と放射線の発がんリスク

世界保健機関(WHO)が「携帯電話の電波に発がんリスクがある疑いがある」との分析結果を公表しました。14か国の専門家31人が議論し、5つの分類の内、3番目の「発がんの可能性がある」に分類。この議論では、「1日30分以上、10年以上使用すると、神経膠腫(グリオーマ)に罹患する可能性が40%高まる」という報告があったそうですが、明確に証明されたとまではいえないそうです。同じ分類には、「自動車の排ガス」や「コーヒー」、「クロロホルム」などが同程度の発がんリスクがある「可能性が疑われるもの」としてリストアップされています。排ガスやクロロホルムはわかりますが、コーヒーまで疑われているんですね。

GIGAZINEのニュースには、「ヨーロッパの環境庁は携帯電話が喫煙やアスベスト、鉛を含んだガソリンと同じくらい危険であるという研究結果を付け加えた」と書かれていて、「ヨーロッパの環境庁」って何?と思いつつ、「喫煙」と同じというのはちょっと煽り過ぎじゃないかと。

というわけで、今回は放射線被爆はどの程度の発がんリスクがあるのかについて。
産経新聞のサイトに放射能と生活習慣によってがんになるリスクという表(国立がん研究センター調べ)があり、それによれば「毎日2合以上の飲酒」は1000〜2000ミリシーベルトの被爆と同等、「喫煙」と「毎日3合以上の飲酒」はそれぞれ2000ミリシーベルト以上の被爆と同等とされています。100や200じゃないですよ、1000、2000というオーダー。「野菜不足」で100〜200ミリシーベルトと同等。短期的に1000ミリシーベルトも被爆すれば急性放射線障害を起こすほどですが、喫煙習慣はそれ以上です。先日、放射線医学が専門の大学教授にお聞きした話では、「タバコ1本吸うと5マイクロシーベルト被爆したのと同じ」だそうです。私の場合、1日1箱半(30本)吸うので、

5(マイクロシーベルト)×30(本)×365(日)=54750マイクロシーベルト

で、年間約55ミリシーベルト被爆しているのと同じ。喫煙習慣は20年以上続いているので、累積で1000ミリシーベルト超えています。非喫煙者より発がん率が50%ぐらい高まっています。いや、酒も飲むのでほとんど100%か。ということをタバコを吸いながら今書いています。

こういった数字は、広島・長崎の原爆とチェルノブイリ事故の影響調査から算出されたものです。広島、長崎に落とされた原爆で、1000〜2000ミリシーベルトの被爆をした30歳の人が、40年後に被爆していない同年齢の人に比べて、がん発症率が1.5倍になったことや、国連、国際放射線防護委員会(ICPR)が行なったチェルノブイリ事故による放射能汚染の影響調査で、年間10〜20ミリシーベルトの地域では25年経っても健康上の被害が何も見られないこと(ヨウ素131による甲状腺がんを除く)が判明していて、これらのデータとその他のタバコや飲酒、野菜不足などが発がんに寄与する影響を比較して、計算された数字です。この数字を見れば、放射線被爆が発がんに寄与する影響は、非常に小さいことがわかります。「運動不足」や「肥満」のほうが、500ミリシーベルトの被爆より発がんに寄与するのですから。

動物細胞を使った実験では、低線量の放射線でも害があることが確認されていて、それゆえに「わずかな放射線でも人体に害がある」と声高に叫ぶ人がいるわけですが、その一方で人間にはDNAを修復する機能があるとされています。だから、疫学調査では影響が数字に現れてこない。タバコや飲酒など他の要因が大きすぎるので、よほどたくさん放射線を浴びないと影響を確認することはできないわけです。

そもそも日本では自然被爆の量は平均で年1.5ミリシーベルトですが、世界にはブラジルのガラパリや中国の内陸部など年10ミリシーベルトを超えるような地域がたくさんあります。イランのラムサールでは年20〜30ミリシーベルトも珍しくなく、ひどいときは260ミリシーベルトに達するそうです。大気中に放射性物質が漂っているわけですから、当然、内部被爆もします。それで発がん率はイランの他の地域よりむしろ低いのです。まったく矛盾しています。

国立がん研究センター発表の「日本国民の生涯がん羅患リスク」によれば、男性で54%、女性で41%で、がんで死亡する確率は男性26%、女性16%とされています。普通に生活していても日本人の2人に1人はがんになり、その半数は亡くなるということ。がんというのは人間に組み込まれた病気で、どこまでも長生きすればいつか必ずがんを発症します。がんを発症する前に、老衰で死ぬか、他の病気で死ぬか、事故か何かで死ぬかの違いだけ。日本人は寿命が長いので、必然的に発がん率も高くなります。最近ではペットの犬や猫も死因のNO.1はがんになっています。家の中で飼われるようになって寿命が伸びたからです。家電製品でも永久に使い続けることはできないように、人間の体も劣化して誤作動するようになるのです。がんは老化現象の一種と言ってもいいでしょう。

それに、人が死ぬ原因はがんに限りません。前にも書きましたが、今も日本では交通事故で年間5000人も亡くなっています。平均で毎日13人が死んでいることになります。自分の意志で避けられるなら、交通事故なんて起きません。

むしろ「放射能が怖い」と過剰に恐れていると、ストレスは免疫機能を低下させるので、がんになりやすいともいわれています。チェルノブイリ事故では、放射性物質による健康被害よりも、「がんになる」とか「奇形が生まれる」とかいったメディアの過剰報道によるストレスが最大の被害をもたらしたともいわれています。テレビなどで「奇形が生まれる」と平気でしゃべっている人がいますが、「国連科学委員会報告2008年チェルノブイリ事故の放射線の健康影響について」の「ベラルーシの汚染地帯と非汚染地帯の先天性奇形の頻度」を見れば、線量の高い地域のほうが逆に先天性奇形の出生頻度が低いことがわかります。先天性奇形というのは、放射能汚染地域に限らず、どこの国でもある一定の頻度で生まれ、このベラルーシの数値は先進国と同程度か低いぐらいです。

災害時に恐怖を煽れば煽るほど、雑誌はよく売れるというのは出版業界では常識です。実際に恐怖を煽って大幅に部数を伸ばした週刊誌が何誌かあります。この未曾有の大災害のときでも商売優先のようです。

週刊誌の原発報道とどうつき合うか 佐野和美

恐怖に脅えている人々に対して「大丈夫だ」というのと、「大変だ、大変だ、人が死ぬ、奇形が生まれる」と大騒ぎするのとでは、どちらが勇気のいる行為だと思いますか。